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姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

今日、朝の仕事を片付けて、Nちゃんのお迎えを待つ。
約束の午後2時になる直前、青いゴルフが見えた。

助手席に乗ると、いつもと変わらず優しく微笑むNちゃんがいた。
「姫ちゃん、お疲れさま。仕事大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。」

「さ、どこ行こっか。」

「えー考えてない。」

「じゃ、オレの行きたいところに行っていい?」

「もちろん。」

Nちゃんの顔を見ると、もう私がやらかしたことなんか忘れてしまっていた。
「姫ちゃん、逢いたかったよ。姫ちゃんは?」

「逢いたかったよ。」

「姫ちゃん、綺麗だよ。」
Nちゃんは、何度も私を綺麗だと言い、携帯を取り出すと、
信号待ちのたびに私を写真に撮った。

Nちゃんは左手を私の膝に置き、私の手を取って強く握ってこう言った。
「大好きだよ。」


Nちゃんは私を責めたり、やらかしたことを何か挙げたりすることは全くなかった。
ただ、いつもと変わりなく、私に優しい眼差しを向けて「大好きだよ。」と言った。

信号待ちでふとNちゃんがこちらを見つめる。
「なに?」と言うと、顔が近づいて、唇を合わせた。

30分ほど車を走らせて到着したのは郊外の小さな歴史資料館。
「ずっと来たかったんだ。」

平日の午後、館内には誰もいなかった。
Nちゃんは私の手を離さない。手をつないだまま、展示物を見て回った。
そして、Nちゃんは体をかがめて何度も私にキスをした。

じっと目を見て、顔を近づけ、嬉しそうに唇を寄せる。
ただ、それだけの優しいキスを。

Nちゃんと一緒に居ることが楽しく、嬉しかった。
一点の曇りもなく、ただただNちゃんを好きだと思った。

Nちゃんはこんなにも優しく穏やかなのに。
私はどうして彼を信じられないのか。

資料館を出て、市街地に戻った。
「たまにはスタバに行こうか。」

そして二人で並んで座り、他愛もない話をした。
話をしながら、Nちゃんは周りを気にすることなく私に顔を近づけ、
あと数センチのところでいたずらっぽく何度も微笑んだ。

私の体に触れ、やさしく撫でてくれた。
Nちゃんは私だけを見ている。私だけに向き合っている。

午後5時を過ぎ、バイバイをした。
「明日、どこに行きたい?」
「どこでも。」
「今日はオレが考えたから明日は姫ちゃんが考えて。」


帰宅して、Nちゃんからメールが届いた。
「姫ちゃん、綺麗だったよ。」

「ありがとう。今日は逢えて嬉しかった。楽しかったし、幸せだった。」

「良かった。姫ちゃんの役に立ってるね。」

「『役に立つ』って表現がしっくりこないんだけど、、、」

「オレは姫ちゃんに喜んでもらいたいんだ。必要とされたいから。」

「ありがとう。Nちゃんは必要な人だよ。大事な人。
私も必要とされたい。でも、私は何にも役に立っていないよ。」

「そんなことないよ。姫ちゃんはそばに居てくれるでしょ。
いつも感謝しているよ。」



こんなふうに素直に言えるNちゃんを私は大好きだと思った。


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Nちゃんに私の何が通じたかは分からない。
ダメなことばかりしていると思う。ちっとも成長していないのも分かる。
またしてもやらかしてると思ってもいる。

そして今朝、いつも通りの「おはよう」のメールがNちゃんから届き、
私は意を決してこう返した。
「おはよう。Nちゃん、今日のお昼、予定はありますか?」

もし、Nちゃんに予定がなく、一人で過ごしているなら、私は仕事を抜けてランチでもと思ったのだ。
勝手にモヤモヤ期待して妄想するんだったら、当たって砕けてみようと思った。


「うん、今日は出掛けるんだ。明日、姫ちゃんの朝の仕事が終わったら、
お昼ごはん一緒に食べられるかな?」
私のリクエストは砕けたが、Nちゃんは代替案を出してくれた。
心は砕けたが、Nちゃんは私に応えようとしてくれた。

けれど、毎週金曜日は朝の仕事の後、スタッフ全員でランチミーティングをするのが通例となっている。
さすがに、それを外せない。


「明日はちょっと無理なんだ。ランチミーティングがあるし、そのあと別の打ち合わせもある。」

「そうなんだね…じゃあ、土曜日は逢えますか?」

『意地を張らない』、昨夜のNちゃんの言葉を反芻しながらしばし考えた。
明日、せっかく逢えるチャンスがあるのに。


「明日、打ち合わせが終わるのが2時過ぎ、そのあとの時間と、土曜日を私にちょうだい。」


しばらくしてNちゃんから返事があった。
「了解しました」
「Nちゃん」とだけ送ったメールに
「はぁい」と返ってきた。


「わたしのこと、キライになった?」

「オレは何があっても嫌いにならないよ。嫌いになったのは姫ちゃんのほうでしょ?」

「私も嫌いにならないよ、Nちゃんのこと。」


しばらくして電話が鳴った。
「姫ちゃん…オレは嫌いにならないよ。」

「うん…」

「姫ちゃんはオレを嫌いになったかもしれないけど。」

「ううん。今日、さびしかった。Nちゃんにほっとかれて。」

「フフ っ、ほっといてって言うからでしょ。」

「ほっといてって言っても、ほっとかないでって言ってるでしょ。」

「そうだけど、姫ちゃんがほっといてって言うからオレは
『ほっとかないよ』って言ってるのに、それでも『ほっといて』って言われたらさ、
あぁ、もうこれはほっとくしかないなって思うでしょ。」

「そう言うしかなかったんだもん。」

「でも、オレが『ほっとかないよ』って言ってるんだから、言っちゃダメでしょ。もう言っちゃダメだよ。」

「うーん…じゃあ、言わせるようなことしないでよ。」

「そうだけどさ。意地を張らないの。」

「だっ てさ、Nちゃんちっとも分かってないんだもん・・・」
そして、私はNちゃんの夏休みに対するモヤモヤをぶちまけた。


「Nちゃんは何にも言ってくれない。何にも言ってくれないから、
聞いちゃいけないと思って、何も聞けない。
夏休みなのに。言ってくれたら、私もお休みするのに。何にも言ってくれない。」

「姫ちゃん…ごめんね。オレの言葉が足りなかったね。ごめんね。」

「ほんとに分かった?」

「分かったよ。」
グズグズ言いながらそれから1時間以上、Nちゃんと会話をした。


「ごめんね…」

「何で姫ちゃんが謝るの?」

「ほんとはほっといてほしくないのに、ほっといてって言ったから。」

「いいんだよ。でも、オレが『ほっとかないよ』って言ってるんだから、
そしたらそれ以上は言っちゃダメだよ。姫ちゃんは本当に意地っ張りなんだから。」
「もうほっといて!」と送った私に、Nちゃんは何も返してこなかった。
私は、もういいと思っていた。もう要らないと。

水曜日、私は一人で映画を観に行った。
これは元々、そうしようと決めていたことだった。
私が観たのは「バケモノの子」。
観終わって、私はなんとちっぽけなのか、なんてささいなことに囚われているのかと思った。


心の氾濫が静まりつつあったけれど、Nちゃんからは何も連絡はない。
当然だ。私が「ほっといて」と言ったんだから。

帰宅して、子どもたちと夕食を食べている時に「バケモノの子」を観たことを話した。
Nちゃんが昨夜子どもたちと行ったレイトショーで何を観たのか分からない。

私はそれに触発されたので、自分の子どもたちに聞いてみた。
「今からジュラシック観に行く?!」
息子たちは「いいね」と乗り気で、急いで片付けを済ませて出掛けた。

出掛けて思った…

何だ、子どもたちと出掛けるってこういうことだ。
別になんてことはない。ただのお出掛け…
それを私は、私の想いと天秤にかけていたんだ。
それに、こんなに大きくなった息子たちと3人でレイトショーに出掛ける
チャンスをNちゃんが与えてくれたことに、感謝さえした。
Nちゃんのことがなければ、こんなに穏やかで平凡な時間を息子たちと過ごしてはいない。

帰宅したらNちゃんにメールしよう。
そう思いながら、映画を観ていた。


帰宅してメールした。
ただ「Nちゃん」と。
「ごめんね」
Nちゃんからそう送られてきたことに、私は心を開くべきだった。

けれど、私の心は氾濫したまま、自分でもコントロールできずにいた。

翌朝、Nちゃんから「おはよう。仕事頑張ってね。」とメールが来たのに、
「私のことは気にしないでいいから。」と返した。

意地を張っていたのもあるし、一人で静かにしていたかったから。
心をこれ以上乱されることに耐えられなかった。
私が一人で暴れて、一人で氾濫しているのは分かってる。
そもそもNちゃんのせいなんかじゃない。
私の心の持ち様で、自分で自分の首を絞めている状態だとも分かっている。


もう一人の私が私を客観的に見ていたら、私にどう言うだろう。
「あぁあ、バカなことして。ひどい言い方。
Nちゃんは十分にしてくれているじゃない。何が不足なの?
いいかげんに足るを知りなさいよ。」
そう言うだろうか。


けれども、私の計算はいつまでたっても引き算で、Nちゃんは足し算。
私は足りないことばかり数え、Nちゃんは得したことだけを数える。
計算方法が違うから、答えが違ってくる。
ネガティブとポジティブ。折り合うわけがない。


気にしなくていいから、のメールにNちゃんは
「姫ちゃん、大好きだよ。変わらないから。」と返してくれた。

なのに、私は
「ほっといて」と送り、

「ほっとかないよ」と再び返してくれたNちゃんに対して

「もうほっといて!私をこんな気持ちにさせないで!」と送りつけたのだ。
「分かりました…」という答えは、Nちゃんからこれまでもよく返ってきた言葉だ。
私の激しい感情を前に、なすすべがないのだろう。

私はもう何もかもが嫌になって、部屋に閉じこもった。
そして頭の中で色々なことを考えた。考えて考えて考えた。
Nちゃんは何が大事なのか、Nちゃんにとって私は何なのか。
Nちゃんの気持ちと私の気持ちは通じ合っているのか。
私の好きとNちゃんの好きは同じなのか。

私とは行けないレイトショー。
私とは過ごせない夏休み。

制限があるのは分かってる。仕方がない。
優先順位があるのだって分かってる。
私が常に一番じゃなくてもいい。
けれど、私をフォローしてくれたっていいじゃないか。

そうしてくれないなら、私を大事だって言うな!
…そう思って、もうどうしようもなくなっていた。

午前0時を過ぎたころ。
「姫ちゃん…おやすみなさい」と、メールが届いた。
メールをしてこないで、と突っぱねた私に対して、
こんなふうにメールをくれるのがNちゃんだ。
優しいと思う。すごいと思う。でも…

数分、ためらった。返事をしないか、するか。
でも、余計な計算は不幸のもと。だから直感で返事をした。
「おやすみなさい」と。

「起こしちゃったかな。ごめんなさい。おやすみ。」
Nちゃんから再び返事が来た。

それで、私はやっぱり計算せずに返事をした。
自分の中に、この気持ちをためておくことができなかったから。
「Nちゃんは私が大事じゃないし。Nちゃんはマイホームパパが似合うよ。
私を大事だっていうけど、そうじゃない。私が何を思って、何を感じている
かなんて、Nちゃんにはきっと分からない。」

「姫ちゃんのことが大事だよ。変わらない想いだよ。」

「だったら私にも同じだけ時間をちょうだい。
私も同じだけNちゃんが欲しい。」
私の暴走はもう止められなかった。
これでダメならダメになってもいいと思った。それくらい私の心が氾濫していた。

そしてNちゃんから
「姫ちゃん、今度一緒にレイトショー行こうね。」と、返ってきた。


そうだよ。分かってるんじゃない。
Nちゃんは分かってるんだよ。だから、
「Nちゃん、それをね、もっとちゃんと私につたえないといけないんだよ。
Nちゃんのミステイクだよ。」と送った。


「そうだね…ごめんね。」
全ての始まりは私の不信感だった。
Nちゃんの夏休みについて、私は始まる日だけを聞いていて
あとは何も知らされていなかった。

私は夏休みを特別に取らず、土日を利用して子どもたちと旅行に行った。
そのことは計画を立て、決まった日にNちゃんに話していた。
けれどもNちゃんは22日から夏休みが始まるということを伝えただけ。
「帰省するかも」と言っていたけれど、取りやめたことは聞いた。
つまり、彼は”ここ”にいるということ。

それで、私はつい期待したのだと思う。勝手に。
それに、自分に置き変えて、「きっとNちゃんだって私に会いたいと
思ってくれるに違いない」と考えていた。

でも、違った。

Nちゃんは私には何も言ってくれなかった。
ここにいるのか、どこにいるのかも分からない。
私に会いたいと思ってくれているのかも分からない。
いや、そんなこと思わないから言わないのか。

せっかくの夏休み。特別な一日を私に与えてくれてもいいじゃないか。
私は勝手にそう思っていた。
でも、Nちゃんは私の仕事をどうにかしてまで、時間を作ることを
考えていなかったのだろう。

それで、私は一人でモヤモヤしてイライラしていた。
PMSも相まって。

火曜日の夜、Nちゃんからメールがきた。
「姫ちゃん、仕事お疲れ様でした。
オレは今から○○に子どもたちとレイトショー行ってくるね。
帰ったらメールする。」


このメールに、私は激しく心を揺さぶられた。
私は何か月も前に、Nちゃんに『私がして欲しいこと』を
手紙に書いて渡した。
その中に「一緒にレイトショーに行きたい」があった。
それから数か月、Nちゃんは私とレイトショーはおろか、
『私がして欲しいこと』のどれ一つとして叶えてくれてはいない。
レイトショーについては、「そうだね、一緒に行こうね」と答えてくれたのに。

その数か月の間に、Nちゃんは子どもたちと2回、
レイトショーに行ったにもかかわらず。

…そうか、私とは行けないのに。
腹立たしい思いだけが私を捉えて、むき出しの感情で
「もうメールしなくていいから。待ってないから。」と返した。

彼からすぐに「姫ちゃん(>_<)」ときたので、
追い打ちをかけるように「メールしてこないで」と送った。

Nちゃんからは
「分かりました…」とだけ、返ってきた。
どうしようもなくて、自分から壊しちゃった。
もう壊れちゃったのかな。

Nちゃんから「ただいま」とメールが届いた。
私の「私だって、、、、」は全くスルーされていたのが気に入らず、
「おかえり」だけを返した。

すると再び、「ただいま((+_+))」と来たので、
「おかえり、Nちゃん」と、名前を付け足して返した。

すると、
「今度一緒にイオン行こうね。」と届いたので、

「うん、、ものの例えだから。私はNちゃんとたくさんのことをしたいんだよ。
Nちゃんは私の日常の中に居るから。今まで別々にいきてきた時間分を早送りして
たくさんのことを一緒にしたい。分かるかな?特別なことじゃなくていい。
普通のことを。私だって、Nちゃんのことを必要としているんだから。」
と、送った。

「姫ちゃんの気持ちわかるよ。嬉しいよ。ありがとう。」

「何で、ありがとう?」

「姫ちゃんがすごくオレのこと愛してくれているのが分かるから。」

「だって、私にはNちゃんが必要で、同じように、
Nちゃんにも私を必要としてほしいんだもん。」

「ありがとう。オレも姫が必要だよ。」



通じたのかなぁ、、、、
そんな疑問はあるけれど、まぁ、いいや。
ちょっとだけ進歩したような気がするから。
Nちゃんには出来て、私には出来ないことはまだまだたくさんある。
その中の一つが、

私が子どもたちや、友人と出掛けたりする時のこと。
Nちゃんは必ず私にこう言う。
「気を付けて行っておいで。」、「楽しんでおいで。」と。

帰宅したとメールをすると、
「おかえり。楽しんだかな?」とメールを寄越す。


それは、Nちゃんの本心だろうか。
というのも、私にはそんなことは出来ないからだ。
Nちゃんが出掛けるというと、
私はせいぜい「いってらっしゃい」が関の山。
下手をすると、何も返さないことだってあるくらいだ。

なのに、Nちゃんは、いつでも、どんな時でも
「楽しんでおいで。」と。

話は本筋からずれるかもしれないが、
愛とは自分に例え不利益なことがあっても、相手の幸せを望むものだと言う。
愛する人が幸せでいるなら、それだけで自分も幸せ・・・

私には到底そんなことはできない。
私はいつでも自分のことばかり。自分の満足ばかりを求めている。

けれども、Nちゃんは違う。
私が楽しいと思うことを喜んでくれる。
だから、私がグズグズばかり言っていると、
「姫ちゃんが辛い思いばかりするなら、オレなんて必要ないね。」
と、言うのだろう。


Nちゃんのように、私は出来ない。


さっき、またNちゃんから「子供たちとイオンに行ってくるね。」とメールが来た。
だから私は頑張って、
「気を付けて行ってらっしゃい。イオン好きだね~(^-^;」と返した。

これでも最大限に頑張ったのだ。
すると、「アハハ、、、(^-^;」と返信があった。


で、少し考えてこう送った。
「私だって、Nちゃんとイオンに行きたいんだよ。知ってる?」



もう車の運転中なのか、返事はなかったけれど。
土曜日、お昼ご飯を食べた後のこと。
「姫ちゃん、どこに行く?どこか行きたいところある?」と、Nちゃん。

「Nちゃんが考えて。」

「いつもオレが考えてるし。」

「"オレ"の役目だから。」

「そうなのかぁ。暑いしねぇ。どうしようか…
いつものところ行こうか…生理になった?」

「ううん。もう少しで始まる感じ。」

そして、『いつもの場所』に行った。
もし私が「○○に行きたい」と、言えば、そこに行っただろう。
でも、私の行きたい場所は『いつもの場所』だった。

だって、この胸の張りや眠気から察すると数日中に生理が始まる。
そうすると、来週末、もしNちゃんと会うとしたら、きっと生理真っ最中だ。
となると、『いつもの場所』には行けない。
そんなことを私は頭の中で計算していたのだけれど、Nちゃんには言えなかった。

Nちゃんが「生理になった?」と尋ねたのは、きっとNちゃんも
頭の中で計算していたからなのかなとも思う。
この数日の私のイライラや、時期的に推察したのだろう。


時刻は午後2時直前。
「この時間は空いていないかな・・・」
Nちゃんが呟いたように、いつもの場所は満室だった。

彷徨うこと3軒目。
私は心の中で「お願い、空いていて!」と祈った。

フロントを覗きこんでNちゃんが言った。「おっ、空いてる。」
私のお願いが叶ったんだ。

キンキンに冷えた部屋に入ると、Nちゃんは私を
いつものように力いっぱい抱きしめた。
そしていつものように、Nちゃんはお風呂にお湯を張った。
ベッドでしばらくじゃれ合う。
「何触ってるの?」
「私のペットちゃん。」
すでにNちゃんは硬くなっている。
彼は焦らすように、私をショーツの上から触った。

「お風呂入ろっか。」
向き合ってバスタブにつかり、私はNちゃんにまたがった。
Nちゃんにしがみついて、彼の肩の厚みと腕の太さを確かめた。
硬い筋肉が愛おしい。

Nちゃんは、私の腰を持ち上げて浮かせると、照準を合わせて沈めた。
お湯の中でキュッと抵抗を受けたが、入り口の潤いで奥まで届くのに時間は
かからなかった。

ひとつになれたことがやっぱり嬉しい。
Nちゃんもそのことを確かめるように目を閉じている。
動くたびに、ちゃぷんちゃぷんとお湯がこぼれてゆく。

お風呂を出て、ベッドに行き、お互いをこれでもかというくらい
愛して撫で、一つになった。
Nちゃんと心を通わせれば通わせるほど、体も馴染んできた。
それはキスも同じだ。

初めてNちゃんとキスをしたとき、「あまり上手じゃないな」
と、思った。なんというか、強引なキスだったから。
それが、この日は違った。同じものを求めているかのように
私とNちゃんは呼応するかのようにキスをした。
まるでお互いを吸い尽くして、一つのものになるかのように。
舌が千切れてしまうほど強く、強く。何度も何度もずっと。
それでもまだ足りないくらい、終わりがないキスだった


そういえば、旅行中、私が温泉に入ったことメールすると
「一緒に混浴に入りたい」と返信があったのだった。
そして「周りを気にせずいっぱいしたい」と。
「何を?」と返すと「セックス!」と返ってきたのだった。

「バレちゃうよ。」
「姫ちゃん、声出しちゃうから。」
「お布団でしよう。でも、隣のお部屋にバレちゃうか…」
「キスして口をふさいでいるから大丈夫」
「窒息しちゃう」
「アハハ」

そんなやり取りをしたことを思い出しながら、キスをした。
こんなに激しいキスをして口をふさがれたら、ほんとに窒息しちゃう。


しばらくしてNちゃんの動きと息遣いが変わった。
私を抱えるように、覆いかぶさって動く。
「姫ちゃん・・・イクよ・・・イッていい?」
「いいよ。」

コンドームに手を伸ばしたNちゃんの手を私は乱暴に払った。
「そのままでいいから。もう始まるから。」

「奥にいっぱい出すよ。出して欲しい?」
そしてNちゃんは動きを速めて、私の中で果てた。

アァ…大きく息を吐くように果てた後、彼は私から離れて
ティッシュで自分を拭きとって、私にもティッシュをあてがった。
「栓をしとかなきゃ。」
「何で?」
「液が出てくるから。」

栓をして、二人で眠った。


そういえば、Nちゃんは私の首元に強くキスをした。
痛いくらいに。
後で確かめようと思っていたのを、ずっと忘れていた。
今頃思い出したけど…どうだったんだろう。
Nちゃんの夏休み初日を私はもらった。
前日の金曜日は私を心配したからか、3回も電話がかかってきた。
夏休み前でリラックスしていたからか、それともよほど気になったからか
どちらだろうか。

土曜日、待ち合わせたのは正午過ぎ。
「お昼ごはん食べに行こう」
と、車を走らせた。

「○○に帰ろうと思ったんだけどさ…」
帰省をしようと考えたのだけれど、遠くて断念したという。

「そんなに遠くないじゃない!」

「5~6時間はかかるし。眠くなるじゃん。無理だもん。」
Nちゃんはウルトラスリーパーだ。
じっと同じ姿勢を続けていると、眠りに落ちるという。
そんな・・・
でも、この一年、一緒に居て、それが何となく分かった気がする。

・・・この人ならあり得る!

というわけで、今、Nちゃんは夏休み中だ。
今、どこにいるのか、何をしているのかは全く分からない。

けれども、昨夜も普段通りオヤスミの電話があったし、
今朝も「おはよう」のメールが来たし、
お昼には「お昼だよー!」のメールが送られてきた。

けれど、彼が何をしているのか、どこにいるのかは分からない。
まぁ、分かったところで、手も足も出せないのだけれど。

だから、何となく私はひっかかる時間を過ごしている。

まぁ、いいんだけどさ…
手も足も出せないんだから。
昨夜は無限のイライラのせいで、Nちゃんにはひどいことをした。

彼からのメールには
「ものすごくイライラしているから、放っておいて。返事も要らない。」
と返信した。

その後、私を心配するメールが届いたが、返事をしなかった。
「もう寝たかな?」にも返さず、「おやすみ・・・」にも返信しなかった。

正直言って、色々なことがめんどくさかった。
Nちゃんのことは大好きだけれど、でも・・・
仕方がないなと、諦めることが多過ぎる。

そして、眠りについた。

今朝は早朝からの出勤の日だ。
午前7時過ぎ、いつものようにNちゃんから「おはよう」のメールが届いた。
いつもと同じ、絵文字がいっぱいのメールで、
いつもと同じように「いっぱい愛してる」が添えられていた。

そんなメールに私は「おはよう」と、
たった四文字だけのモノクロな返事をした。

するとすぐ「もう会社かな?」と来たので、
「うん」と、今度は二文字を返した。

そして電話が鳴った。

「おはよう、姫ちゃん。大丈夫?」

「おはよう。何?」

「心配だったの。」

「いいよ、心配しなくても。ほっといて。」

「いやだよ。心配するし、ほっとかないよ。」

「ほっといて。」

「やだね。」

「うーん、、、」

「心配してるから。イライラして車運転したら危ないから。」

「心配しなくていい。」

「姫ちゃん、、、仕事、気合入れて頑張って。」

「気合も入れないし、頑張らない。」

「それでもいいから。姫ちゃん、好きだよ。」

「じゃあ、ほっとくなー!!!」

「フフっ・・・ほっとかないよ。」

「ありがとう、電話。」

「じゃあね、頑張るんだよ。」

朝の電話で私はNちゃんに負けたと思った。完敗だ。
こんなふうにまっすぐに向かって行くことは私には出来ない。
これがNちゃんの優しさだと、改めて思った。


そして、夕方、
「姫ちゃん、週末の予定はいかがですか?明日は空いていますか?」
と、メールが届いた。


え??明日・・・
明日からNちゃんは夏休みなんじゃ・・・


息苦しいほどにイライラしている。
生理前だから、というのが一番大きな原因だとは思う。

けれども、もう色々なことにイライラして止まらない。

Nちゃんは土曜日から夏休みだと聞いている。
聞いたのはしばらく前のことで、それからは話題に上らない。
その時は「帰省をしようかな」と言っていたけれど、どうなのだろう。

先週末は私の都合で、今週末はNちゃんの都合で会えないので、
月曜日の夜に会う時間を作ってはくれた。
けれども、夏休みをどうするのか、教えてくれたっていいじゃないか。
いつまで夏休みなのか、はたして、夏休み中は会うことはかなわないのか、
あるいは、連絡することもかなわないのか。

言ってくれないから、私からは聞けない。
そのことがますます私をイライラとさせる。


結局、私なんて、優先順位はそんな程度。



週末が近づくにつれ、イライラが増す私にさっきメールが届いた。
「子供たちとイオンに行ってくるね。」



私だってお盆の旅行は子供たちと過ごした。
そんな自分を棚に上げていることは重々承知しているが、
そんなこといちいち報告しなくていいから。
私が旅行から帰ってきたのは日曜日の深夜。
月曜日は仕事を休みにしても大丈夫なように準備はしておいたが、
帰宅時間が深夜になったことで、月曜日の休みを心に決めて眠った。

Nちゃんにはそのことは話していなかった。
月曜日の朝、Nちゃんからおはようメールが届いた。
「おはよう。ゆっくり眠れたかな。今朝は雨だから出勤気を付けてね。」
時刻は午前7時過ぎ。

「おはよう。ひどい雨だね。今日は仕事を休みにしたよ。
もう少し眠るね。おやすみ~。Nちゃんは、一日頑張って!」

いつもなら、返信があるのに、Nちゃんからの返信はなかった。
「もう少し眠る」私に、遠慮したのだろう。

昼を過ぎてもメールはなく、きっと遠慮しているのだろう彼に私からメールを送った。
「お疲れさま。雨で洗濯が不自由だよ…午後も頑張ってね。」

すると、すぐ返信があった。
「姫ちゃん、今朝は起こしてごめんね。今日お休みって知らなかったから。」
済まなさそうなメールだった。

「ううん、今日、お休みにするかどうか決めきれていなかったし、
目は覚めてたから大丈夫だよ。」


”今日お休みって知らなかったから”の表現にちょっと引っかかりはした。
けど、本当にどうするか決めていなかったんだもん。
それに、お休みにすると告げていたところで、何の意味があるのかと
思っていたのも、正直なところだった。



午後6時を過ぎて「姫ちゃん、仕事終わって今から帰るね」の帰るコール。

私は晩ご飯づくりにいそしんでいた。
午後7時半を回り、バスルームの掃除をしてキッチンに戻って
携帯を確認して、驚いた。

「姫ちゃん、これから少しでも逢えたりするかな?」

どういう意味だろう…
この週末は私の都合で会えなかった。
今度の週末はNちゃんが夏休みということで、たぶん会えない。
だから、会う時間を作ってくれるよう、お願いはしていた。

「えーと、、、ということは、今日以外に会うチャンスはないってことかな?」
私は、すごくガッカリした気持ちでメールを返した。
考えてはくれたのだろうけど、こんなにいきなり…と。

すると、私の予想しない答えが返ってきた。
「ううん、そうじゃなくて。姫ちゃん、今日は仕事お休みにして
疲れていないかなと思ったの。今日じゃなくてもいいよ。姫ちゃんはいつがいい?」


「そっかぁ。今日でも、疲れている時でも、Nちゃんに会えるならいつでもいい。」

「姫ちゃんが決めて。」

「じゃあ、今から。」


そして、急いで支度を済ませ、渡せるかどうか分からなかったお土産を持って家を出た。



待ち合わせの喫茶店には既にNちゃんの車が。
私が車をとめると、Nちゃんが車を降りて歩み寄ってきた。
「おかえり」
穏やかに微笑むNちゃんを見て、胸が熱くなった。

お店の入り口までほんの数メートルなのに、Nちゃんは私の手を取って
ギュッと握った。Nちゃんの手はいつも温かい。
それが嬉しくて、思わず私は「うふふ」と声を上げた。

「ん?」私を振り返るNちゃん。

「ううん…」
Nちゃんがあまりに素敵で、あまりに好きで、ただ姿を見つめた。


向かい合ってテーブルに座って、他愛もない話をする。
話しの内容なんて、どうでも良かった。
ただ間近で、時間を過ごせることが嬉しかった。

1時間ほどして、Nちゃんが言った。「車に行こうか」


Nちゃんの車の助手席に乗ると、すぐにNちゃんは私を抱きしめた。
「姫ちゃん、会いたかったよ。」
そして何度も何度もキスをした。

Nちゃんは私のマキシドレスをめくりあげて手を伸ばした。
「触りたかったよ。姫ちゃんも触って欲しかった?」
そして、私の胸元をずらして顔をうずめて吸い付いた。

Nちゃんの手はさらに奥まで伸びる。
「姫ちゃん、もう濡れてるよ。」
卑猥な音が車内に響く。

「気持ちいい?触って欲しかった?」
「うん・・・」
「姫ちゃん、いやらしい顔してるよ。」
「Nちゃんが触るからでしょ。」

Nちゃんの手の動きはこんなにいやらしいのに、
その表情はいつもと同じポーカーフェイスだ。
「Nちゃん、やらし過ぎる。こんなにやらしいことしてるのに、
何でもない顔してるのが、余計にやらしい。」

「アハハハ~」
Nちゃんは声に出して笑った。

Nちゃんの指はさらに奥をかき乱す。
「舐めたいなぁ・・・」

Nちゃんを触ると、すでに硬くなっていた。
「私のペットちゃん、硬くなってる。」


Nちゃんは指を抜き取ると、その指を舐めようとしたので、
私は力づくで静止した。
「やめて!ティッシュ取って!」

Nちゃんの手を押さえつけたまま、ティッシュを奪い、指を拭った。
「なんでだよ~」
そう言いながら、意地悪な顔をして、指を自分の鼻に近づけた。
「姫ちゃんの匂いがする。」
そう言いながら、彼はその指を舐めた。

Nちゃんは自分の短パンを指さし、
「オレも濡れちゃったじゃんか。もう~」
そう言って、バックルを外し、ジッパーを下した。

私はNちゃんの硬くなったものを引っ張り出し、そのまま口に含んだ。
「ん・・・気持ちいい・・・あぁ・・・」

エンジンをかけていないので、私はみるみる汗ばんできた。
助手席から無理に身を乗り出している体勢もきつい。
「あぁ・・・気持ちいい・・・いいよ、姫ちゃん、しんどいでしょ。」
Nちゃんは私の体を自分から引き離した。

汗びっしょりの私を見て微笑みながら、ティッシュで汗を押さえてくれた。
「頑張ったね、姫ちゃん。」

「気持ち良かった?」

「うん、めちゃくちゃ気持ちいい。また今度舐めてね。
姫ちゃんのも舐めさせて。」


相変わらず、ポーカーフェイスのNちゃんがそう言った。

旅行中も、Nちゃんからは変わらずメールが届いた。
おはようメールに始まり、「今、どの辺り」や、おやすみメールまで。
日中は私がほとんど返信をしなかったので、いつもよりやり取りは少なかったけれど。

息子の「また携帯かよ。何してるの?」に対して、妹とメールしていると誤魔化すほどだった。
だから、できるだけ、息子たちの前で触ることは避けていた。

Nちゃんとやり取りをして思った。
今度の土曜日から彼は夏休みだという。
帰省をしようかな、と言っていたけど、その後どうすることになったかは知らない。
夏休み中、Nちゃんは、私にメールをしてくるだろうか?
私からのメールに返信があるだろうか。

きっと、ないと思う…
そんな気がする。

温泉に入ってきたよ、と送ったら、
「姫ちゃんと一緒に混浴に入りたいな」と、返してきたけれど、
そんなことは、この先もずっと叶うはずはないんだよな、と苦々しく思った。

そう思うなら、叶えてよ。
叶えられないなら、そんなこと言わないでよ。
今から子供たちを連れて西の方へ出掛ける。
海と温泉、そして山城を目指して。

旅行は夫が全て手配した。
「○○に行くとしたら、行けるわけ?」
そう尋ねられて、少し迷った。

Nちゃんに会えなくなる・・・
けれど、去年の夏、私は家を出ていたせいもあって、
子供たちをどこにも連れて行ってやることなく、夏を終わらせた。
長男は高校3年生なので、これが最後の夏休みの旅行になるかもしれない。
いずれにしても、子供たちと過ごす時間は刻一刻と減ってきている。

そんなことを考えて、「ちゃんとした宿を取ってくれるなら、、、」と了承した。


Nちゃんには決まったその日に報告した。
「子供たちと」と表現したけれど、夫が含まれているかどうか、
どうなんだろうと思っていることだろう。

Nちゃんと付き合うようになって、お正月、五月連休と
私は旅行に出かけた。「子供たちと」と言って。

普段、夫は家にほとんどいない、そのことをNちゃんは知っている。
だからお正月も五月連休も、私が子供たちを連れて行ったと思っている。
はっきりとしたことは何も言わなかったから。
だから「車の運転、気を付けて。到着したら必ずメールして。心配だから。」
と、言われた。



今回、同じようにはっきりとは言わなかった。
ただ、予定を聞かれたときに「どうなんだろ。よくわかんない。」
と、答えたので察しはついたと思われる。

「車はプリウスで行くの?」
Nちゃんは、そう尋ねた。

私はプリウスに乗っていて、家にはもう一台車があることを知っている。


夕方、Nちゃんからメールが来た。
「姫ちゃん、今日は何時に出発かな。気を付けて行ってらっしゃい。」

だから、
「晩ご飯を食べて、支度してから出掛けるよ。」と返して、
「Nちゃんに会いたい、Nちゃんが恋しいよ、とても。」と続けると、

電話が鳴った。


「姫ちゃん、気を付けて行くんだよ。心配してるからね。
楽しんでおいで。」

「うん、、、Nちゃん、、、さみしいよ、、、」

「アハハ、、、」

「何で笑うの?」

「いつもそばに居るよ。オレはどこにも行かないから。ここに居る。」

「うん、、、」

「大好きだよ。写真送ってね。」

「うん。」

「姫ちゃんの。」

「ダカハーの?」

「もちろん。」

「アハハ、、、Nちゃん、ありがとう。電話してきてくれて。
すごく嬉しい。」

「行ってらっしゃい、って言いたかったからね。」

「うん。ありがとう。じゃあね、行ってくるね。」



Nちゃんは私に「車の運転気を付けて」とは言わなかった。
会話の中の無言の間に、Nちゃんの遠慮を感じ取った。
聞きたくても聞けない、という遠慮を。


逆の立場なら、私も同じことをしただろう。
同じように、聞きたくても聞けないでいたと思う。


その無言の間と、せっかくの夏休みなのに
一緒に居ることができないこのどうしようもない事実に、
改めて、Nちゃんとの距離を感じた。

お正月、五月連休、お盆、。
来年も再来年も、その次もその次も、またその次だって
私はNちゃんとは一緒に居られないんだ。


そして、またそうやって『引き算』をして、
胸が締め付けられるように痛んだ。


来週末、今度はNちゃんがお夏休みに入る。
どのぐらいの期間かは分からないが、きっと家族で過ごすことだろう。
考えたくもないけれど、つい考えては、気持ちが沈む。


今、Nちゃんは、何を思っているだろうか。
私と同じように、こんなふうに思っているだろうか。
「あぁ・・・・・んん・・・」
Nちゃんを口に含むと、吐息交じりの声が漏れる。

「気持ちいい?」

「うん、気持ちいい。」

「すごく?」

「うん、すごく。」

思わず漏れるあの声が聞きたくて、また深く含むと
Nちゃんは目を閉じてじっとしている。
口の中でどんどん硬さが増していくのが分かる。

「あぁ・・・気持ちいい・・・・」

Nちゃんがピークに達する前に、顔を離した。
「すごく気持ちいい?」

「すごく気持ちいい。イッちゃいそうだもん。」

「イッたらダメ。」

「なんでだよ・・・」

「イッたら終わっちゃうもん。」
そう言いながら、私はNちゃんにまたがった。

腰を沈めると、手を添えなくてもスルリと収まる。
しばらく動いて、Nちゃんから降りた。
「じゃあ、いいよ。もうイッても。」

そして再び、Nちゃんを深く含んだ。
硬さが増すのに比例して、吐息交じりの声が短く漏れる。
「姫ちゃん・・・あぁ・・・イクよ。あぁ・・・イク・・・」

私の口の中に温かなものが放たれた。


「気持ち良かった?」

「うん、すごく。」

「そんなに?」

「だって、何にも動かなくていいんだよ。こんな楽なことはない。最高だよ。」


マグロ状態のまま仰向けのNちゃんは腕を広げて、
トントンと自分の左肩を示した。


口をすすぎたかったけれど、ティッシュに吐き出して、そのまま
Nちゃんの肩に頭をのせて抱きつくと、ギュッと腕を回して私を寝かせてくれた。



密着した体の隙間から手を伸ばしてNちゃんに触れると
放たれた後なのに、まだ硬いままだった。
目を閉じるNちゃんを見ながら、私はそっと手を添えた。
私はここ数年、夏休みを取っていない。
長期の休みを取ると、仕事の調整が大変になるので、
普段と変わらず、淡々と仕事をしている。
まぁ、土日にくっつけて、月曜日を休みにすることはあるけれど。

「姫ちゃん、休みはいつ?」
先日、Nちゃんに聞かれたので、休みは特にないと答えた。

「Nちゃんは?」

「オレは22から。」

「どこかに行くの?」

「帰省しようかと思って。もう何年も帰ってないから。」
Nちゃんは、転勤族で、巡り巡って、今、この地に居る。

Nちゃんの休みが22日からいつまでなのかは聞かなかった。



そして、今日のこと。
私は今週末、関西方面に旅行に行くことになった。
(夫が全て手配している。私を誘うことも躊躇せず、
こういうところは有難いなというか、申し訳ない気持ちになる。)

つまり、今度の土日はNちゃんに会えない。

「今度の土日、子供たちと○○○○に出掛けることになった。」

「いっぱい楽しんでおいで。」

「うん、、、でも、私はNちゃんに会えないのが嫌だ。」

「子供たちと楽しい思い出作らなきゃね~、姫ちゃん。」

「それはそれ。そんなこと分かってる!!」



そして、イライラしながらお風呂に入った。
もし、返ってきたメールが「姫ちゃ~ん(^_^;)」だったら、
もうメールには返事をしないと心に決めて、憤りながら入浴した。


部屋に戻って確認すると、こうあった。
「姫ちゃんの気持ちは分かるよ。」

だから、こう返した。

「だから?」

「オレだって、姫ちゃんに逢いたいよ。」

「じゃあさ、考えてよ。どうにかしてよ。
私だってちゃんと考えてる。子供たちと過ごす時間は大事だよ。
でも、Nちゃんと過ごす時間も同じだけ大事。」


そして、電話が掛かってきた。
「姫ちゃん、オレだって、逢いたいよ。ちゃんと分かってるよ。」

「仮にね、うまく合わなくて逢えなかったとしても仕方がないの。
けど、Nちゃんが私のことを考えて汲み取ってくれることが大事なの。」

「分かってるから、姫ちゃん。オレがちゃんと考えればいいんだよね。」

「うん。」

「今週は無理だから、来週かなぁ、、、夜とか、、、」

「考えてくれれば、それでいいから。」
さっき、Nちゃんと電話で話していた時のこと。
今日はどうしたのか、珍しく早い時間に電話が掛かってきた。
午後10時になる前、まだ9時台だった。

「暑くて死にそうだ」と。
部屋にエアコンがないようで、扇風機をフルパワーにしても
暑くてたまらないのだという。


しばらくいつものように他愛もない話をしていた。
すると、「パパ、・・・・・」と、男の子の声がして、
Nちゃんがそれに答えた。

中学三年生の息子さんだ。

そっか、Nちゃんは「パパ」なんだ。
パパと呼ばせているのか。
子供たちがNちゃんを何と呼んでいるのか、聞いたことも
話してくれたこともないので、知らなかった。

ただ、「パパ」は意外だった。
それに、勝手だけれど、すごく嫌だった。


垣間見たくないな、こういうこと。



でも、私は子供のことを話したりするから、
彼はどうなんだろう。嫌な気持ちになることはあるのだろうか。


そっか、、、、パパか。


暑いから部屋の窓もドアも開け放っているんだろう。
Nちゃんは私と話すのを止めることも、何かに遠慮するそぶりもなかった。
ただ、何かのきっかけで、Nちゃんが「愛しているよ」と、言った時、
ドアがパタンと閉まる音が聞こえたような気がした。
ひろとお別れして、丸一年が経った。
もう一年も経つんだ…
それが今の率直な想い。

一年前、心が引き裂かれるような、狂ってしまいそうな時間を過ごしたことを、もうつぶさには思い出せないでいる。

ただ、客観的に、あぁ一年が過ぎたんだなと思うだけだ。

この一年、ひろと二回ほど偶然に会った。
会ったというより、見かけたという方が正しい。
二回とも、私一人じゃなかったので、ちらりと視線を交わしただけだけれど。

おそらく、こんな偶然がないように、気を付けていたんじゃないかなと、想定される。
ひろのことだから、たぶんそうに違いない。


もう一年経つんだなとしか思わないのは、Nちゃんのお陰だ。彼なしに、この一年を乗り越えることなんて、きっと出来なかった。

Nちゃんとのことは、ひろとお別れした時には、全く想定していなかったけれど。
もし、Nちゃんがいてくれなかったらと思うと、ちょっと恐ろしい。
楽しいこと、嬉しいこと、幸せを感じること、満たされた時間。
どれも、Nちゃんといることで、私に足し算されるもの。

足し算なんだから、トクしてるんだよね、本来は。

なのに、私は引き算ばかりしている。
いや、獲らぬタヌキの皮算用をして、あるはずのないものを想定して、アレが足りない、コレが足りないと、勝手にガッカリしている。


引き算ばかりしてるから、こんなにしんどくなるんだよね。
足し算で考えられることが出来たら、どんなに楽しいだろうか。

どうやったら、足し算方式に変換できるのだろうか。
Nちゃんがこんなにもヤキモチ妬きとは知らなかった。
少し前の記事にも書いたけれど、ボスの件でもそれは分かってはいた。

その前にもたびたび「アレレ」ということはあった。

ヤキモチを妬くような人じゃないと思っていたから、意外だった。
それに素直にヤキモチを妬かないで、チクチクと私を責める。
そのたびに、あぁ、Nちゃんはポーカーフェイスだけれど、
穏やかで心優しい人だけれど、普通の男なんだなと思う。
変な意味ではなくて。

昨日もそうだった・・・・


昨日、気分はブルーで、Nちゃんからのメールには
ごく短い返事しかできなかった。
それは私自身のせいであって、Nちゃんのせいじゃない。

ブルーな私をたぶん気遣って、Nちゃんは写真を送ってきてくれた。
「姫ちゃん、散髪してスッキリしたよ。」と。

入浴中に届いたメールだったので、着信から数十分経ってから返信した。
「写真ありがとう。お風呂上がったよ。」と。

本当は、私も何か写真を付けて返そうと思ったのだけれど、
うまく撮れずに、結局、短い言葉だけを返すことになった。

そのあと数通のメールのやり取りをして、
午後11時になる前に、電話が掛かってきた。

「姫ちゃん、元気?」

「あんまり、、、」

「何してたの?」

「うーん、、、ブログ読んでた。」

「姫ちゃん、ブログしてるんだっけ?」

「うん。前に話したことあるよね?」

「聞いてない。」

「言ったよー。」

「初耳。」

「すぐ忘れるんだからぁ~。」

「誰でも見れるの?」

「うん、まぁ、そうだけど、、、あ、Nちゃんには見せないよ!」

「ほらぁ。」

「まぁ、いいじゃん。」

「オレは閲覧禁止なんだ。色々、コメントが来たりする?」

「まぁ、それなりに。」


・・・このブログのことが、きっと面白くなかったんだろう。
Nちゃんの知らないところで、私が誰かとつながっているのが
嫌だったんだろう。


「あ、写真、すごく嬉しかったよ。」

「そうなんだ・・・大した反応じゃなかったから、別に、、、かなと思った。」
この言い方がものすごくトゲがあった。

「え?何で?そんなことないよ。嬉しかったよ。
写真ありがとう、って送ったよ。」

「『写真ありがとう、お風呂上がったよ』って来たけど、
それだけだったから、大した反応じゃないし、別にどうでもいいのかなって。」

あまりにトゲのある言い方に悲しくて涙があふれた。

「そんな言い方、、、しなくても、、、、嬉しかったから、
ありがとうって送ったのに、、、、どうでもいいわけないのに、、、、、」

「でもさ、言葉ではそう受け取ったんだよ。」

「嬉しかったから、、、、ありがとうって言ったんだよ、、、、」

「姫ちゃん、、、、泣かないで。ごめん、ごめん。
オレが悪かった。分かったよ。伝わったよ。」


そして、ようやくトゲがなくなった。
あぁ、、、、、長かった。

こういうヤキモチは今だけなんだろうな。


私とNちゃんはPart Time Loverの関係。
全部じゃないから、都合のいいところだけをつまみ食い。



Nちゃんと居ると楽しい。
ただ楽しい時もあれば、
その隙間に切なさを感じる時もあるし、
どうしようもなく醒めた気持ちになることもある。



Nちゃんの夫婦関係については全く知らない。
付き合う前に、
「会話は全くないし、お互い干渉しない」とだけ聞いた。


でも、ある時までは愛し合って居たのだろうし、
Nちゃんのことだから、その愛情を一心に注いできただろう。
ある時までは、努力だってしてきただろう。

それでも、修復しようがない何かがあって、
Nちゃんは外に求めたわけで、きっと、本当なら
初めのように愛情を一心に注ぎたいはず。

でも、それはきっともう叶わない。


もちろん、私だってそうだ。
幸せになろうと歩んできた。


Nちゃんは誠実な人だと思っている。
真っ直ぐで、心の綺麗な人。


だから、そんなNちゃんが私と関係を続けることに
どうしても違和感を感じる。

Nちゃんが欲しい。
でも、それと矛盾するように、Nちゃんと一緒に居てはいけない気もする。


今は、Part Time Loverの関係だから
お互い都合のいいところだけをつまみ食い。
だから、Nちゃんは私と居られるのか。
だから、私はNちゃんと居られるのか。
昨日、Nちゃんとデートした。
別れ際はやっぱりつらい。

別れ際を思うと、デートをするのさえ止めようかと思うほどだ。

どうして、もっと軽く考えられないのかと思う。
思うけれど、やっぱりネガティブにしか考えられない自分がいる。
私はこんなに離れ難いと思っているのに、
Nちゃんはきっとそんなこと思っていないんじゃないかと。

「さ、そろそろ帰ろう。」
そう切り出すのはいつもNちゃん。
だから余計にネガティブになる。

昨日の夜、メールのやり取りでカチンとくることがあって、
「もういいから、ほっといて」と返して、それきり何にも返事をしなかった。
「おやすみ、姫ちゃん」のメールにも何も返さなかった。


申し訳ないなと、思う。
思うけれど、カチンときたんだもん。
思い知れ!!!

今朝は、何事もなかったように
「おはよう、姫ちゃん❤」とメールが届いた。

「おはようございます」と返すと、
しばらくして電話が鳴った。

「姫ちゃーん、おはよう。」

「おはようございます。どうしましたか?」

「体調悪い?」

「いえ、そんなことはないです。」

「そうですか、、、なら、いいですけど。」

「真似しないで。」

「姫ちゃーん、御機嫌直して。」

「別に御機嫌悪くないです。」

「姫ちゃん、大好きだよ。大好きだからね。」

「ありがとうございます。」

「散髪行ってくるよ。」

「はい、行ってらっしゃいまし。」

「行ってきます、、、姫ちゃん、大好きだよ。」

「ありがとう。じゃあ。」


つっけんどんに電話を切ったが、こうなることは
Nちゃんは想定していたはず。
それでも、電話を掛けてきて、「大好きだ」と言ってくれる。

Nちゃんは一生懸命な人だな、と思った。
こういうところが好きだ。
今日は久しぶりに息子たちと出掛けた。

先週、Nちゃんと山の方へかき氷を食べに行った。
いちご、夏みかん、梅、桃、西瓜・・・手作りシロップのかき氷が美味しくて
そのことを息子たちに話すと「食べてぇ」と言ったので、
思い切って行くことにした。

かき氷を食べるために、わざわざ高速道路を使って。
下道で行ける距離ではあるけれど、ま、いっか、と。

最近、子供たちとは全くコミュニケーションを取っていなかった。
だから、たまにはこういうのもいいだろう。
次男はまだしも、長男が着いてくるのも珍しい。

結構な出費にはなったけれど、たまのことだもの。

かき氷を食べた帰り、Nちゃんの職場にある施設に行った。
私は数か月前に彼に連れてきてもらっていたが、
息子たちは来たことがない。
「○○○○行ってみる?」

「うん、行こう。」

そこは、Nちゃんの職場でもあるし、家のすぐ近くでもある。

少し前にNちゃんからメールがあった。
「息子たちと出掛けています。」と、返したが、
ここに来ていることは、何となく言わない方がいいような気がして。

静かな日曜日を過ごしたかったから。
先日の土曜日のデートの待ち合わせ場所は、
いつものように私の家の近くの大型SC。
デートの行き先はNちゃんの家に近い方だった。

だから、帰りは、わざわざNちゃんの家を通り越して、
私の車を置いてあるSCまで行かなくてはならなかった。

デートの帰り道、Nちゃんの生活圏を車で走っていると、
Nちゃんはドラッグストアに車を入れた。
「なに?」

「まぁ、いいから。来なさい。」

トランクを開けて、Nちゃんはエコバッグを取り出した。
(いつも、こうやって買い物しているんだなぁ、、、)

ここは、Nちゃんが日頃利用しているお店だった。
まさに、彼の日常。

Nちゃんの後を追いかけるように着いていった。
(手をつないでいいのかな、、、)

ま、いっか、と思って、
Nちゃんの手を取ると、何の躊躇もなく私の手を握った。


彼は慣れた手つきで買い物かごにあれこれを入れた。
「これこれ。クルミパン。100円だよ。」

前に、話を聞いていた。
すごく美味しくて安いクルミパンが売っているんだ、と。
このドラッグストアは地元のチェーン店で、私の家の近くにもある。
そこらじゅうにあるにだけれど、ベーカリーショップが入っていたり、
お弁当屋さんが入っていたり、そこはまちまち。

そのクルミパンが大好きなんだと、いつもNちゃんが言っていた。

「姫ちゃん、何個欲しい?」

「一個でいいよー」

彼はクルミパンを何個も放り込んだ。


レジを済ませ、車に乗り込むと、
Nちゃんは私に向きなおって、キスをした。

Nちゃんの生活圏にあるドラッグストアの駐車場にとめた車の中で。
この暑さで、毎日バテバテだ。
冷たいものばかり飲んでいるからか、それともただの不調か、
胃の調子が悪くて、ずっと薬を飲んでいる。

仕事のことも、色々あって
全てのことが底辺にあるような感じがする。

昨日も一日、食欲もなく、吐き気で憂鬱だった。
夜になっても、吐き気は治まらず、精神的にも絶不調で
Nちゃんからのメールに返事をするのも億劫だった。

11時を過ぎて、Nちゃんから電話がかかってきた。
私が不調なことを心配して、いつにも増して優しい。
その優しさに、心がほぐれていくようだった。

「しんどいよ」

「しんどい時は何もしなくていいんだよ。」

「けど、やらなきゃいけないこといっぱいある。」

「頑張らなくていいから。」

「うん、何にもしたくない。すごくしんどい。」

「姫、何にもしなくていいよ。オレが全部やるから。
姫は何にもしなくていい。」


Nちゃんのことだから、本当に
全部、全部やってくれるんだろうなと思った。
私がやりたくないことは全部。

想像でしかないけれど、
全部をNちゃんがやってくれること、その気持ちを思って、
涙がこぼれた。


怠け者の私を尻目に、食器を洗うNちゃんの後ろ姿。
洗濯物を片付ける横顔。
私の髪を乾かしてくれる、その優しい手。

そんなことを想像して、胸が熱くなった。
昨日のデートの別れ際、やっぱり離れ難く、
言葉が少なくなる私を察して、Nちゃんが
「大好きだよ。ずっと、一緒だよ。」と、言った。

「ずっと」か、、、、、
その言葉を心の中で反芻しているうちに、
こみ上げてきて、涙が溢れそうになった。

「姫、、、」
Nちゃんは私の名前を呼びながら、運転席から身を乗り出して
私を抱き寄せた。

涙がツルツルと流れると
「姫ちゃん、、、鼻が赤くなるよ。」
と、言いながら、ティッシュでそっと押さえてくれた。

「ずっとずっと一緒だよ。姫を愛してる。
姫がおばあちゃんになっても、ずっと一緒だよ。
変わらないから。」

「うん、、、、でも、、、、いつも一緒にいられないし、
先のことは分からないもん、、、、それに、、、」

「それに?」

「ううん、言わない。」

「未来のことなんて、誰にも分からないよ。
けど、オレは姫のことをずっと愛してるよ。変わらないから。」

「そんなの分かんないし。」

「分かるよ。ずっと一緒にいたいって気持ちを
つなげていけばいいんじゃないのかな。
先のことはその時考えよう。何とかなるさ。」


Nちゃんの「何とかなるさ」は、力強かった。
信じたい、と思った。
けれど、同じだけ、その言葉の裏にある無責任さにも
ため息が出た。


NちゃんはNちゃんなりに、私を愛してくれていると思う。
私のお願いを聞き入れて、毎日、電話をしてくれるし
毎週末に逢う時間も作ってくれてもいる。

でも、それだけだ。


そういえば、誕生日にもらった手紙に書いてあったな。
「姫がいるから、毎日が楽しいよ。」と。


私の全部はもうNちゃんで占められていて、
でも、Nちゃんの全部は私では占められない。
ほんの一部の隙間が私というパーツで埋まっただけ。

そりゃ、「楽しいよ」って言えるよね。
先日、仕事で今話題の清宮監督に会った。

私は清宮監督が大好きだ。
十数年、ずっと憧れ続けている。

スタジアムで見掛けたり、ファン交流会で対面したりは
これまでにもあった。

けれど、ダイレクトに仕事というのは初めてのこと。
ウキウキして、Nちゃんにも話をした。

まぁ、案の定、分かりやす過ぎるヤキモチを妬かれたが、、、


清宮監督は、やっぱりめちゃくちゃかっこよかった~
目の色素が薄く、オリーブグリーンのようだ。
吸い込まれそうなくらいのオーラがあった。

、、、仕事なので、余分な話は全くできず、
けれど、帰り際に、思い切って「監督!」と、呼びかけて、
右手を差し出した。

清宮さんは、右手に持っていたボルヴィックを左手に持ち替えて
しっかりと握手をしてくれた。

分厚い手だった、、


あぁ、素敵だったなぁ。


仕事を終えて、
「今日は女の子の顔になってたよね」と、
オフィスの責任者からからかわれ、取引先からは
「何かいつもと雰囲気違わない??気合入ってる?」
と、言われたことをNちゃんに報告すると、

「良かったね~。好きな人の前では気合が入って、
女の子の顔になるんだね~」
Nちゃんは、そう言いながら、不服そうな顔をした。

「Nちゃんの前だって、いつも気合入ってるよ。」

「はいはい。」

「ほんとなのに。Nちゃん大好きだよ。」

「監督の次に?」

「そんなことないよ。Nちゃんだけだよ。」

「オレは監督みたいに素敵じゃないけどね。」

「あぁ、もう、めんどくさい!!」