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姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

昨日のデートの帰り道。
本当に些細なことで私は機嫌を損ねた。
このところ、Nちゃんの私に対する扱いが雑で、
そのことがずっとモヤモヤとしていたからだ。

夕闇迫った高速道路を走り帰路につく。
Nちゃんは一日の疲れが出たのか、とても眠そうで、
私なりに気遣いながら、Nちゃんを支えた。(つもりだった。)

その日の空のように、重く、湿って曇った空気を
払拭するために、私はつとめて明るく
「Nちゃん、大好きだよ」と、言葉を発した。

それで、重い空気が軽くなる予定だった。

なのに、彼は こう答えた。
「知ってる。」


本当に些細なことだし、何げなくチョイスした
言葉だろうが、私はとても気に入らない。
だから、以前にも何度も言った。
「『知ってる』って、言わないで!すごく腹立つから。
せめて『ありがとう』じゃない?そうじゃなくて、
『オレもだよ』とか。」


Nちゃんも疲れているのだろうが、私だって疲れた。
なのに、なんで、そんな可愛くない言い方するの?
些細なことだとは分かっている。
些細なことだから、余計に腹が立つ。

「『知ってる』って言っちゃダメ。」
精一杯、抑えてそう言った。

「じゃあ、 ありがとう。」

「何それ?」

「姫ちゃんが『ありがとう』って言えって言うから。」

「何それ?」
運転席と助手席の間で繋いでいた手を振り払った。

「『ありがとう』って言えなんて言ってないし。
それに、そう言えって言ったから言うわけ?」

「違うよ。ありがとう。」
呆れたように、感情のない声でNちゃんは言った。

「もういい!もう言わなくていいし。私も何も言わない。」
振り払った手に再び触れようとした彼の手をさらに大きく振り払って、
私は前を見据えた。

「姫ちゃん・・・」

「なに?」

「口がとんがってるよ。」

これ以上、何かを口に出すと、止まらなくなってしまう気がして、
私はプイッとそっぽを向いた。
助手席側の窓に目をやると、そこには彼の横顔が映る。

10分ほどの沈黙。
窓の外には、夕闇。雨粒がどんどん流れて飛んでいく。

「姫ちゃん・・・缶開けて。開けてくれないかな?」
Nちゃんは唐突にそう言った。

ふと、見ると、さっき買ったばかりの缶コーヒーを差し出された。
そっか、高速を運転しながらプルタブを開けるのはちょっと難しいだろう。

私は黙って、プルタブを開けて渡し、再び、窓の方を向いた。

「姫ちゃん・・・」
私は何も答えなかった。
ただ、窓に映るNちゃんの横顔を見ていた。
Nちゃんは私の膝に手を置き、手を探り当てて、私の手を握った。

最初はそっと、しばらくすると、指と指の間に指をすべり込ませて
ぎゅっと握った。言葉の代わりのように。

さらに10分ほど経った。
あと少しで到着する。
私が腹を立てさえしなければ、楽しい時間が持てたのに。
窓に映るNちゃんの横顔じゃなく、実物の横顔を見ることができるのに。
数十センチ隣にいるのに・・・

私はこんなにNちゃんのことが好きなのに・・・
そう思うと、腹立たしい気持ちがフッと消えた。
私はそっと向きを変 えて、前を向いた。

少しすると、Nちゃんは私が向きを変えたことに気付いて
「寝てなかったの?」と聞いた。

「寝てないよ。窓にNちゃんが映るからずっと見てた。Nちゃんを。」

「知ってるよ。」

「何で?」

「姫ちゃんのことは何でもお見通しだから。」

「何で?」

「大好きだから。」

「何で?」

「愛してるから。」

そう言って、手をぎゅっと握り返した。


些細で他愛もないことだけれど、
腹が立つことだってあるんだよ。ほんとに。
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Nちゃんと付き合って一年が過ぎた。
あっという間だったような、色々なことがあり過ぎて長かったような。
でも、どちらにしても、とても濃密な一年だった。

ものすごくエネルギーを使ったし、
私は全力で彼にぶつかったと思う。
そして彼も全力で受け止めてくれたような気がする。


この一年、お互いの想いをすり合わせては、衝突し、
ズレを修正してきた。
私はNちゃんに色々な期待をして、色々なお願いをした。
でも、叶わないことばかり。
叶わないことばかりが増えて、もう押しつぶされそうになる。


付き合って少し経った頃、私は「私がして欲しいこと」を
手紙に書いて、彼に渡した。
いくつのお願いを書いたか、もう忘れてしまったけれど、
叶っていないことのほうが、やっぱり多い。

そのお願いの一つに「朝から晩まで私にちょうだい。」があった。

というのも・・・
Nちゃんとのデートはいつもお昼から夕方まで。
たまに、「お昼一緒に食べようか」という時があるから、
正午前に逢うことはあるけれど、それでも夕方5時過ぎには
バイバイするので、そう遠くにも行けない。

そうなると、大抵、彼とのデートは
どこかに出かけるか、セックスするかのどちらかになる。
Nちゃんは土日のうちのどちらかはほぼ必ず、
私に逢う時間を作ってくれるが、どれも午後から夕方までの数時間。

それが嫌で嫌で。
毎回とは言わないが、たまには朝から時間を作ってくれてもいいのに、と、
彼に訴えたが、それは叶わない。

Nちゃんの家庭の事情は全く分からないけれど、
彼はほぼ全ての家事をしている。
掃除も洗濯も、片付けも買い物も。全部。
そこに、どんな事情があるのかは全く計り知れない。
「向こうはご飯を作るだけ。」と、付き合う前に言っていたのを覚えている。


「朝から逢ってくれてもいいのに。」
私がそうお願いすると、彼はこう言った。
「だって、午前中は家のことしないと。」

愕然とした。だって、毎週そうしてくれと頼んでいるわけではないのに。
Nちゃんはきちんとした人だから、規則正しい生活をしている人だから、
そういう毎日の習慣を変えようと思わないんだろう。
たとえ、私という存在がいても。
私はそこまでの価値しかないのかなとも思うし。


そういうわけで、彼と一日を過ごすデートは全然叶わない。
何度も何度も訴えて、訴え続けて、Nちゃんはようやくこう言った。
「平日に休みを取ってどこかに出かけよう。」

それが二か月ほど前だったろうか。
その後、忘れているふうではなかったけれど、休みを取ろうとしている様子もなく、
そのことについて、何か話題に上ることもなかった。

だから、日が経つたびに、だんだん悔しくて、悲しくて、
腹立たしくて。
そして、少し前に、私は彼にこうメールした。
「今、思いついたことがある。」

「なぁに?」

「このまま、年内に、お休みを取って私と遠くに出かけてくれなければ、」

「ば?」

「私はNちゃんのことを、たぶん、嫌いになると思う。」

「姫ちゃん!来週のどこかで休み取れないかな?木曜日以外で。」

なんだ、この展開の早さは???
「私が『嫌いになる』って言ったから?」

「そうじゃないよ。約束してたからね。」

「ほんとーに?」

「ほんとーに。」

ちょうど、その前の週、Nちゃんは土日とも出勤をしていたから、
休みを取りやすかったんだろう。


そういうわけで、今週の水曜日。
私はNちゃんと朝からデートをすることになった。


ずいぶん前にNちゃんにお願いをした。
「Nちゃんの匂いのするものを私にちょうだい。」と。

私は彼の匂いを嗅ぐのが好きだ。
ぎゅっと抱きついて、首元に鼻をこすりつけるようにして
Nちゃんの匂いを吸い込む。
「クンクンするの好き?」
「うん。好き!」
「くさい?」
「ぜんぜん。」

Nちゃんは汗臭くもないし、独特の男臭もしない。
ほんのかすかに、体臭を感じる。
Nちゃんのその匂いを嗅ぐと、ものすごく幸せな気持ちになる。
だって、すぐそばに感じられるから。

「何がいいかなぁ。枕カバーとか?」
「うん!」

そう約束したものの、Nちゃんはデートのたびに
そのことを忘れてしまっていた。

毎回、がっかりしては、結局、その程度なんだと
切なく思って、もう口に出すのはやめよう。もうあきらめようと心に決めていた。


昨日、デートの待ち合わせで、彼の車に乗ると、
彼は後ろの席から何かを取り出して、私に差し出した。
「はい。」
ジッパー付きの袋に入ったオフホワイトの布。

「わぁ!覚えてたの?もう忘れてるかと思った。嬉しい!」

「覚えてたよ。一か月洗ってないよ。でも、匂いしないよ。残念ながら。」
Nちゃんは残念そうに私を見た。

「ありがとう。嬉しい・・・」
私はすぐにバッグにしまった。


帰宅して、バッグから取り出したが、ジッパーを開けるのが
何だかもったいない。
自分自身がキレイになってからでないと、匂いが混ざるような気がしたのだ。

だから、入浴して、すっきりとしてから、封を開けて
枕カバーを取り出して、思いっきり吸い込んだ。
目を閉じながら、息が止まるくらい吸い込んで、
そしてゆっくりと呼吸を整えた。

Nちゃんの匂いだ。
Nちゃんの体温を感じながらクンクンしている時と同じ匂いがする。
Nちゃんの匂い・・・
そう思ったら、つい笑みがこぼれた。
嬉しくて、嬉しくて。


Nちゃんの匂いを何度も何度も吸い込んだ。
過呼吸になるくらいに。

そして、Nちゃんの匂いのする枕カバーを抱きしめて眠った。
このところ、気分が沈みがちで、体に力が入らない。
仕事に対するモチベーションも上がらず、調子が出ない。
そんな元気のない私に、Nちゃんは言う。
「姫ちゃんが元気ないと、オレも元気が出ないよ。
オレがいるよ。ずっといるから。」

それでも、沈んだ気持ちのまま仕事をして、
何とか日々を過ごしている。

先週の金曜日のこと。
仕事帰りに、スーパーで買い物をしていると電話が鳴った。
「姫ちゃん、元気出た?」
「うーん、、、分かんない。」
「そっかぁ。無理しないでね。大好きだよ。」
「うん、ありがと。」
「俺は今から帰るよ。姫ちゃんは?」
「今、買い物してる。」
「そっか、そっか。姫ちゃん・・・夜、時間ある?コーヒーでも飲もうか。」
「うん・・・ありがとう。」


私が沈んでいるのを察してくれたのだろう。
それにたまたまNちゃんにも時間があったのだろう。

一旦帰宅してしばらくして、いつもの喫茶店で待ち合わせた。
テーブルに向かい合って座り、他愛もない話をした。
他愛もない話をしながら、心がほぐれていくのが分かって、
私はぽつりぽつりと彼に心の内を話し始めた。

Nちゃんは静かに優しい目で私を見ながら話を聞き、
時々、言葉を発した。
「姫ちゃん、いいんだよ。頑張らなくて。十分やってるんだから。
姫ちゃんは自分が求める理想が高いんだよ。
十分できているのに、私はまだまだだ、って頑張っちゃうんだよ。
まだまだじゃないから。できているんだよ。」

彼の言葉につい涙があふれて落ちた。
Nちゃんは何も言わずに、おしぼりをそっと当てて
私の頬を両手で包んだ。

心の内を話しているからか、とめどもなく涙が流れる。

「姫ちゃんが頑張っているのはオレは知ってるから。」

「頑張ってないもん。全然。怠け者なんだよ。
40%くらいしか仕事してないし。」

「いいじゃん。十分だよ!!できる時に50%とか、60%にすればいいの。
頑張らなくていいの。それで、会社は姫ちゃんを認めているんだから。
誰も姫ちゃんが怠けているなんて思ってないよ。
オレの部下の女の子もそうだったんだけど、姫ちゃんと同じですごく真面目でさ、
もっと頑張らなきゃもっと頑張らなきゃって、追い詰めちゃうんだよ。
だから、姫ちゃんはそのままでいいの。」


今年の春ごろだったろうか、うつ病で休職していた彼の部下の女の子が
退職をした。とても残念そうに話してくれたのを覚えている。

私もかつて、病院に通い、治療をしていたことをNちゃんには話していた。
だから、私の傾向が何となく分かるのだろう。

Nちゃんの言葉に温かい涙が頬を伝う。
「よし、姫ちゃん車に行こうか。」

お店を出て、彼の車の助手席に乗った。
Nちゃんはすぐに私のほうに向いて両手を広げた。
私が身を乗り出すように彼の胸に頭をつけると、
「姫ちゃん、後ろに行こう。」と、言った。


後席で、Nちゃんは私を包むように抱いた。
彼の胸の厚さ、腕の筋肉を感じながら、しがみついて、
私は声を上げて泣いた。ワァーワァーと。
「いいよ。いっぱい泣いていいよ、姫ちゃん。」

これでもかというくらいにしがみつくと、
Nちゃんも私をこれでもかというくらいに抱きしめた。


Nちゃんに包まれているんだと思ったら、また嗚咽が漏れた。
近々、Nちゃんの職場で大きなイベントがある。
その前日は関係者だけが招待されるらしい。

そのイベントはとても混雑するので、私ははなから行くつもりはない。
そもそも特に興味もないし・・・

そのイベントの準備に彼は忙しいようなのだけれど、
先日、唐突にこう言われた。
「姫ちゃん、今度、オレの職場に来る?」

「何で?」

「イベント前日はさぁ、名前書いて申請すれば、関係者として招待されるんだ。」

「ふーん、、、」

「興味ない?」

「うーん、っていうか、Nちゃんと一緒に居られるわけじゃないんでしょ?」

「いや、申請した人が案内役になるんだ。
だから、オレが姫ちゃんを案内しないといけない。制服着て。」

「え!行く行く!!!」

「アハハ・・・声が変わったね。」

「えー、だって、嬉しいもん。制服のNちゃんを見られるんだもん。」

「申請締め切ってるかもしれないけど、まぁ、期待しないで待ってて。」


そして、翌日。
「ごめん・・・姫ちゃん。申請締め切ってた・・・(>_<)」


というわけで、残念ながら、招待は見送りになってしまったけれど、
でも、すごくすごく嬉しかった。
また、いつか、凛々しいNちゃんの姿を見られることを楽しみにしよう。


じかに彼の制服姿を見ることが叶わなかったからか、
昨日、「今から朝礼だよ。」と、送られてきたメールには
制服に身を包んだNちゃんの写真が添付されていた。