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姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

日曜日のデートは本当に楽しかった。
久しぶりにリラックスしていたと思う。

不安な気持ちも、切ない気持ちも
ネガティブな気持ちなんてまるでない、ただただ
とにかくほのぼのとした穏やかなひと時だった。

月曜日の夜、Nちゃんとメールを交わしていると、
「昨日一緒に歩いたことを思い出してたよ。楽しかったね。
仲良し夫婦だなぁ~って。」


Nちゃんがそんなふうに思ってくれていることが嬉しくて、
加えて「夫婦」という言葉に、つい、涙がこぼれた。
絵空事だけれども、でも、嬉しかった。


毎日、Nちゃんと一緒に過ごせたらどんなに楽しいだろうと
思ったら、また涙がこぼれた。

「姫ちゃんがオレの腕につかまってくれるのが好きなんだ。」



彼は愛情を持て余していたんだろうな・・・
誰かに向けたくて向けたくて。

そう思って、少し複雑な気持ちになりながら、
その対象が私で良かったなと思った。
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Nちゃんは本当に優しい、と私は思う。

私の気分が沈んでいることを察知しているのか、
少しでもチャンスがあれば電話をかけてきてくれる。
オヤスミの電話はほぼ毎日あるから、多い時だと
電話は二回、三回とある。

メールは少なくて20往復、多い時だと50往復する。
他愛ない言葉だけれど。
でも、それだけ、私に時間を費やしてくれているわけだから
本当にありがたいと思っている。申し訳ないとさえ思う。

それでも、私は「さびしい」とNちゃんに言ってしまうのだから、
なんとワガママなことか。


おはようのメールには毎朝、「愛してる」を欠かさない。
今朝も「姫にとって素敵な一日でありますように。
今日もいっぱい愛してる。」と、ハートがいっぱいのメールが届いた。

「ありがとう。Nちゃんも良い一日でありますように。」
と、返すと、

「愛してる??」
と、すかさず返信があった。



Nちゃんの私に対する愛情表現は最初のころから
ずっと変わりない。むしろ、より深く丁寧になっている。
私がそうして欲しいと求めるからでもあるだろうが、
きっと元々、彼は愛情表現が豊かな人なのだろう。


前に尋ねたことがある。
「今までもこんなふうに言ってきたの?」

「うーん、、、好きになったら一直線なんだ。
好きになられるのはちょっとダメなんだけど、
自分から好きになると、すごく好きになるんだよ。」


なるほど、、、




今日の夕方、
「お疲れさま。今日は19時から同期の送別会なんだ。行ってきます!」
と、メールがあった。

そっか、、、お出掛けかぁ、と返信をためらっていたら、
少しして電話が掛かってきた。

「姫ちゃん、今から行ってくるよ。月がキレイだよ。
姫ちゃんも気をつけて帰ってね。帰ったらメールするからね。愛してるよ。」

Nちゃんのまっすぐな愛情表現を嬉しく思った。
でも、、、
「愛してるよ。」に、思わず、フッと、笑ってしまった。

照れ臭かっただけではない、
何というか、、、

(そんなこと言ったって、言葉だけじゃない、)って、思ったのだ。
そう言えば、金曜日の夜のこと。
一年を記念して逢った甘い甘い夜。
Nちゃんの車の後席に二人納まっていろいろな話をした。
話はキスやハグで時々途切れたけれど。

「ずっと好きだよ、姫。」

「うん、ありがとう。私、こんなにグズグズ言うのに?いやにならないの?」

「ならないよ。あー、またグズグズ言ってるって思うだけ。」

「全然違うこと考えてるんでしょ?あぁ、腹減ったなとか、何食おうかなとか?」

「アハハ・・・そんなことないよ。
どうやって火を消そうかなって考えてるよ。オレ、ファイアファイターだから。」

「そうなんだ。火をつけてるのはNちゃんのくせに?」

「まさか??」

「もうっ!!」


そっか、NちゃんはFirefighterか。
なんて頼もしい!!
昨日の日曜日、Nちゃんとデートをした。
昼下がり秋晴れの空のもと、手をつないで古い街並みを歩く。

彼の手はいつも温かく、握った手はじっとりと汗ばむ。
それでもつないだ手は絶対に離さない。
どんな時も、Nちゃんは私の手を離さない。


普段は静かだろう街道は、この日は人でいっぱい。
大勢のあふれかえる人の中、私は彼と一緒にいる。
そのことが嬉しくて、そっとNちゃんの横顔を見た。

ふと、人波が途切れると、顔を近づけてキスをしてくる。

「もうっ、なに?」

「ダメ??いいじゃん、別に。」

彼と一緒にいると本当に楽しい。
昭和匂いのただようくだらない小ネタを挟んでくるNちゃん。
おかしくて、おかしくて笑いがこらえきれず、彼の肩に顔を埋めた。

どれくらい歩いただろうか、、
足が疲れて、思わず「おんぶーー」と彼の手をぐいっと引っ張った。

「オッス」と言いながら、Nちゃんは私の背後に回り込む。

「なに?違うでしょ。私はお姫様なんだよ。
Nちゃんが私の前に回って、腰を落とすんでしょ?」

「え?そうなの?」

そんな他愛もないことが楽しい。
オープンギャラリーになっている街並みを歩いて、
いろいろな発見をしては、二人で笑った。

そして、また私は「おんぶ!」と言った。
Nちゃんはまたしても背後に回り込んで、私の肩に手をかける。

「違うってば!Nちゃんさぁ、体重何キロ?」

「えーと、70くらい。」

「正確には?」

「72?」

「ほらぁ、デブじゃん。そんなデブを私がおんぶしたら、
可哀想でしょ?可哀想すぎでしょ?」

「デブって、、、」
彼が不服そうに自嘲気味に笑った。

Nちゃんの名誉のために言っておくと、彼はデブではない。
まぁ、ガッチリした体型だ。しがみつくには頼りがいがあってちょうど良い。


そんなことを繰り返し、元の場所まで戻ってきた。
「あぁあ、おんぶしてくれなかった。ケチだ。」
私がふくれっ面をすると、

「しょうがないなぁ。」
そう言いながら、彼は腰を落とし後ろ手で手招きした。
彼の車は目の前に見えている。

私は彼の背中にしがみついて腕を回した。
温かな彼の匂いを吸い込みながら、首筋にキスをする。

「はい、到着。」

車に乗って、Nちゃんにお礼を言った。
「たった10歩だけだけど、おんぶしてくれてありがとう。」

「いや、30歩はあったでしょ?」

「全然ないですー。10歩です。」



コーヒーショップの駐車場に車を入れると、すでにNちゃんの青い車があった。
私が車をとめると、彼は車から降りて、私を待ってくれていた。

そうそう、一年前のあの時もこうだった。
私が車を降りるのを、じっと見つめていたっけ。
あの時と同じ顔。
違うのは、私がニコリと笑って、手を振ったこと。
そして、車から降りた私にすぐに手を差し出したこと。

テーブルに向かい合って座り、一年を振り返った。
「あの時はね・・・」

私がどんなことを思っていたか、彼がどんなことを思っていたか。
テーブルの上で手を重ねながら、時にてをのばして頬に触れながら
いろいろな話をした。

目の前のNちゃんがたまらなく愛おしかった。
彼もきっと同じように想っていたと思う。
何度も何度も「愛してるよ、姫ちゃん。」と言ったから。

2時間ほど話して、お店を出た。
一年前と違うのは、お店を出てバイバイせずに、
当たり前のように、二人でNちゃんの車に乗ろうとしたこと。

私がNちゃんの車の助手席のドアに手をかけると、彼は言った。
「姫ちゃん、後ろ。」

Nちゃんは後席のドアを開けた。
そして、二人で後席に納まると、彼は腕を広げて私を胸に抱いた。
しっかりと、強く。力いっぱいに。
「姫ちゃん、大好きだよ。愛してるよ。」

Nちゃんは眠いのか、珍しく私の胸に頭をもたげた。
私は彼の頭を抱きかかえるように受け止めて、頭を撫で首筋に口づけた。
「姫ちゃん、大好きだよ。ずっとずっと一緒にいたいと思ってるよ。
だから、ずっと元気でいて。元気でいないと、何もならないと思うんだ。
お金じゃない。元気じゃないとさ。姫ちゃん・・・オレのために、元気でいて。
ずっとオレのそばにいて。オレも元気でいるから。姫ちゃんのそばにいるから。」

Nちゃんはいつになく、まっすぐに私を見つめて言った。

「うん。いつか一緒にいられる?一緒に眠って、一緒に起きて、
一緒にまた眠るの。」

「うん。そうだよ。だから、そのために元気でいなきゃダメなんだよ。」

「私、Nちゃんとしたいことがいっぱいある。一緒にお買い物に行ったり、
私が作ったご飯を食べたり、一緒にお風呂に入ったり、私が疲れてお風呂に入るのイヤだとか
言ってると、無理やり連れていかれたりとか。」

「よく分かってるね。」

「朝も起きたくないって言ってると、無理やり布団はがされそうだし。」

「そんなことしないよ。いっぱいキスして起こしてあげる。」

「うん。あ、それからね、二人で犬を飼う!!」

「犬?ダメだよ。」

「何で??二人で可愛がりたいの。」

「ダメ。そのうち、姫ちゃんオレのことより犬のほうしか可愛がらなくなるから。」

「ヤキモチ?」

「姫ちゃんはオレだけを見ていて欲しいの。」


それから、ずっとそんな甘い時間を過ごした。
言葉にしなくても、何を考えているのか、何が言いたいのか、
手に取るように分かった。
離れがたく、私が体を離すと、Nちゃんは私を引き寄せて舌を絡めた。

時刻は11時を回った。
「さ、帰ろうか。姫ちゃん。もうこんな時間だ。」

どれだけ、甘い時間を過ごしてもキリがなかった。
際限なく続くから。
Nちゃんと付き合ってちょうど一年。

「オレと付き合ってくれませんか?」
そうはっきりと言われて、「はい。」と答えたのが、
去年の10月24日だった。


名前間違え事件以来、Nちゃんからはオヤスミの電話以外にも
電話が掛かってくる。
仕事終わりの帰り道に、買い物に行く道すがら、
ガソリンを入れに行く途中に・・・
私のことを気にしてくれているんだろう。
水曜日も木曜日も3回も電話がかかってきたのだ。

「姫ちゃん、週末の予定は?」
木曜日に彼が聞いた。

「土曜日も日曜日も何もないよ。」

「じゃあ、土曜日は出掛ける予定があるから、日曜日にデートしよう。」

「うん。」
と、返事をして電話を切ったけれど、実はちょっと切なくもあった。

土曜日は24日。ちょうど一年の日だから。
心の中で何となく、Nちゃんも気にしてくれていると思っていたから。
だから、電話を切って少ししてメールを送った。
「あのね・・・ホントはね、土曜日に逢いたかったんだ。
土曜日はNちゃんとちょうど一年になる日だから。」

すると、すぐに返事が来た。
「じゃあ、金曜日の夜に逢うのはどう?
あの日は金曜日の夜だったでしょ。だから、金曜日の夜にしよう。」


そんな反応があるとは思わなかったので、嬉しくて、嬉しくて心が騒いだ。
それに、このところ、金曜日の夜に逢うことはままならず、
きっと、色々と予定があるのだろうと、私から誘うのもはばかられていた。
だから、余計に嬉しかった。

「いいの?」

「もちろん。」


そして、金曜日の夜、Nちゃんと二人きりで初めて逢った
コーヒーショップで初めて逢った時と同じ時間に待ち合わせをした。
先日の名前間違え事件。
そのことを締めくくるとき、私は言った。
「分かった、Nちゃんを信じる。許す。
だから、始末書書いて!!!私にお手紙書いて。」

「はい・・・わかったよ」

それっきり、その話はしなかった。
全くの不問にしたので、私からは何も言わなかった。

だから、もう始末書のことなんて忘れていると思っていた。
Nちゃんはすぐに忘れるから、何でも。
ささいなことも、そうでないことも。

一昨日の金曜日の夜、Nちゃんから「はい」と手渡された封筒。

「覚えていたの?」

「もちろん。当たり前でしょ。」

「忘れてると思った・・・」

「まさか!」



帰宅して封を開けて読んだ。
Nちゃんの愛おしい文字。

「これまで色々と姫ちゃんにはご迷惑をおかけしましたが、
姫ちゃんの愛と、私の愛で仲良く過ごすことが出来ました
・・・・・次の年も、また次の年もそのまた次もずっと、
姫ちゃんにラブレターを送ります。」

最後に記されたNちゃんのフルネームを見つめて、
Nちゃんを静かに想った。


今日は一日体調がすぐれない。
昨日の爆弾投下のせいか、それとも生理が始まったせいか。

そんな私を尻目に、Nちゃんは普段と変わりない。
いや、むしろ慎重なのかもしれない。


夕方、仕事帰りには必ず「今から帰るよ。」のメールをしてくれる彼。
今日は、私が帰宅するのにちょうど車に乗った時で、
「私も今から帰るとこ。」と、返した。

しばらくして「ただいまー」と彼。

夕飯の買い物を済ませ、再び車に乗り込むと
電話が鳴った。
「姫ちゃん、体調大丈夫?無理しないでね。
オレは、今、職場から呼び出しがあって向かうとこ。
行ってくるね。」

それが19時前のことだった。
基本的にNちゃんは残業がないし、土日はお休みだ。
でも、たまに、こうして夜や休日、突然出勤することもある。
不測の事態が発生しているのだろうと思われる。

そっか、、、仕事か。
だから、私は彼からメールがあるかないか、気にすることもなく、
家事を済ませ、入浴もした。

そろそろ帰ってくるかなぁ・・・と思いながら。

でも、何の連絡もなくて、だんだん不安になってきた。
○ちゃんのことが頭をよぎった。

そんなはずはないんだけれど、やっぱり気になった。

本当は仕事なんかじゃなく、出掛けているんではないか、
私と過ごせない時間は他の誰かに与えられているんではないか、
次から次へと、そんなありもしないことを想像した。

信じなきゃ・・・
Nちゃんはそんな人じゃない。
嘘をつくような人じゃない。私をこんなにもまっすぐに想ってくれている。
不安をかき消すように、そう思った。


そして、ついさっき、電話が鳴った。
「姫ちゃん、今から帰るよ。具合はどう?」

「Nちゃん、お疲れさま。・・・さみしかった。」

「ごめん、ごめん。体調はどうかな?」

「うん、ちょっとしんどいかな。」

「生理だからかな?」

「うん、そうかな。Nちゃん、さみしかった・・・」

「ごめん、って。姫ちゃん、空が曇ってるよ。星見えないなぁ。」


私がさみしいと訴えることに、「ごめん」と言うNちゃん。
そんな彼をやっぱり信じなきゃと思った。

私の不安を感じて、こうして電話をかけてくれるのだから。
私を想ってくれているのだから。
少し前の記事「由々しき事態」に書いた名前間違え事件。
それがまたもや発生した。
昨日のことだ。

根性を叩き直そうと、素直に、素直に、Nちゃんに接しようと心していた私。
いい感じでラリーのようにメールが交わされていた。
軽口ばかりが続いたので、態勢を立て直そうと、私はこう送った。
「Nちゃん、好きだよ。」


数分して返ってきたメールを見て目を疑った。
「ありがとう。オレも○ちゃんが大好きだよ。」

一瞬、見なかったことにしようと思った。
人間、不都合なことには目をつぶりたくなるし、なかったことにしたいものだ。
でも、衝撃は相当だったようで、心の波紋はどんどん大きくなっていった。

だから、そのメールをそのまま引用して、
↑をつけて、「誰?」と返した。

○ちゃんって、誰よ?

しかも、その「○ちゃん」は由々しき事態の時と同じ名前。
私の名前とまったく似ても似つかない。共通するのは「へん」だけ。


そしてNちゃんからすぐに返信があった。
「また間違えた・・・ゴメンなさい。姫ちゃんの間違いです。」

だから、私は「信じられない・・・」と返した。

すぐに電話が鳴った。
「ごめん、姫ちゃん。間違えて。」

「信じられない・・・」
そう言って、私は黙った。

「ほんとだよ!間違えただけ。」

「間違えないよ、普通は。間違えようがない。」

「同期に○ちゃんがいるんだよ。昼にメールをしていたから
入力の候補に残っていたんだよ。出るでしょ、下に、候補が。
同じへんだし、似てるじゃん。急いで送ったから。間違えたの。」


そうか・・・○ちゃんは実在するのか。
同期と言ったか、同僚といったかはもう忘れた。
同僚ならメールをする必要がないだろうから、同期なのか・・・
また、男性か女性かも、そういえば聞いていない。
あえて言わなかったということは、女性か。
○は、男性にも女性にもある名前だから。
男性なら、男性と言うだろう・・・と、私は思う。
 
入力補助で、ある言葉を打つと先読みして以前に打った言葉が
一覧で出てくる、たぶんその機能の選択ミスなのか。
百万歩譲れば、そう取れる。
「オレも」の後に「○ちゃん」という言葉を入力したのだろう。
良かった「好きだよ、」の後じゃなくて、まだ。


単なるミスだと信じたい。いや、そうだろう。
Nちゃんは誠実な人。そんな大胆なことができるとは到底考えられない。
でも・・・
「○ちゃん」は実在するのか。


理解しようと、信じようと思えば思うほど、心に受けた衝撃の波紋が広がって
「うん、分かったよ。信じるよ。」という言葉が出せなかった。
喉元でつっかえたように「信じるよ」という言葉が出てこないのだ。


私はほとんど沈黙していた。
何も言えなかったから、黙っているほかなかった。

「姫ちゃん・・・ごめんね。本当にごめん。嫌な思いさせて。
でも、ほんとに間違えただけなんだ。嘘じゃないよ。」

「・・・でも、間違えないよ、普通・・・」
消え入るように言葉を発した。
信じたいという思いと裏腹に、心の波紋がそう発したのだ。

「・・・姫ちゃん。許して。信じてくれないかもしれないけど、本当なんだ。
嫌な思いをさせてごめん。オレが悪いんだ。もう二度と間違わないから。
でも、許してくれないなら仕方ない・・・オレが悪いんだから。
姫ちゃんは何も悪くないんだから。本当にごめん。」

「でも、間違えないし、普通。もし、私が同じことをしたらどう?
きっとNちゃん、すごく嫌な思いをすると思うよ。」

「分かるよ。オレもそう思う。嫌な思いをすると思う。
だから、オレが悪いんだ。本当に申し訳ないと思ってる。」


それから、Nちゃんは何度「ごめん」と謝っただろうか。
沈黙と、ごめんが続く。

終わらせなきゃ・・・そういう思いで、
私は心の波紋を止めて、「分かった。信じる。」と言った。

「ありがとう、姫ちゃん・・・」

「私が信じて、Nちゃんの良心は痛まない?」

「痛まないよ。」

「うん・・・」

「姫ちゃん、大好きだよ。本当だよ。」





何度も何度もごめんを聞いたけれど、納得しきれないまま
眠ったからだろうか、悪夢を見た。
朝起きて、「あぁ、夢か・・・夢だったんだ。」とホッとした。
すっかり内容は覚えていないけれど。
根性を叩き直すべく、Nちゃんのメールには丁寧に返信している私。
だから今日のメールは往復50通。

お昼、Nちゃんはいつも「お疲れさま、お昼だよ」とメールをくれる。

私はこのところの不摂生で、ぜい肉が付きすぎている。
昨日はいた秋物パンツのウエストがきつく、一日苦しい思いをした。
今日もそう。ウエストがきつい。

そうだ、ダイエットだ!!!

お昼だよー、のメールに私は
「今日からダイエットする。大豆を食べるよ。
ウエスト周りがヤバいです。」と、送った。


「えー、姫ちゃん、ダイエットする必要なんかないでしょ。
姫ちゃんはスタイルいいんだから。それ以上痩せたら、抱き心地が悪くなる。」
Nちゃんからのメールに私のニヤニヤが止まらなかった。

・・・恥ずかしい(≧◇≦)

「いやいや、このままだと、マジでヤバいんです。」

「姫ちゃんはスタイルいいから。適度なムチムチは魅力的なんだよ~
痩せちゃダメ。」


そんなメールにニヤニヤしながら、私は仕事をした。
日曜日、微妙な空気の中、デートをした。
ハンドルを握るNちゃんはほとんど口を開かない。

ただ、時々、視線を交わして、お互いを確かめた。
Nちゃんが、私の手を取り、ぎゅっと握る。
言葉はないけれど、言葉以上に伝わるものがあった。


陽が落ちて西日が眩しい。
ふと、隣を見ると、眠そうな彼。
「めっちゃ眠い・・・」

何も話さないから、余計に眠気を誘ったんだろう。

「どうしたら眠くならない?」

「どうしても眠い。」

「うーん、、、じゃあ、どうすると少しは嬉しい?」
そう言いながら、私は運転席のNちゃんの太腿に手を置いた。

微笑む彼。
そして、私の手を取ると、膨らみに当てた。

チノパンの上から触ると、徐々に形が浮き上がる。
そっと、でも、指先に力を入れて、撫でた。
先端まで行くと、今度はスッと力を抜いて根元まで指をずらした。

「ぁあ…気持ちいい…」

「どのくらい?」

「うーん、、、かなり。」

Nちゃんはハンドルを握ったまま、硬くなった。
まっすぐに前を見ながら、息を漏らす。
「ぁふっ…」

「ん…気持ちいい・・・ぁふっ…」
同じことの繰り返し。何度も何度も。
堂々巡って、同じ場所に戻っては、そのことを忘れて、
また同じルートをたどって巡る巡る。


相も変わらず、私はNちゃんに対してやらかしている。
もう何から書いたらいいのか分からないくらいに。


でも、改めて知った。
気持ちは呼応するのだということを。
欲しい欲しいと求めてばかりではダメなんだということを。

Nちゃんは変わらず優しく、穏やかだけれど、
私がトゲトゲしていれば、そりゃ、面白いわけがない。
楽しいわけがない。私を受け止めてはくれるが、愛おしいと思えるわけがない。
受け止めることで精一杯だろうから。

昨日のこと。
以前と比べてただ優しいだけではないNちゃんに私は言った。
「Nちゃん、最近、私の扱い方が雑だよ。」

すると、彼はこう返した。
「それは姫ちゃんが、オレに対してそうだからじゃない?」


うん、確かに。その通りだ。
ずっと、Nちゃんに対して、私はいわれのない不信感ばかりぶつけ、
そっけない態度で、彼を試すことばかりしている。

やったことは必ず返ってくるんだ。

猛省だ。

Nちゃんはこんなにも優しく、私をまっすぐに受け止めてくれるのに、
私は一体何なんだ。
根性がねじ曲がっているんだ。


日曜日にデートをした時に「ごめんなさい、、、」と言った。

彼は答えた。「ぜんぜん」と。
そしてつづけた。
「姫ちゃんが謝りたいと思うんなら、謝ればいい。
オレは何とも思ってないから。」

フラットな表情でNちゃんはそう言った。

けれども、彼は十分に疲れているはず。
私は彼に何も与えていないんだもん。

Nちゃんは言った。
「姫ちゃん、素直になりなさい。何で素直になれないの?」

「だって、癪に障るんだもん。」

「損するよ、そんなんじゃ。」



確かに、私は素直じゃない。
ものすごく嫌な女だ。可愛くもなんともない。

「嫌いになる?」

「ならないよ。ならないから。姫のこと全部好きだよ。愛してる。」
Nちゃんはそう言って、私を柔らかく包んだ。


Nちゃんには教えてもらうことばかり。
私は計算ばかりしている。しかも、間違ってばかり。


だから、今日から改める。
根性を叩き直すんだ。


絵文字がいっぱいのNちゃんからのメールには
同じようにキラキラのメールを返そう。

「愛してる」には、なんで?や、ありがと、ではなく、
「わたしもNちゃんが大好きだよ。愛してる。」と返そう。


そして、知った。
そういう気持ちは呼応するのだと。
ドタキャンデートは月曜日に無事振り替えられ、
まぁ、それなりに事態は収束した。

でも、私の中では全然収束なんかしておらず、モヤモヤしたまま。

Nちゃんは「愛してる」、「大好きだ」、「一番大事」
そう、私に言うけれど、所詮、私は、その程度・・・


私は、Nちゃんを好きになる方法を間違えたんだ。
私のとらえ方や、私の考え方や、色々が間違っているんだ、と。


連休明けの火曜日。
仕事から帰って、夕飯の片付けを終えた、その時に
「姫ちゃ~ん、大好きだよ」と、メールが届いた。

だから、私はこう返した。
「じゃあ、今すぐキスしに来て。」

すると「ひーめーちゃーん・・・(^_^;)」と当たり障りのない
メールが届いたので、


『やっぱりね、、、所詮、その程度なんだよね。』と、送った。

「今すぐキスしに来て」も、「所詮、、、」も、
何気なく、深い理由もなく、つい送ってみただけなのだけれど、

すぐに、彼からは「分かったよ。今から行きます。」と返ってきた。


焦った・・・
なんか、私が超ワガママみたいじゃないか。(事実か。)

すぐに、「いいよ、言ってみただけだから」と送ると、
電話が鳴って
「姫ちゃーん、どっち?」

「えーっと、、、逢いに来てくれたら嬉しいけど、、、モゴモゴ、、、」

「どこ行けばいい?図書館でいい?」


そして、Nちゃんは高速を二区間走って、私のもとに来た。
「ありがとう、Nちゃん、、、」

「まぁ、所詮、この程度なんでね。」
勝ち誇った顔で、彼が言う。

「それ、ずっと言うんでしょ?」

「所詮、この程度なんでね。」

「もうっ!!」

「まぁ、まぁ、姫ちゃん、あきらめな。
しばらく、ほとぼりが冷めるまでは。」

そう言って、Nちゃんは優しい目で私にキスをした。
「キスしに来たよ。」
そんなわけで、ドタキャンを喰らった私。
そうか、それならと、遊びに行った。

心の中でチッと舌打ちをして、
Nちゃんには何の連絡もせずにいた。

彼から「雨が降ってきたね」という
私の様子伺いのメールもスルーし、
オヤスミのメールもスルーした。


日曜日の朝、
「おはようございます。、お仕事気を付けてください。」と、敬語のメール。

だから私も「おはようございます」と、返した。

仕事が順調に終わったこともあって、気持ちが随分と軽くなった私。
オフィスを出る時、「終わったよ」と、にこやかにメールをしようか、
どうしようか、迷っていると、ちょうどそのタイミングで

「姫ちゃん、仕事お疲れさまでした。気を付けて帰ってね。」とメールが来た。

私がこの時間になることを予想していたのだろうか。
優しさと穏やかさに満ちたそのメールを前に、
私は、そうか、そうか、じゃあ、許そうと心に決めた。
アレコレ細かい事件があり、すっかり記事を更新できずにいました・・・


先週のこと。
私は日曜日に仕事が入っていて、そのことは
前々からNちゃんに伝えていた。

だから、先週の金曜日に
「日曜日は仕事だったね。では、明日デートしてください。」
と、連絡をもらっていた。


・・・のに、土曜日、ウキウキ気分でお化粧をし、身支度を整えて
待ち合わせ時間までを過ごしていたところ、

「姫ちゃ~ん、ごめん。デートは月曜日にしてもいいかな?
子供の用が急に入った。」

と、メールが届いた。
待ち合わせの20分前のことだ。

「ゼッタイにイヤだ!!!」と、食い下がってみたけれど、
結果はもう明らかなわけで、
しまいには、電話が掛かってきて、

「姫ちゃん、駄々こねないの。」
と、言われる始末。



結局、こうなんだよな、、、
彼は私を「後回しになんかしてないよ」と、いうけれど、
こうなるんだよ。



それが、先週のこと。
ずっと、気になっていたことがある。
やらなきゃ、やらなきゃ。
いつかは、やらなきゃ。

そのことを、今日、完了させた。

数年前、もう3年ほど前になるだろうか。
ひろの誕生日にiPadをプレゼントした。
ちょうど、ひろが大病を患い、二度目の入院を控えていた時のこと。
ひろの好みにカスタマイズし、アプリを入れ、贈った。

映画好きのひろが喜ぶように、
入院中の退屈しないように、さびしくないようにと、huluを契約した。

私名義で契約したひろのアカウント。
それからずっと私の口座から毎月の支払いが引き落とされている。

ひろと付き合っていたころは毎日のようにお昼ご飯を一緒に食べ、
日曜日もお店が休みであれば、晩御飯も一緒に食べた。
仕事帰りにお店に寄って、遅くに近所の割烹やらお寿司屋やら
焼き鳥屋に行って一杯飲むことだってあった。
お酒を飲んだらタクシー代だって払ってくれた。
数年前からは私と過ごすためだけにワンルームも借りてくれていたし、
その経済的負担は、少なくはなかっただろう。

そのことを当たり前だと思ったことは一度もないし、
感謝していた。ただ、愛情の丈だと解釈してはいた。

そんなひろに対する私のささやかな返礼の気持ちを込めて、
huluを契約したのだ。

デジタルが全くできないひろに代わって取得したアカウント。
iPadのhuluにログインするたび、「○○○○さん」と、私の名前が表示された。



ひろとお別れしたのが去年の夏。
それからも、いつかは・・・と思いながらずっとそのままにしていた。
もやもやはしていたが。

それを、今日、思い切って区切りをつけたのだ。
携帯のメモ機能に残してあるひろのアドレスと、パスワードを使ってログイン。
リアルタイムの視聴履歴が表示された。

・・・今も、毎日のように習慣のようにhuluを観ているんだ・・・
「こんにちは○○さん」と、ログインするたび、私の名前を横目に。

解約手続きを続行しますか?のチェックボックスにチェックして
手続きを完了させた。
「このアカウントは10月13日以降は無効となります。」



ひろはデジタルが全くできないので、
突然、ログインできなくなるとどうしようもなくなるだろう。

それにiPadを活用しているとは思えないから、
今はほとんどhuluを観るくらいじゃないだろうか。
だから、huluにログインできなくなると、きっと、何もせぬまま放置されるだろう。
誰かに、何かを尋ねて、huluの新しいアカウントを取得するとも思えない。

これでいいんだ。
いつかはしなきゃいけないことだから。
いつまでもこのままではいられないから。

そう自分に言い聞かせて、ログアウトした。
秋映(あきばえ)という品種のリンゴをご存知ですか?

暗赤色というか、黒っぽい紅色のリンゴで、
この時期、一か月ほどしか出回らないリンゴだ。

私は去年、初めてこのリンゴをスーパーで見つけて、
色の綺麗さに惹かれて買った。
私はリンゴなら、フジが一番好きなのだけれど、
食感に当たり外れがあるのが、ちょっと残念に思っていた。
シャキッとした食感で、瑞々しく、甘みと酸味のバランスがいい
そんなリンゴが大好きなのだ。

秋映は、私の理想のリンゴで、食感は潔いほどに
シャキッとして、甘みと同じだけの酸味があり、瑞々しい。
爽やかこの上ないリンゴなのである。


そんな秋映が、今年も店頭に並んだ。
早速、いくつかの秋映と、同じく、私の好みのシナノスイートを
買い求め、冷やして一人で食べた。

うーん・・・美味しい。
やっぱり、秋映は最高だ。


こんなに美味しいリンゴをNちゃんにも食べてほしくて
「秋映ってリンゴ知ってる?」と尋ねた。

彼は知らず、翌日、スーパーで探したけれど見つからないと言う。
だから、私は、昨日のデートの折、
冷蔵庫から、秋映とシナノスイートを一つずつ取り出して紙袋に入れて渡した。
「はい、これ。」
「何?」
「リンゴ。秋映とシナノスイート。」
「今さ、見てきたら秋映あったよ。めちゃお高いじゃん。
二個で600円もしたよ。」

待ち合わせ場所のショッピングモールの食品スーパーで
一足早く見つけたようだった。
「ありがとう。嬉しいよ。」



そして、今日。
「姫ちゃん!秋映、めちゃ美味しいヽ(^o^)丿」

そうメールをもらって、「でしょ~」と、返したし、
美味しさを共有できて嬉しかったが、
しかし・・・

複雑な気持ちも同時に湧き上がった。

だって、本当は一緒に食べて、顔を見合わせて
「美味しいね~」って、言いたいんだもん。
Nちゃんと色々なことをメールでやり取りしていた。
愛おしい言葉を交わす。

その途中、ものすごーくいい展開のところで
「ありがとう(T_T)・・・○ちゃん。」と来た。
○とは、私の名前ではない。

スルーしようかと思ったが、やはり気になり
受信メールをそのまま引用して
「○ってだれ?」と返した。

「間違えた、ごめん」とすぐに来たので、

「間違わないよね、普通。これって由々しき事態?」と送った。

「寝転んで入力してたから、漢字の候補にあったみたい。ごめん。」
と、Nちゃん。

その漢字は偏は同じだけれど、読みは全く違う。
どう入力して間違うのだろうか?

「引くわ」と一言返した。

「ほんとに、ごめんって。間違えただけっていってるでしょ。」

「いや、間違えないから。
頭の中の引き出しをちゃんと整理したほうがいいんじゃない?私みたいに。」

「姫ちゃん・・・」

その後もごめんなさいが続いた。
きっと、本当に間違えただけなんだろう。
誰かと間違えたのではなく、単なる入力ミスだと思う。

けどさ、、、

「もう、いいです。別に。
ただ、ガッカリしただけです。」

「本当にすみませんでした。」



そして、さっき届いたメール。
「おやすみなさい、姫ちゃん。さっきは嫌な思いをさせてごめんなさい。
姫ちゃんに信じてもらえなくても、オレには姫ちゃんしかいないし、
姫ちゃんだけを愛してる。さっきはごめんなさい。どうか、嫌わないでください。」



信じてるよ。頼りにしてるよ。
そうメールを返したけれど、
きっと、彼はアワアワして、意気消沈しているんだろうな。

でもさ、驚いたんだよ。
さすがにスルーできなかった。

信じているけれど。
デートを終え、帰路についた。
西日がまぶしく、目を開けていられない。

バイザーを下してくれたが、事足りず、
私は肩に掛けていたストールを頭からすっぽりかぶった。
まぶしいのと、眠いのとで、瞼が重い。

右手はNちゃんの左手でぎゅっと握られているので、
目を閉じながら時々、ぎゅっと握り返した。
ふいに、あぁ・・・とNちゃんが声を発した。

「どうしたの?」

「めちゃくちゃ眠かったの。今、やばかった。」

私はストールをかぶって、一言も発せずにいたから・・・
「そっか、大丈夫?グーでパンチしようか?
それとも噛む?」
そう言って、私はシートベルトを緩めて、運転席に身を乗り出した。
そしてNちゃんの首元に顔をこすりつけながら聞いた。
「噛む?」
「噛むなよ。クンクンしてもいいけど。」

だから、私はNちゃんの首筋の匂いを大きく吸い込んだ。

「くさい?」
「ううん、全然。」

Nちゃんは体臭の薄い人だ。
汗臭くもなく、加齢臭もない。それに、今日はフレグランスも着けていなかった。
「いい匂い。Nちゃんの匂い。」

「クンクンしたかった?」
「うん。したかった。して欲しかった?」
「して欲しかったよ。いっぱいしていいよ。」

駐車場に到着した。
大型ショッピングモールの駐車場。お店の入り口には程遠い場所。
私の赤い車とNちゃんの青い車が並ぶ。

Nちゃんはシートベルトを外して、私をぎゅっと抱きしめた。
優しくキスをする。ついばむような優しいキスを。
「大好きだよ。いつも想ってるし、いつも一緒にいたいと思ってるよ。」
そう言って、彼は私の頭を抱いた。

Nちゃんはなんて優しい目をしているんだろう。
その優しさが私だけのものにならないことを思って、
涙が出そうになるのをぐっとこらえた。
Nちゃんは私をまっすぐに見つめる。「姫、愛してるよ。」

Nちゃんが私の体を撫でたので、私も彼を撫でた。
みるみる硬くなる"私のペットちゃん"。
「何触ってるの?」
「私のペットちゃんだよ。私のものだもん。」

そっと、触れるか触れないかの強さで、指先を這わせると、
Nちゃんの吐息が漏れた。

「ねぇ、ねぇ、私、お願いがあるんだった。」
「なぁに?」
「あのね、Nちゃんの匂いのついたものをちょうだい。」
「匂い?例えば?」
「うーんと、タオルとか、下着とか、何でも。普段使っているもの。」
「だって、洗濯すれば匂いはなくなるでしょ。」
「そうだけど、洗濯してもやっぱり残る匂いってあるんだよ。
それが欲しいの。」

「うーん、、何がいいかな。あ!枕カバーとか?
洗濯したばっかりなんだよね。」
「うん、うん!!」
「じゃあ、一週間くらいオレの匂いをつけておくよ。」
「えへへ。ありがと。」


嬉しくて、再び、Nちゃんの首筋の匂いをかいだ。
いい匂いだ。
私のペットちゃんはますます硬さを増してゆく。

Nちゃんはおもむろにジッパーをおろした。
トランクスのボタンを外し、露出させたので、そのまま口に含んだ。
シャワーを浴びたばかりの清潔な匂いがする。
「うぅ・・・ん・・・あぁ・・・」
Nちゃんの吐息が漏れる。

今、彼はどんな顔で運転席に座っているのだろうか。

しばらくしてNちゃんが言った。
「姫ちゃん、もう終わり。イッちゃうから。」

そして、私が顔を離すと、彼はすぐにジッパーを上げた。

「気持ち良かった?」
「イッちゃいそうだもん。オレも姫ちゃんを舐めたかった。」
そう言いながら、Nちゃんは私の脚の間に手を伸ばした。
爽やかな秋晴れ。空は澄んで一筋の雲もない。
「今日はどこに行こうかと思って。姫ちゃん考えてないでしょ?」
「考えてるわけがない。」
「だと思った。今日はお茶を飲みに行く。」

そして、東に向けて車を走らせた。

街を抜け郊外へ。
裏山に抱かれるように、日本茶のカフェがあった。

窓際の席に向かい合って座る。
大きな窓から見える杉の木立の緑がまぶしい。
Nちゃんからは抹茶あんみつ。
私は小さな茶菓子が6種セットになったプレート。

Nちゃんのたたずまい、表情、声・・・
全部好きだ。
なのに、どうしても得られない。
得られないから、欲しいのか。
得られた途端に、欲しくなくなるものなのか。


カフェを出て、次に向かったのは美術館。
まだオープンして真新しい美術館だ。
素敵な作品に、しばし心を奪われた。

そのあと向かったのは、お城。
広い御殿屋敷を静かに巡る。
広間で展示物を見上げていたら、ふと背中が温かくなった。

Nちゃんが私の背後にぴったりとくっついている。
「なに?」と振り向こうとしたら、そのまま覆いかぶさるように
抱いて包まれた。まるで子供のように。
そして、私の髪に優しくキスをした。
「姫ちゃん、愛してるよ。」

身体が痺れるほど、嬉しくて、頭をNちゃんの胸に預けた。

天守閣に上ると、そこは展望台になっている。
四方から入る風が心地いい。
開け放たれた窓から外を覗いていると、
再び、Nちゃんは私を後ろから抱いた。
腕が私の胸元を抱える。
「いい景色だね」
私の耳元で言った彼のほうを振り返ると、
私の目の前に彼の顔があった。

二人きりではなかったので、そこまでだったけど。



後ろから抱きしめられた心地良さを
今、一人で噛みしめている。
Nちゃんは優しい人だ。
こんなに優しい人を私はほかに知らない。
「優しいね。」
私がそう言うと、
「普通だよ。」と彼。
「愛する人に優しくしないで誰に優しくするの?」と、言う。

Nちゃんが特別優しいのか、それとも、
私が優しくされてこなかっただけなのか。
それはよく分からない。

Nちゃんはどんな時も、一定の穏やかさで私を受け止める。
「姫ちゃんはオレの宝物だから。すごく大切なんだよ。」と。


先日、左の脇の下に違和感を感じた。
鈍痛というか、初めて感じる痛みだった。
「乳癌とかかな、、、」そう言う私に、

「お願いだからすぐに病院に行ってください。」と言った。

翌日、私の会社の健康診断を早めてもらうお願いをし、
近々、受診することを報告すると、
「ありがとう。」と、彼。

「なんで、ありがとう?」と、返すと、

「姫ちゃんが健康でいるのはオレのためでもあるの!
毎日一緒に抱き合って眠るんでしょ!」

そう、私はNちゃんといつか、毎日抱き合って眠りたい。
いつか絶対そうするんだ、その日まで死なないよ、と、
彼に伝えたことがある。

「脇の下が痛いのは、、、」
Nちゃんはネットで色々と検索してくれたらしい。

「ありがとう。優しいね。」

「当たり前でしょ。姫ちゃんが大事だからね。
姫ちゃんが元気でいてくれないと、オレ困るよ。」

「うん、、、でも、まぁ、死ぬときは死ぬから。」

「姫ちゃん、、、いいの?オレと離れてもいいの?」

「いやだよ。」

「ほらぁ、じゃあ、そんなこと言わないの!」


Nちゃんの優しさが身に染みる。
その優しさを感じるたびに、独占したくてたまらなくて、
あぁ…と、もがく自分がいる。
土曜日も日曜日も逢えなかった埋め合わせを無理やり月曜日にお願いした。
もちろん、私もNちゃんも仕事だ。

月曜日の夕方、18時前、
「仕事終わって今から帰るよ。」と、Nちゃんからのメール。
ただそれだけ。

夜の約束がどうなったのか、不安で仕方がない。
恐る恐る「今夜は逢えますか?何時ごろになりますか?」とメールを返した。

「19時でいいですか?待ち合わせはどこがいい?」
Nちゃんから、こうきたので、ホッとした。

私の駐車場で待ち合わせた。
Nちゃんは一旦帰宅し、私は仕事をして待った。
19時前、車の中で待っていると、ブルンブルンとNちゃんの車の音が。
緩む顔を抑えて、助手席に乗った。
「姫ちゃん、お疲れさま。」
Nちゃんは、そう言ってキスをした。

オフィスの駐車場だというのに・・・

「姫ちゃん、晩御飯は?作らなくていいの?」
「作ったよ。昨日のうちに。大丈夫。」
「姫ちゃんご飯食べた?」
「食べてないけど大丈夫だよ。」
「オレも食べてないから。ご飯食べに行こっか。」

私はてっきりお茶でもするのかと思っていた。
それくらいで十分だと思っていたから。

どこにしようか迷った挙句、郊外のイタリアンレストランに行った。
(よく、ひろと来たっけ…)

月曜日だからだろう、週末は賑わう店が静かで
貸し切り状態だった。
イタリア人シェフに案内され、店の中央のテーブルに向かい合って座った。

Nちゃんの顔をまじまじと見る。
「どうしたの?」と、彼。

「ううん…Nちゃんの顔が好き。」

Nちゃんの顔が好きだ。
精悍で、それでいて穏やかで優しさに満ちた表情のNちゃん。
こうして向き合っていると、Nちゃんを独占しているようで、
とてもとても嬉しかった。

パスタとピザをシェアして、静かに話をしながら、
静かに微笑みあいながら、見つめあいながら、
思いがけず初めてのディナーを楽しんだ。


食事を終え、席を立ってレジへと向かう。
「Nちゃん、ここは私が…」
「いいの?なんで?」
「だって、いつも出してもらってばかりいるから。」

そして、私が会計を済ませた。

店を出て、Nちゃんが言った。
「オレは遠慮をしない主義なんで、ご馳走様。ありがとう。」


Nちゃんとのデートで、私は、初めて支払いをした。
今まで、何度も迷ったことはあったが、どうしてもスマートに出せなかった。


その夜、Nちゃんからメールが届いた。
「姫ちゃん、今日は逢えて嬉しかったよ。
それに、ご馳走様。ご馳走されることなんてないから、
すごく嬉しかったよ。」


初めてのディナー。
初めての(今さらな)支払い。