FC2ブログ

姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

時刻は午後2時になろうとしている。
どうか、空室がありますように、、、心の中でそう願った。

一軒目は満室で、
「この時間はどこもいっぱいかなぁ、、、」
Nちゃんがつぶやく。

二軒目、空室があり、車を入れた。

冷蔵庫のようにキンキンに冷えた部屋に入ると、
何も言わず両手を広げたNちゃん。
だから、私は彼の背中に腕を回して力いっぱい彼に抱きついた。
Nちゃんの胸の厚さを確かめるようにきつくきつく抱きしめた。

下着のままベッドに横になり、体を絡ませて
お互いを呼び合って、お互いを確かめ合った。
そこには、もう不安なんて入り込む隙は1ミリもなく、
ただ、お互いを求め合った。

「お風呂入ろっか。」

シャワーで体を流してバスタブに入ろうとすると、Nちゃんは
私を引き寄せて、スポンジにボディソープをつけて洗ってくれた。
「このスポンジ、ザラザラして痛い、、」
私がそう言うと、彼は手のひらで私の全身を洗った。

彼が膝をついて体をかがめると、腕を私の脚の間に滑り込ませる。
「何、それ?何かのサービス的な?」

「商売のお姉さんはこうやって洗ってくれるんだよ。」

「ふーん、、、気持ちいい?」

「まぁまぁね。」

そうか、そりゃ、長い人生、風俗くらい行ってるわな、、、


バスルームを出て、ベッドに戻り再び全身で抱き合った。
彼は私の全身を愛撫し、私も同じようにした。
いつもと違うのは、お互いをしっかりと見つめる時間が長かったこと。
そこには言葉はない。ただ、じっとお互いをしっかり見た。

とにかくNちゃんが愛おしかった。
だから、いつも以上に彼に名前を呼んだ。「Nちゃん、Nちゃん、、、」
そして、ただじっと見つめた。

「なぁに?」彼が私を見つめた。
彼の指は私の中に入っている。

「こんなヤラシイことしてるのにさ、普段は真面目な顔して仕事してるんでしょ。
そう思ったら、Nちゃんヤラシイって、余計に思っちゃう。」

「興奮する?」

「うん、興奮する。」
そう言うと、彼はさらに激しく私を愛撫する。
Nちゃんにされていることに神経を集中させると、私はあっという間に昇りつめた。

そして、今度は私が彼を口に含んだ。
彼の脚の間に入って、彼を深く咥えると、
頭の上のほうから私の好きな声が聞こえる。
「あぁ、、、ん、、、気持ちいい」

鼠径部に舌を這わせると、彼は腰を浮かせ、脚を開いた。
これが気持ちいいのか、、、そう思いながら、下に向かうと、
脚がさらに開いた。

Nちゃんが感じてくれているのが嬉しく、
そうっと、彼の顔を見ると、目を閉じて意識を集中しているようだった。

私が体を起こすと、Nちゃんは私を仰向けに寝かせて挿入した。
体が密着して、彼の息遣いが耳元で聞こえる。
「姫ちゃん、大好きだよ。」
「もっと言って。」
「姫ちゃん、愛してるよ。」
何度も何度もそう言う彼に私はしがみついた。

しばらくして、Nちゃんの動きが緩やかになる、背中は汗で湿っている。
「おじちゃん、疲れたの?」

「何で分かるの?」

「だって、おじちゃんだからね。」
Nちゃんは数日前、47歳になった。

「うーん、、、ちょっと休憩!」
彼は体を起こして、仰向けに寝た。
抱きつくと、彼の体はじっとりと汗ばんでいる。
「汗かいて臭くない?」

「全然。」
彼からは男臭がしない。加齢臭も全くない。

「ほんとはオレ、47じゃないのかな?」

いつもは、彼の腕に抱かれて眠るが、昨日は
私が彼の頭を胸に抱いた。
彼の頭が重みを増すのに2秒と掛からなかった。
全身から力が抜け、腕がピクリと動いて、完全に眠りに落ちるNちゃん。

しばらくして目を覚ました彼の上に乗ると、再び硬くなっていた。
少し眠ったからだろうか、彼は余計に敏感になっている。
腰を深く沈めて動くと、
「ダメ、行っちゃうから。」と、彼は私の腰を両手でつかんで動きを制止した。

それでも、私が動きを止めずにいると
「ダメだって、出ちゃうって。」と、今度はより強い力で、私を持ち上げた。
私が彼の力に逆らって腰を落とすと、
「姫ちゃんの中に出していいの?出ちゃうよ。」
困ったような表情で私を見た。

あと数日で生理が来るだろう。胸が張っている。
私は腰を沈めながら「いいよ」と言った。


今まで、彼がコンドームをつけなかったことはない。
だから、きっと無理やりどかされると思ったら、彼は私の動きに任せて目を閉じていた。
「姫ちゃん、、、あぁ、、、ん、、、イクよ。あぁ、、、、、」

私の中にも、伝わるものがあって、熱いものを感じた。



シャワーを浴びて、ホテルを出てさよならをしたのが5時半。
こんなにも長い時間一緒に居たのは久しぶりだ。


家に帰って、トイレに入って、おしっこをした。
アンモニアの匂いの中に、栗の花の香りがして、
それがまた嬉しくて、トイレットペーパーに鼻を近付けて確かめた。
スポンサーサイト



「明日はお昼ご飯を一緒に食べよう」
Nちゃんは私にそう言った。

いつもの場所で落ち合い、彼の車に乗り換えると、
優しく穏やかな視線が私に向けられた。
「姫ちゃん、、、逢いたかったよ。毎日逢いたいって、思ってたよ。」



「海鮮丼と菜めし田楽、どっちがいい?」

「うーん、、、じゃあ、海鮮丼」
私がそう答えると、Nちゃんは車を発進させた。

向かったのは漁港。
新鮮な魚をふんだんに使った丼が食べられるお店だ。
オープンエアで簡易なイスとテーブルが並ぶ。

海鮮丼と太刀魚のフライを注文し、席についた。
潮風が心地いい。
隣同士で座ると、Nちゃんは私を見つめる。
その距離はほんの10センチにも満たない。
「姫ちゃん、、、」
彼は私にキスをした。


食事を終えて車に乗って、もう一度キスをした。
さっきの乾いたキスとは違う湿ったキスは、醤油の香りがした。
「どこに行きたい?」

「考えてないよ。Nちゃんは考えてないの?」

「うん、ここまでしか考えてなかった。」

目的が定まらないまま車を走らせたが、
私は本当はNちゃんに抱かれたかった。
セックスではなく、ただ抱き合いたかった。

Nちゃんはどう思っていたかは分からないけれど、
でも、向かった先はラブホだった。
この一週間、Nちゃんとはほとんどやり取りをしていなかった。

前の記事に書いた通り、何度となく繰り返された彼のやり方に
私が耐えきれなかったのもあるし、
家の中で腹立たしいことがあったのが重なって、心身が疲弊していたからだ。

Nちゃんは、生来の鈍感さで、私の気持ちが沈んでいることが
自分に由来しているとは思っっていないのか、その暢気さで
私をいら立たせていた。

週初めには
「色々なことに押しつぶされそうで、冷静でいられません。
誰とも話したくないし、接触したくない。」
と、彼にはメールで伝えた。

だから、彼からのメールには最低限しか返信もしなかったし、
毎日欠かさずにある、おはようやおやすみのメールさえも
無視することも多かった。

それでも、Nちゃんは毎日必ず、おはようとメールをくれたし、
そこには「愛してる」と添えられてもいるし、
どれだけ返信しなくとも、一日の最後にはおやすみとメールもくれた。
「疲れちゃったかな…ゆっくり休むんだよ。心配してるよ。大好きだよ。」、と。

私が誰とも接触したくないと、ほとんどのメールに返信をしなかったにもかかわらず。


木曜日はNちゃんの誕生日だった。
せっかくの誕生日なのに、彼には何もしてあげられないし、会うこともできない。
だから「おめでとう。」と一言だけのメールを送った。

「ありがとう、嬉しいよ。」と、返信があり、翌日つまり、昨日、
私は思い切って、彼にもう一度伝えた。
私が何を嫌だと思っていて、何が辛いか、どうして欲しいのか、と。

Nちゃんの何気ない言葉や行動、考えが私に影響を与えること、
Nちゃんの言動が私にとっては残酷であること、
私をフォローするためには想像力をもっともっと働かせてほしいこと、
それがNちゃんの私に対する愛情の深さだと思う、ということ。

そして「そういうことがNちゃんには理解できて、二度と同じことをしないと、約束できますか?」
と、締めくくった。

すぐに
「できるよ。だって、姫ちゃんのことを愛しているもん。」
と、返ってきた。

さらに
「また同じことがあったら、もう一緒にはいられない。
私に愛情を持ってくれているなら、絶対しないはず。」
と、返すと、そのメールに返事はなかった。


私はずっと待っていた。
それでも、Nちゃんからの連絡はなく、
「こういうことがいやなんだよな、、、何で分からないんだろう。」
と、ガッカリした。

2時間以上経ってから、メールがあった。
「姫ちゃん・・・・」と、ただそれだけのメールが。

「何ですか?」と返すと、電話が鳴った。

「さっき、電話したんだけど。気付いてない?」


あ、、、不在着信が。

そう、私が台所にいる間に着信があった。
しかも私が、「約束できますか?」の後のメールを送ったすぐ後だった。

「もう、電話に出てくれないのかと思ったよ。
声も聞きたくない、顔も見たくないのかと。」

「ううん、そうじゃない。ごめん。」

「よかった。じゃあ、明日逢えますか?」


そして、Nちゃんは、これからちゃんと予定を知らせるということ、
私に辛い思いをさせないということを約束した。
この一週間、ずっと心配していたこと、
「誰とも接触したくない」と言われたから、逢いたくてもどうすることもできなかったこと、
静かに休ませてあげたかったんだということを、私に話して聞かせてくれた。






頭の中が混乱していて、心は乱れっぱなしの状態がずっと続いている。
ふとしたことで感傷的になると、途端に涙があふれて止まらなくなる。

自分のことなのに、どうしたらいいのかが分からない。
分からないから、いつまで経っても混乱から抜け出せない。

Nちゃんからメールが来ても返せないし、電話がかかってきても
「うん」、「ううん」、「分かんない」…と、言葉少なに対応するのが精いっぱいだ。

発端は、こないだの週末のこと。
Nちゃんから、土曜日の朝、珍しく電話がかかってきた。
買い物に行く途中とか何とか言ってたっけな。
道程の30分くらい話しただろうか。
「着いた」と、彼が言ったので電話を切った。

それからしばらくメールも何もなく、午後1時になって
「子供たちとイオンに行ってくるね」とメールがあった。

正直、こういうメールはどう反応してよいか分からないし、
無神経だなと感じる。
…なるほど、今日は逢えないのね。
そう、あきらめるしかない。


彼と付き合ってもう半年以上。
デートをする日を前もって約束したことが一度もない。
いや、2、3度はあったかもしれない。
けれど、ほぼいつも、いきなり告げられる。
「今から逢えますか?」、「午後から逢えますか?」と。

だから、いつもバタバタと支度をし、
あるいは、彼からそう言われなければ、ガッカリとした一日を過ごすことになる。
期待をしなきゃいいのだし、彼のことなんかお構いなしに
私が自由に予定を入れれば済む話なのだろうけれど、
やっぱり彼に会いたいし、彼を優先したいという気持ちが捨てられない。

それで、結局、その日のその瞬間になって、ガッカリしたり、
喜んだり、を繰り返してきた。


土日のうち、一日会えればまだいい。
三連休の三日間とも会えなければ、私は三日間続けてガッカリすることになるのだ。

だから、その都度、私はNちゃんにお願いをした。
「予定を聞かせて」、「前もって知らせてほしい」と。

その時は、彼も分かってくれたふうで、「ごめんね。気をつける。」と
謝ってくれる。

でも、それがもう何度も何度も、何度も繰り返されている。


こないだの土曜日はそんなわけで彼とは会えず、
自動的に私は日曜日に期待をした。

日曜日も朝から電話がかかってきた。
これも、今思えば伏線だったのかもしれない。
小一時間は電話で話しただろうか。
「これから散髪に行ってくる」と、彼。
その後、「ただいま」とメールがあったのが11時ごろ。
前日も、そしてその日曜日も「頭が痛い」と彼は言っていた。
「ずっと痛いんだよ。重い感じ。」

昼になり、午後になり、Nちゃんから何の連絡もなかった。
私はイライラし始めた。
「何で、一言、会えないんだ」と連絡してこないのか。


午後1時を過ぎ、2時を過ぎ、ふと、心配になった。
頭が痛いって、、、大丈夫だろうか。
それで、私は「何かありましたか?大丈夫ですか?」とメールを送った。

1時間半ほど経ったころ、
「だいじょうぶだよ、姫ちゃん。今、職場に来ているんだ。」
と、メールがあった。

休日でも、時々、緊急の呼び出しがあるので、それだったんだろう。


それにしてもだ、一報くらい出来はしないか。




そう思っていると、無性に腹が立ち、イライラは爆発寸前だった。


彼はいつも私にこう言う。
「オレは誰よりも姫ちゃんが大事。誰よりも愛してる。
ずっとそばに居るし、姫ちゃんのことを守る。離したりしないよ。ずっと一緒に居よう。」と。


けれども、彼が大事なのはやっぱり家庭なんじゃないか。
いや、ないがしろにしろと言っているんじゃない。
でも、私は?

私だって、Nちゃんを必要としている。Nちゃんが欲しい。
Nちゃんをじっと待っている。

そんな私に、時間を割いてほしいと言っているんじゃない。
待つことしかできない私に、想いを馳せてくれたっていいじゃないか。
大事にされている、愛してくれていると、安心させてくれたっていいじゃないか。


なぜ、それが出来ていないと思わないのだろうか。
なぜ、それを私が苦にしていると思わないのだろうか。



そんなことがあって、日曜日の夜、
私の家庭内でトラブルが発生した。
もう表現しようのない怒りが、私の中に充満して、爆発した。


そして、行き着いたのは
「私の居場所はどこ?」ということ。


ここにも、あそこにも、どこにも私の居場所はない。

Nちゃんからメールは毎日、毎日、届くけれど
ほとんど返信できずにいる。

あまりにツレないかと思って、
「今は、自分の気持ちがうまく話せない。ごめんね。」と送った。


Nちゃんから
「無理しなくていいよ。話せる時に話して。」と、
ニッコリマークの絵文字とともに返ってきて、


やっぱり、全然、通じてないんだな、と思った。

…そうは言っても、Nちゃんのことが好きだ。
愛おしくて愛おしくてたまらない。

こんなこと、ずっとは続かないと、自分に言い聞かせてみるけれど、
どうしても期待をしてしまう。
ダメだな、私。


Nちゃんは私を「姫ちゃん」と、ちゃん付けで呼ぶ。

今まで、はずみで呼び捨てにされたことが数度あって、
そのたびにドキッとしていたが、特に何も反応をせずにいた。


数日前、Nちゃんからのメールに
「お疲れさま、気を付けて帰るんだよ○○。」
と、私の名前が呼び捨てにされていた。

思わず、ドキッとして、頬が紅潮した。
ひょっとして間違い?入力ミス?

しばらくして、
「さっき、呼び捨てにされてドキッとした。嬉しかった。
何かの間違いかな?」と、返信をすると。

「愛してるよ、○○。」
と、再び呼び捨てでメールが来た。

私は幼い頃から、名前を呼び捨てにされる習慣があまりなかった。
両親は「ちゃん付け」で、私を呼んだし。
お付き合いしてきた彼も「姫ちゃん」と呼んだ。
ひろも私を呼び捨てにしなかった。

私を呼び捨てにしたのは、兄と夫だけだ。
兄とは、色々あってもう数年来言葉を交わしておらず、断絶状態で、
夫はもう長く私の名を呼ばない。

だから、今、私の名を呼び捨てにする人はいないのだ。


Nちゃんに呼び捨てにされて、とても新鮮で嬉しかった。
突然、所有物になった気さえした。
何を思って、彼が私の名を呼び捨てにしたのか分からないけれど…




だからって、何?って話だけど。

ネガティブモード真っ只中にいる。

仕事が一段落して時間を持て余しているせいもあるのだろう。
また、梅雨時の不安定な気候が頭痛を引き起こしているからかもしれない。

何にもしたくない。
もう何もかもなくなれ!と思う。

今日は仕事を早々に片付けて、午後早い時間に帰宅した。
私は怠けている、という罪悪感が余計にネガティブモードを助長する。

帰宅途中、テレビで「卑劣な男」について放送していた。
ストーカーだか何か、よく覚えていないが。
その話題を見ながら、ひろのことを思い出した。

数年前に、ひろが私に対してやったこと。
元はといえば、私が原因を作ってしまったのだけれど、
でも、私が逆の立場なら、ああはしない。
恨みはするかもしれないけれど、あんな破滅的行為はしない。

今更、私が言えた義理ではないが、
ひろには致命的に欠陥があったのかもしれない。
そんなひろと、なおも一緒に居続けた私は一体、何者。
私だって、同じように欠陥人間なのだろう。

そう考えると、恐ろしくて忌々しくて、
もう何もかもなくなれ!と、心の中で叫んだ。

心の中に重い鉛のような物が沈んでいる。
いつまで経ってもなくならない。


半年後、私はどうしているだろう。
一年後、どうしているのか。
二年後、三年後、いや、五年後は?

十年後、一体、私はどんな生活をしているのだろうか。


そこにNちゃんはいるだろうか。
図々しくも、そんなことを考えて…
もし、そこにいないのなら、今は何?
だったら、もう全部何もかもいらないって

今、そこはかとなくそんな気持ち。
土曜日、Nちゃんと逢った時、私はとてもラフな格好をしていた。
普段は、どちらかと言えば、女性っぽいスタイルが多い私。

その時は、水色の大きなブロックチェックの七分袖のシャツに
ロールアップしたジーンズをはいて、足元はラメラメゴールドのバレエシューズという
スタイルだった。

待ち合わせ場所の家電量販店に向かうと
「3階にいるよ」とメール。

Nちゃんの待つフロアに行き、落ち合うと、
彼は私を見るなり
「姫ちゃんいいね、可愛いね。そのシャツすごく似合ってるよ。」
と、言った。

「ほんとに?ありがとう。」

「うん。すごくいい。すごく可愛いよ。」
Nちゃんは私をまじまじと見ている。

「そんなにぃーー??」

「うん。ほら!!」
彼はそう言って、私の肩をつかんで
お店の柱の鏡の前で立ち止まった。

鏡に映っているのは、後ろからNちゃんに抱かれるような私の姿。
恥ずかしくて正視できない。
「可愛いでしょ。」

「え、それほどでも、、、、」

シャツの下には同じくブルー系のチェックのタンクトップを着て、
シャツのボタンは一つしか留めていなかった。

車に乗ると、彼は写真をいっぱい撮って、それからこう言った。
「姫ちゃん、ボタン留めなきゃダメでしょ。」

「え?別に見えてないし。」

「見えるから。見せちゃダメ。」
そう言いながら、Nちゃんは手を伸ばしてボタンを留めた。

ちょうど駐車場の警備員のオジサンと目が合った。
Nちゃんは私の胸の位置のボタンに手を伸ばしているところ。
アハハ・・・開けようとしているんじゃない、閉めようとしているんだけど。



というわけで、このあとも、Nちゃんは私の写真をたくさん撮った。
このブロックチェックのシャツが気に入ったんだろう。


そうそう、このシャツ・・・
ひろも好きだった。「お前、これいいね。」って言われたっけ。

このシャツ、男好みってことなのかな。
Nちゃんは家事全般をこなす。
まぁ、その家庭家庭の状況があるから、どんな事情があるのか
分からないし、敢えて聞くつもりもないけれど、
とにかく、彼は毎日、家事全般をこなしている。

付き合い始めのころに、あまりに可哀想な気がして、少し尋ねたら
「放っておくと誰もやらないし、オレがやったほうが早いし、
気持ちいいからね。全然苦じゃないし。」
と、彼は答えた。

「何もやってくれないの?」

「あっちはご飯を作るだけ。」
"あっち"と表現したことに、少し胸が痛んだ。

Nちゃんは仕事柄毎日朝が早く、残業はほとんどない。
夜7時~8時の間に帰宅して、晩ご飯を食べ、
そこから彼の家事タイムが始まる。

このごろようやくNちゃんの行動パターンが分かってきた。

食事後、洗い物をし、入浴。
その後洗濯して、干す。

休日は朝早くから「掃除洗濯大会」が始まって、
買い物。午後、予定がなければ私と逢う。

日曜日の夜は1時間半ほどかけて「アイロン大会」。
制服にアイロンがけはきっと大変だろう。

けれども、Nちゃんはそれを全く苦にしない。
職業柄、身の回りのことは全てきちんとこなす
癖が身についているようだ。

だから、私が家事を苦にして、「あぁ、やだ~」と言っていると
「オレがやってあげるのに・・・」と言われる。
きっと、本当に全部やってくれるだろう。

そんなNちゃんを私は尊敬する。

彼は穏やかで声を荒らげることもなく、怒ることもない。
いつも一定の情緒を保ち、冷静だ。
時々、ポーカーフェイスに腹が立つくらい。

ひたむきで、まじめなところも大好きだ。

体育会系過ぎて、おまけに昭和過ぎて、
ちょいちょい小ネタを挟んでくるのが、ちょっとうざったい時もあるけれど、
ここぞ、という時には本当に頼りになる。

私は地図が読めない典型的な女なのだが、
Nちゃんは動物のように本能的に地理を把握するという特技を持っている。
だから、道に迷うということがない。

ナビが不案内でも、しばらくにらめっこすると
I got it!言いながら、車を走らせ目的地に到着する。

私が行きたい場所を言うと、ふむふむと考えて、
迷うことなく連れて行ってくれる。

地図の読めない私にとっては、もうとってもミラクルなことだ。


私がグズグズ言っていると、穏やかになだめてくれる。
「姫ちゃん、ずっとそばにいるから。安心して。」

「そんなの分かんないし。先のことなんて、分かんない。」

「オレは分かる。オレがそう言ってるんだから、そうなの。」

「分かんないよ。」

「分かれ!」
最後は、「分かれ!」と目をじっと見て、言う。

そう言われるのが好きで、時々、グズグズ言ってみる。



そんな私の好きなNちゃんはハスキー犬みたいな顔をしている。
精悍な顔立ちだけれど、ちょっとマヌケな・・・

よくよく見ると、誰かに似ている・・・
と、思って気づいた。
風間トオルに似ている!

すごく似ている。
けれど、イケメンってわけじゃないんだよな、これが。アハハ・・・
Nちゃんへのプレゼントはロクシタンのオンラインショップで買った。
その時に、ちょっと腹が立つことが・・・

先の記事で書いたように、シェーバーを買ったのだけれど、
当然ながら、替え刃が必要であるはず。
なのに、オンラインショップの商品説明にはどこにも
替え刃に関する情報がない。

ネット上で色々と検索してみたけれど、ヒットせず。
でも、替え刃が手に入るかどうかもわからないシェーバーを
プレゼントするのも、憚られた。
だって、困るでしょ?

それに、そのシェーバー、結構いいお値段なのだ。
だから尚更、気になった。

でも、ほかに思いつくものもなく、結局、カスタマーセンターに
問い合わせることにした。

オペレーターに商品名を告げ、
「替え刃についてお聞きしたいのですが」と伝えると、
少し待たされて、
「お問い合わせの件、少々お時間をいただいて良いでしょうか?
こちらからお掛け直しいたします。」との返答があった。

それから2時間ほどあとだったろうか、そう若くはない女性担当者から
電話があった。
「ロクシタンの○○です。お問い合わせの件、シェーバーの替え刃に関して
でございますが、ジレット社の替え刃をご利用になれます。」

「はぁ、、、えーっと、ジレットと言っても色々と種類がありますよね?
何を使えばいいんですか?」

「ドラッグストアで販売しておりますので。」

「いえ、ですから、どの商品でも良いんですか?」

「ご心配でしたら、シェーバー現物をお持ちになってお買い求めください。」

「あ、はぁ、、、あ、、、分かりました、、、」

「よろしゅうございますか?他に何か?」

「いえ、結構です。」
そして、私は電話を切った。

はぁ?他に何か、だとーーーーー

なんだ、その上から目線な物言いは。
お前はロクシタンの看板しょってるんだぞ!!!
分かってんのかぁーーーー


しばらく、茫然として、それでやっぱり腑に落ちなくて、
今度はオンラインショップ上からメールでお問い合わせをした。

「先ほど同じ問い合わせをしましたが、返答が丁寧でなく、
不親切でした。シェーバーのギフトセットなのですから、
使うのは当然私自身ではありません。
となると、贈る相手に『替え刃は○○を使ってね』と、
一言添えたいわけです。お分かりですか?
贈る相手に、『シェーバー現物をドラッグストアに持っていけ』と、言えますか?」


そうしたら、翌日、とても丁寧な返答があった。
これで一件落着し、無事にオンラインショップで購入に至ったのだ。


・・・という出来事も、Nちゃんに話した。
あきれられるかと思ったら、共感してくれた。
あぁ、良かった。


「だってさ、シェーバーは使い捨てじゃないんだよ。
当然替え刃が必要なんだからさ、その情報って欲しいでしょ。」

「そうだね。ひょっとして使い捨てなのかもよ。」

「えー!!結構、お高いんですけど、、、、」


アハハ・・・

去年、まだNちゃんと付き合い始めた頃のこと。
何でだったか、シアバターの話になったことがある。
秋冬の乾燥する時期に、リップクリームとして愛用していた
ロクシタンのシアバター。
すごくいいんだよ、と彼に教えてあげた。

その夜、Nちゃんから
「さっきのあれ、何だっけ?ロキソニン?」
ってメールが来たので、
「それは鎮痛剤でしょ、、、ロクシタンです。」
と返したことがある。

その後、未開封のロクシタンのシアバターを彼にあげて、
ロクシタンのことを少しだけ説明した。

それから数カ月・・・

Nちゃんの誕生日は今月。
誕生日プレゼントはどうしようかとずっと考えあぐねていた。
Nちゃんは休日は髭を剃らないので、ハグをし、キスをすると
とても弱い私の肌は真っ赤になる。
Nちゃんの髭は濃くはないが、とても硬く、痛い。

何とかして欲しい・・・そう思ってロクシタンのグルーミングアイテムを
ずっとチェックしていた。シェーバーやクリームはどうだろう、と。

すると、先月半ばごろだったか、彼が突然、
「姫ちゃん、ロクシタンのコロンを買おうと思うけど
オススメある?」
と聞いてきたので、びっくりして
「え、っと。Nちゃんの誕生日プレゼントにするから、それちょっと待って。」
と、言わざるを得なかったのだ。

せっかく内緒にしていたかったのに。

グルーミングアイテムと一緒に、何かフレグランスも買おうと
思っていたところだったのだ。

Nちゃんは体育会系なのに、いつも軽くフレグランスをつけている。
だから、プレゼントには私の好みの香りを贈りたかったのだ。
愛用しているのはケンゾーとのこと。


ロクシタンのオンラインショップで色々と探して
シェーバーのギフトセットと、フレグランス3種を選んだ。
結構こだわりのあるNちゃんのために、3種選べば、どれかは当たるかと思ったのだ。

そんなわけで、少し早いが、誕生日にタイミングよく
渡せる保証もないので、先日、土曜日に渡した。

たぶん、喜んでくれたのではないかと思われるが、
果たしてどうだろうか・・・
こんなにも汗をかくようになったのは、ここ一年ほどのこと。

元々、私は汗っかきではなかった。
なのに、今、激しく汗をかく。
少し動いただけでも汗がにじむのだから、
セックスすると、それはもうものすごい。

背中はシャワーを浴びたかのようにびしょ濡れになるし、
額の汗は頬を伝って顎から滴り落ちる。

だから、Nちゃんはたびたびバスタオルを取って、
私の汗を拭きとる。
「姫ちゃん・・・大丈夫?汗びしょびしょだよ。」

「うん。大丈夫。そういうお年頃なんだよ。」

「老化か、、、」

「老化って言うな!!」


拭いても拭いても流れてくる汗。
Nちゃんは、優しい笑みを浮かべて「大丈夫?」と
バスタオルを手に取る。

「Nちゃんは汗かかないね。」

「俳優だからね。顔汗かかないの。それにオレ、動いてないから。」

そうなのだ。私はずっとNちゃんに馬乗りになっている。
Nちゃんはただ、ベッドに仰向けになって、時々バスタオルを取って
私の汗を拭い取るくらいだ。

そして、私が動きを止めて息を整えていると、
Nちゃんは腰をクイと突き上げるように動く。
「手抜きしてるなぁ、って思ったから動いてるの?」

「そんなことないよ。」

そして、Nちゃんはクルリと態勢を変え、私を下にした。
「手抜きしてないっていうとこ見せとかないと。」


Nちゃんの背中に腕を回し、きつく抱き締める。
彼の胸と私の胸が密着する。
Nちゃんの首筋に唇を寄せながら、彼の表情をちらりと見た。
軽く目を閉じ、集中している。
胸と腰が密着する。
もっと、もっと密着するように、Nちゃんの首に手を回して頭を抱き寄せた。

Nちゃんの背中は汗でびっしょりだ。

「うー暑い暑い。」
Nちゃんはバスタオルを手に取ると、今度は自分の体の汗を拭った。


汗でびしょびしょのバスタオル。

Nちゃんが果てて、シャワー浴びてベッドに戻ったら、
シーツもびしょびしょだった。


Nちゃんとのセックスは気持ちいい。
けれど、何もしなくても、ただ一緒にいるだけで
心は満たされているなと、今日、交わって、改めてそう思った。


Nちゃんの感触、声、表情を目に焼き付けておこうと、
じっと見つめた。
昨日、ラブホはどこも満室で私とNちゃんは難民になった。
「したかった・・・」
「そうだね。したかったね。」
別れ際にハグしながら、悔やんだ。

夜遅くのメールのやり取りでも
「したかったね。」が続いた。

Nちゃんは逢うたび私を求めることはなく、
かれこれ一か月近く交わっていない。
「もうずっとしてないよ。」と送ると、
「そうだね・・・」と返ってきた。

「でもオレは姫ちゃんのそばにいられるだけでも嬉しいよ。」
と、送られてきたので、

「私ももちろん、Nちゃんを見ているだけで嬉しいけれど。
特別なことだから。特別な人とすると『あぁ特別だな』って
感じて心が満たされるの。だから時々、確かめたくなるの。」

「そんなふうに思ってもらえて嬉しいよ。」



そして、今日。
午前中は色々と忙しく過ごし、お昼ご飯を食べてしばらくすると
Nちゃんからメール。
「姫ちゃん~、しよう。」

何のことだろう?と、一瞬考えて、我が目を疑った。
そして、嬉しくて、「するー」と返し、急いで支度をした。

「じゃあ、ヤマダ電機に集合!」



Nちゃんと落ち合ったのは午後1時前。
何も言わずに車を発進させ、いつものホテルに向かったが
まさかの満室。

「・・・次に行こう。まさか二日続けて空振りは嫌だね。」
Nちゃんがつぶやいた。

2軒目。
空いてる!けっこう空室があった。
良かった・・・私も彼もようやく安堵した。


入った部屋はサンルームにバスルームがあって、ベッドにも
サンサンと陽が差している。
「明る過ぎるよ、、、」
サンルームの窓のスクリーンを半分程下した。
すでに、Nちゃんは全裸だ。

彼は全く恥ずかしがるということはなく、潔い。
「姫ちゃん、お風呂入ろ。」


そして、久しぶりに二人でお湯につかった。
あまりの明るさに恥ずかしくて、バスルームでは何もせず、
早々にベッドへ行った。

Nちゃんはとても色白で、キメの細かい肌をしている。
筋肉がしっかりとついた肩を包むように抱きしめて
彼を全身で感じた。
「どうしたの?」

「だって、ずっとこうしたかったんだもん。」

「そうだね。おいで、姫ちゃん・・・」

Nちゃんは腕を広げて私を抱き寄せた。
今日はNちゃんと二人、難民になった。

午後1時前、Nちゃんからメール。
「今から逢えたりする?」

そして午後2時前に待ち合わせ場所で落ち合った。
いつもならここで、彼は
「姫ちゃん、どこ行きたい?」と訪ねてくるが、
今日は何も聞かずに、何も言わずに車を発進させた。

向かったのはインター近くのラブホ街。

Nちゃんとセックスしたのは、先月半ば過ぎだったから
かれこれ、もう一か月もしていない。
先週、Nちゃんは同じくここに向かったけれど、
私がちょうど生理中で、行き先を変更していたのだ。

いつものホテルは満室。
「この時間はいっぱいだな。」

そして隣接するホテルに行ったけれど、
やはりそこも満室だった。
「何でこんなにいっぱいなんだ。」

そしてまた別のホテルへと向かったけれど、やはり満室。
結局、10軒近く回ったけれど、どこにも入れなかった。

「姫ちゃん、どうする?」

「したい。」

「そうだね。したいね。」

「うん。」

「困ったね。けど、しょうがないね。行先変更。」


そうして、郊外にお茶しに行った。

「残念だったね。したかったね。」と、彼。

「うん。したかった。」

「なにを?」

「セックス。」
私がそう答えると、Nちゃんは吹き出した。

「はっきり言いますなぁ。オレも姫ちゃんのオッパイ舐めたかった。」

二人で残念がりながら、車を北へと走らせた。


恋という魔法は強力だと、少し前に書いた。
それから、何度もその言葉を反芻している。

そのたびに、確かにその通りだと、妙に納得する自分がいる。
今までだって、そう思ってこなかったわけではない。
でも、こんなにも意識はしてこなかった。

だからこそ、懲りずに何度も何度も恋をしてきたのだろう。

最近になって、やっぱり「恋は魔法だ」と思うようになって、
正直ホッとしている自分もいる。
なんというか、自然に受け入れられるというか、
ほんの少しだが、冷静に「これは魔法、これも魔法」と
思えるのだ。


あんなに好きだったひろ。
もちろん、ひろは魅力のある男性だけれど、
今は、もうかつてのような感情は抱けない。
でも、その時は、愛おしく、狂おしく、泣きたいほどに
大好きだった。
ひろのいない人生なんて考えられなかったし、
生きていけないとさえ思っていた。


そこまで思えるんだから、ある意味幸せだったな、私。
で、何と恋は強力な魔法なのか。



今はどうだろう・・・

今、私はNちゃんが好きだ。大好きだ。
でも、やっぱりこれは魔法に過ぎなくて。

彼はものすごくイケてるわけじゃないし、
イケメンなわけではないし、
趣味が合うというわけでもなく、
価値観が全く同じというわけでもなく、
話がめちゃくちゃ合うというわけでもなく、
かゆところに手が届くというわけでもなく、
私に貢いでくれるわけでもなければ、
私の言いなりになってくれるわけでも、当然なく。

はて?

何がいいんだ?
と、考えれば、やっぱりそれは恋の魔法にかかっているからとしか、
言いようがない。

恋の魔法のせいで、
Nちゃんがものすごく素敵に見えるし、
特別に見えるし、愛おしく、かけがえのない存在に思える。

魔法だもん。




そう、彼に言うと、彼は
「魔法じゃないよ。魔法じゃないから、解けないよ。」と言った。


魔法なんだけどね・・・
解けなきゃいいね。
Nちゃんはとにかくストレートに私への愛情表現をする。
毎朝、おはようのメールには
「姫ちゃん、いっぱい愛してるよ。」の言葉を欠かさないし、

おやすみの電話のあとにも、またメールで
「姫ちゃん、愛してる。」と送ってくる。

もちろん、会えば会ったで、ちゃんと顔を見て言ってくれる。

ふとした瞬間にキスをしてくることもたびたびだ。
公衆の面前で、というのはさすがにないが、
ひと気のない場所や、死角になる場所では、
私に回り込んで体をかがめて唇を寄せてくる。

それが嬉しい。

仕事が終わると「今から帰るよ」のメールが届き、
そのしばらくあとには、「ただいま」と送られてくる。

「ただいま」のメールに「おかえり」と返すと、
昨日は「ただいまのキスがしたいなぁ」とメールが来た。

そういうことを臆面もなく言ってくるNちゃんが好きだ。


ほんの短い距離を歩く時でも、必ず差し出される手。

どんな時も私の手を取ってくれるNちゃんが好きだ。

私が彼にそう言うと
「オレはふつうのことしてるつもりなんだけど・・・」と答えた。


私はNちゃんが好きだ。
土曜日の朝、数通のメールのやり取り。
「姫ちゃん、逢いたい。逢えますか?」とNちゃん。

午後1時に待ち合わせをした。
「どこに行きたい?」
「どこでも。」

そしてNちゃんが向かったのはラブホが立ち並ぶエリア。
そう、彼とはここのところ毎週のように会っているけれど、
全然していなかった・・・

けれど、
「Nちゃん、ごめん。私、生理だよ。」

「そっか、そっか。じゃあ、どこに行こうか。」

ホテルの前まで来て、私は、そう言った。
本当はそのまま入ってもよかったんだけど、やっぱり、、、と
躊躇われた。


そして、少し山のほうに行くことにした。
天気も良い。空は抜けるような青空だ。

Nちゃんは、ハンドルから左手を離して、私に差し出した。
彼の手はいつも温かい。そしてとても綺麗だ。
Nちゃんの手を取りながら、このまま時間が止まればいいのに、と思う。

山へ向かう途中、こじゃれたカフェに寄った。
お店の前の駐車場が空いておらず、少し離れた場所にとめて、
車を降りようとすると、彼は私の肩をつかんで、首を引き寄せてキスをした。
「どうしたの?」
「キスしたかったの。」
だから、やっぱり時間が止まればいいのにと思った。

駐車場からお店へ行くには1メートル程の高さの塀を下りなきゃいけない。
彼はヒョイと下りて、私を待った。

カフェで案内された席は窓際のテーブル。窓に向かって椅子が二つ隣り合う。
Nちゃんと顔を寄せて話す。その距離は10センチも離れていない。
ほんの少し近付けば、唇が触れ合う。
だから、また思った。時間よ止まれ!


カフェを出て、先に塀を上ったNちゃんは、片手ではなく、
両手を私に差し出した。手を取ると「ヨイショ」とひっぱりあげてくれた。

なんてことのないことだけれど、それが嬉しくて嬉しくて、
やっぱり時間が止まればいいのにと思った。


そして車に乗って、山頂を目指した。
仕事上で手に入れたドリームジャンボ宝くじ。
本当は厳正なる抽選のうえ、、、だったのだが、
職権を濫用して、Nちゃんを当選者にした。

連番で10枚。
一等が当たれば7億円。

そういうわけで、彼に夢をあげた。

当選番号が発表されるのは今度の木曜日。
「郵送しますか?それとも直接渡しますか?」と尋ねると、
「直接~\(^o^)/」とNちゃん。

金曜日仕事帰り
「今夜少しだけど逢えますか?」とメールが来た。

「うん。宝くじ渡さなきゃね。」

「そだね。」

「やーっぱり、宝くじ目的かぁ。私目的ではなくて・・・」

「姫ちゃん目的だよ。」


そして、Nちゃんと会った。
宝くじを渡して
「はい。誕生日プレゼントね。」と言うと、
「じゃあ、当たんなかったら、罰金だぞ。」と、彼。

彼の誕生日は今月。もうすぐだ。


7億当たったら、どうしよう・・・・
日曜日の朝、
「昨夜はゴメンね。今から散髪に行ってくる。」と、彼からメール。

私は夏物を出しながらクローゼットの整理をしていた。
正午過ぎ、「ただいま。シャワーも浴びてスッキリしたよ。」と
再びメール。

私も、「私も、汗でびしょびしょ。シャワーしてくるね。」
と送り、遅いお昼ご飯を食べてシャワーを浴びた。
しばらくして部屋に戻ると、彼から30分ほど前にメールが届いていた。
しかも2通も。

「ご飯も食べて、シャワーも浴びたよ。」
そう送ると、すぐに返信があった。

「今、インター近くのヤマダ電機に来たよ。」

お茶でもする?と返したかったが、一人じゃないかもしれない
と思いとどまった。

するとすぐに「姫ちゃん来る?」とメール。
だから「行く行く」と返信した。

ヤマダ電機まで、うちから10分ほど。
彼の家からはけっこう遠い。しかも、彼の家の近くには
別の家電量販店もたくさんあるはずだ。

きっと、私に会うために来てくれたんじゃないだろうか。
だから私がシャワーを浴びている30分の間に2通もメールがあったんじゃないか。


前日のことを気にしているんじゃないか、
それで、私に会いたいと思ってくれたんじゃないか。
・・・そう思うと、うれしくてうれしくて。
びしょ濡れの髪にタオルを巻いて、お化粧水もつけずに、
服だけ着て、家を飛び出してヤマダ電機に向かった。

駐車場にはNちゃんの青い車。
Nちゃんの車を見るだけで愛おしい。

エスカレーターで上がっていくと、彼の後姿を見つけて、
静かに近付いた。


金曜日の夜、土曜日、そして日曜日。
三日連続で彼と会った。
土曜日のかき氷事件でのガッカリ名人ぶりに、
その夜、悶々としていた私。

Nちゃんからは「かき氷美味しかったね♪」の
能天気なメールが届いた。

そんなメールを夜になって寄越すなら、その瞬間に
もっともっと素直になればいいのに・・・
そう思って、
「もっと素直になろうね。もっと優しくしてよ。」
という内容のメールを送ると、

「優しくなかったかな??
ごめん、そんなつもりじゃないんだ。」
と、途端に反省しきりのメール。

その後も、どうやら思い当たる節があったのだろう。
反省の弁が続いた。

そして、挙句の果てに届いた長文のメール。
「姫ちゃんをガッカリさせてごめん。
素直にゴメンって言えなくてごめん。
話を聞いてなくて、すぐに忘れてしまってごめん。
ゴメンしか言えなくてごめんなさい。
姫ちゃんに悲しい思いをさせている自分が嫌いだよ。」


Nちゃん・・・いきなり激しくネガティブシンキングになってる。
いつもスーパーポジティブシンキングな人が。
よほど反省しているのか、
よほど思い当たる節があるからなんじゃないかと感じた。

だから、懸命になだめて、なだめて、
「NちゃんはそのままのNちゃんのままでいいんだよ。
何も変わらなくていいし、何も変えなくていい。」
と、言って、お互いを再確認した。
「恵存」という言葉に感激したことをNちゃんに伝えた。
私の感じた気持ちを分かってほしくて・・・

なのに、、、、、、
彼から届いたメールには
「何だか難しいにゃあ~」とあった。

え?え?
何で?

「美しい言葉でしょう?感激しない?」と返すと、

「意味が分からん。」と、彼。

親指を下げた絵文字を返すと、
「海外生活が長かったもので」と、来た。

だから、もう、ガッカリして「・・・」とだけ返すと、
直後に電話が鳴った。


「姫ちゃん・・・」

「アハハ・・・どしたの?」

「どうもしないよ。」

「そうなの?ガッカリ名人で心配になっちゃった」

「そういうわけでもないけど・・・」


アハハ、、、
さすがに、ヤバいと思ったのか。
いいよ、そんなに気にしてないし。
電話で相殺するよ。
「恵存」という言葉を初めて知った。
皆さんはご存じだろうか。

「けいぞん」または「けいそん」と読み、
「お手元に置いてくだされば幸いです」という意味だそうだ。


今日、仕事で、とある先生にお会いした。
その先生がご本をくださったのだけれど、
「お名前も書いておきました。」と、扉を示された。
そこには達筆で「○○○○様 恵存 著者」とある。

私の氏名に添えられた「恵存」。
恵?存?
どうにも自信がなく、意味も分からず、
恥ずかしくて、先生に尋ねることができなかった。

打ち合わせが終わり、デスクに戻ってすぐにネットで検索してみた。
「めぐみ、そんざいのそん、、、」と。

そして・・・「お手元に置いてくだされば幸いです」という謙譲語だと
判明した次第である。


なんと美しい言葉。
美しい日本語。


久々に感激した。
Nちゃんは私をガッカリさせる名人だ。
期待には応えてくれないし、想定する答えとはまるで違う返答をする。
私の話はすぐに忘れるし、忘れたことを悪びれもしない。

「そんなことオレ聞いたっけ?違う人に言ったんじゃないの?」と、言ってくる。
挙句の果てに、
「まぁまぁ、細かいことは気にするな。」とか、
「人間は忘れる生き物なんだよ。」と、のたまう。

それがたびたびあるものだから、ちょっと腹が立つ。
「あのさぁ、『忘れててごめん』じゃないの?」
控えめに抗議しても、あくまでもしらを切る。



土曜日、正午を過ぎてしばらくしたら
「何してますか?」と彼からメール。
「何にもしていません」と返すと、「会いたいなぁ。これから会えますか?」と届いた。

シャワーを浴び、急いで身支度を整えて、待ち合わせ場所に向かって落ち合った。
「かき氷食べよ!!」
そういう彼のリクエストに応えて、近くの有名なかき氷屋さんを提案した。

「前に話したじゃん、夏になると行列ができて、猛暑日とか記録すると
ニュース映像とか新聞に出るお店だって、、、」
私がそう話すと、キョトンとするNちゃん。

「へぇー。初めて聞いた。知らない。」

・・・・そして、私は静かに抗議をしたけれど、彼には通じず、
その後も、同じようなことが繰り返された。

かき氷を食べ終わると、彼が聞いた。
「どこに行く?」

「どこでも。」

「どこでも、かぁ。このへん行くとこないよね。行き尽くしたっていうか。」

Nちゃんのこの言葉に私は激しくカチンときた。
行くとこがない?行き尽くした?
いつもいつも、突然、「今から会える?」と聞いてきて、
しかも午後。そして、彼がさぁ帰るよというのは、夕方5時。
そんな短い時間に、どこに行けるのさ。
私の都合じゃないんだよ、あなたの都合なの。

そして、私は相当カリカリした。

けれども、せっかくの時間だ。
そう思って、こらえた。

次に向かったのは、郊外の森。
そこでも、Nちゃんの無神経な言動は続いた。
「ねぇ、?今日って何かおかしいよ。耳からエイリアンが入って
脳ミソを食い尽くされちゃってるんじゃないの?」
たまらず、私は彼の無神経さを揶揄した。

それでも、私は彼との時間を大事にしようと、
それ以上は何も言わず、彼の気の向くままに任せた。

そろそろ5時。
帰りの時間。
見えないように、ふーっとため息をついて
「じゃあね。」と別れた。
ようやく仕事が一段落した。
だから金曜日は夕方早い時間にオフィスを出て、
ずっと気になっていたお店に行った。

海沿いの道をひたすら東へ、一人ハンドルを握る。
一時間半ほどして目的の店に到着。
しばらく滞在して、家路へと急いだ。

途中、Nちゃんからメールが入る。「仕事が終わって、今から帰るよ。」
付き合い始めのころは金曜日の夜、会うことも多かった。
近ごろは、私が忙しいのもあるのか、「今から逢えますか?」と
聞かれることがめっきり減った。

数通のメールのやり取りをしたけれど、やっぱり
「今から逢えますか?」とは聞かれず、私は帰宅した。
往復3時間ほど運転したせいか、クタクタに疲れた私。
Nちゃんからの「今から逢えますか?」を待っているのに、イライラしていた。

待つことないか、、、そう思って、
ほんの少し素直にメールを送ってみた。
「今日って会えますか?無理かな。会いたいなぁ、と思って。」

彼からの返事を待ちながら、半分期待して、半分諦めて、
でも、ひょっとしてと思う気持ちが、晩ご飯を作るスピードと気力を
アップさせてくれた。

しばらくして届いた返事は
「会いたいよ。8時~10時頃までだけど、いい?」
だった。

晩ご飯を作り終え、急いで家を出た。


いつものコーヒーショップに到着すると、
Nちゃんの青い車がすでにあった。


二人で向き合って、アイスコーヒーを飲みながら
ただ話をしただけだけれど、ただ見つめ合っていただけだけれど、
それがとても楽しい。

金曜日の夜にこうして会うのは、何だかトクした気分。


たまには、少し素直になってみるのもいいかな。