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姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

今更だが、初めてSkypeを経験した。

アナログな姫にとって、デジタル社会は非常に面倒だ。
(本当は便利になるはずなのに。)

仕事でパソコンは使っているものの、
決して使いこなせてはおらず、その便利さは享受できていない。
教えてくれる人もいないし、そもそも聞かないし。

ひろはパソコンはやらない(できない)し、デジタル関係は全く
手を付けない、ひどく化石化した人で、それを少しでも克服してもらおうと
去年、誕生日に姫がiPadをプレゼントした。
と言っても、全然使いこなせず、huluで映画を観たり、
ほんの少しネットで調べ物をしたりするくらいだ。

ひろがもっとデジタルに親しむ良い方法がないかと考えて、
ビデオ通話ができるSkypeを思いついた。
(ちなみに、当然、ひろも姫もガラケーだ。)

まず、姫のsurfaceでSkype登録をして、長男に試しに
電話をしてみた。
隣の部屋に居た息子は、驚いて姫の部屋に飛んできて
「どうしたの?」と言い、事情を話すと
丁寧に色々と教えてくれた。
(それから、時々、長男とはSkypeのやり取りをしている。)

次に、姫の妹にメッセージを送り、何度かテストを繰り返して、
Skypeについて学んだ。

そして、次に、ひろのiPadから、ひろのアカウント登録をした。
お店のカウンターに並んで、隣にいるひろにSkype経由で電話をした。
「もーし、もーし」

「すごい!!」

お互いの顔を見ながら、ひろにレクチャーをした。


夜はなかなか忙しくてひろとSkypeできないけれど、
ようやく覚えてくれたみたいで、昨日、ひろから電話があった。
画面に映る顔を見ながら話すと、まるで一緒にいるみたいだ。
昨日は台風の影響でかなり暇だったらしく、早仕舞いして
一人カウンターに座っているひろ。

「これいいね。僕、嬉しくなっちゃう。」
そう言いながら、何度もキスのジェスチャーをした。

笑った顔、手れた顔、全部が手に取るように分かる。
顔を見ながら話すのって、やっぱりいい。

Skypeって、すごい。
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昨日、エステに行った。
サロンを営んでいるのは姫の友人というか、後輩で、
可愛がっている女の子Cちゃん。

帰り際、次回の予約をというので
来月の下旬を指定すると
「あ・・・その日は・・・」と
歯切れが悪い。

「ダメなら、翌週で。」

「いや、ダメというか、うーん時間が・・・旦那に聞いてみないと」

Cちゃんは姫より5つ下。
旦那さんは姫と同い年。(面識はない)
Cちゃんは童顔で可愛らしく、
聞くところによると旦那は全然イケていないブサ面らしい。
しかも、Cちゃんが付き合った初めての女性だという。
しかも、Cちゃんは再婚。旦那さんは初婚。
Cちゃんには子供がいない。
「彼の子が欲しいと思わない」という理由で、だ。

それでホントに愛し合っているのか?
と、思うが、それなりに愛し合ってはいるらしい。
まぁ、色々な夫婦の形があるから、いいんだけど。


で、エステの予約を何故、旦那に確認せねばならないのか
よくよく尋ねてみると、彼女はこう言った。
「旦那が今、ももクロにはまってて・・・」

毎日ももクロのDVDを見て、ファンクラブにも入り、
Tシャツもかったらしい。


「ふーん・・・で、?」

「その日はライブビューイングなんです。抽選で当たって、
一緒に行ってほしいって言われてて。」

「えーっ、それは引くわ・・・」

「いや、私も最初は引きましたけど・・・」

「それってさ、Cがもう可愛いの対象じゃなくなったんだよ。」

「え?」

「だから、Cはもう終わったの。」

「そんなことないですよー!!」

「じゃあ、今夜、聞いてみ。
『私はもう可愛くないの?私はもう終わったの?』って、半泣きで。」



で、その夜、彼女はそれを実践した。
が、

「誰かに言われたの?」って言われました。
と、メールが届いた。


結局、エステの予約日は一週間ずらすことになり、
姫は
「結局さ、私もCもももクロに負けたんだよ。」
と、返信した。


しばらくして、「負けたんですか・・・」と、
泣き顔の顔文字でメールが届いた。



ちょっと、意地悪しちゃったかな。


でも、姫はそんなの絶対に嫌だけどな。
可愛い対象は私一人でしょ、やっぱ。
ひろは今、62歳だ。

昨日、姫は仕事でとある人と会った。
事前にその方のプロフィールを拝見した時、
生年月日の欄に目が留まった。

ひろと誕生日がほんの一週間しか変わらない。

「なるほど、この方は姫の恋人であってもおかしくないのか。」
何故だか、そんなことを思ってしまった。

昨日、実際にその方をお迎えして、実感した。
「ありえない・・・」と。

ひろと比較すれば、その方はずっと年寄りで、
恋愛対象にはなり得ないタイプだったからだ。
そう考えると、ひろは随分若々しい。


けど・・・年齢じゃないよな、とも思った。
例えば、姫と同年代の男性でも
恋愛対象にはなり得ない人もいるし、
またずっと年上の男性でも「素敵だな」と思う人もいる。
うん、やっぱり年齢じゃない。


と、すれば、何だ?

容姿は最重要ではないし、年齢じゃないし。
フィーリング?
じゃ、フィーリングって何だ?


などということを考えさせられた62歳のクライアントだった。
今週はずっと頭痛がひどい。
肩凝りと首凝りが原因だろうか。

今月初めは仕事がいくつも同時進行して、
頭がパニック状態にあったせいもあるだろう。

水曜日の夜から、予兆はあった。
頭痛に加えて吐き気がする。
朝になれば良くなっているはず・・・
そんな期待もむなしく、翌朝はひどく気分が悪く、目覚めも最悪だった。

オフィスに出勤したものの、頭痛はひどくなる一方。
次第に吐き気も強くなっていった。
我慢すればするほど、痛みと気持ち悪さに指先が震える。
これだけは何とか・・・と、
どうしても片付けなくちゃいけない仕事を終え、
携帯を手に、廊下へ出た。

「はぁい、ひろ。元気?」

「元気だよ。」

「良かった・・・あのね、私、今、死んじゃいそう。
ものすごく具合が悪い。どうしていいか分かんないほど。」

「病院行く?」

「ううん。寝たい。とにかく一緒に居て欲しい。」

「分かった。君、車運転できる?」

「無理。」

「分かった。じゃあ、すぐそっちに行くから。
タクシーでお部屋に行こう。」

ひろと電話で話している間もどんどん状態は悪くなって、
電話を切った途端、吐き気がピークに。
そして、トイレに駆け込んで、吐いてしまった。

ほどなく、ひろが迎えに来てくれたので、
タクシーでお部屋に行き、眠った。
ひろに首をマッサージしてもらうと、血が通うのが分かる。
痛いような気持ちいいような感覚だ。

午後3時から打ち合わせが入っているのでその30分前には
戻らなくちゃいけない。

1時間半ほど休むと、かなり回復して
話ができるほどになった。

「ありがとう。貴重な時間を潰しちゃってゴメンネ。」

「いいんだよ。君が僕にしてくれたことを思えば・・・
僕がしたことなんてその100万分の1にもならない。」

「ごめんね。」

「謝らないで。」

「ありがとう。」


というわけで、今も、本調子でない。
ひろと姫にとって、今、セックスはリハビリのようなもの。

以前のようにうまくいく(どちらかが、あるいは二人が満足すること)ことは
なかなか難しい。

その気になって、いざ「しよう」となっても、
できる状態にならないことが多いし、姫がやる気満々でも、
ひろに全くその気がないこともある。

姫もその気で、ひろもその気で、全てが整って
挿入したものの、ほんの数分で「アレ?」っと思うことも多い。


バイアグラがなくても、十分、コトに及ぶことができる時もあるし
やる気満々で、バイアグラを飲んでも、効果がない時もある。
そんな時は、なおさらひろを落胆させる。

先日の土曜日がそうだった。
朝から、ひろは「やりたい」モード全開だった。
なのに、昼食後、お部屋に着くなり、ひろの体調は急降下。
それどころではなくなった。

しばらくして体調が落ち着いたひろは満面の笑みで
バイアグラを服用した。「15分待ってね!」と。


けれども、それは全く反応することがなかった。全く。
バイアグラは満腹時には効果が半減するらしい。
そのせいもあるだろう。
結局、その日は、ほんの一瞬挿入するだけで終わった。


昨日の日曜日、お昼前からひろとお部屋で過ごした。
前日の反省から、ひろは食事を摂らず、バイアグラを飲んだ。
「今日は出来るかな・・・」

「いいよ、無理しなくて。出来なくてもいいから。」

「だって、僕がしたいんだもん。君を抱きたいんだ。」

ベッドの中で裸になり抱き合いじゃれ合った。

「ほら・・・こんなになったじゃないか。」
ひろが姫の手を取って導いた。
硬く熱く力がみなぎっている。
ひさしぶりのちゃんとした「セックス」だ。


「すごく久しぶりだよ・・・」

「気持ちいい?」

体位を変えても、抜け落ちることはない。
硬い芯を姫は体の中心で感じた。
何度も何度も快感の波が押し寄せて、ひろが姫の中で果てた。
滅多に射精することがないひろが、しかも正常位で。

「出ちゃったよ・・・」

「このまま・・・このままじっとしていて。」
つながったままひろを抱きしめた。

シャワーを浴びながら、姫は言った。
「今のは昨日の分だよね?まさか、もう終わりにしようって言うんじゃないよね?
今日の分はまだまだこれからだよね?」

「当たり前じゃないか~。『君が、もうやめて!壊れちゃう』って
言うまでやるよ。」
ひろが真顔で冗談を言った。

目的が達成できたので、お昼ごはんを食べに行き
ひろの用事に付き合って、再びお部屋に戻ってきた。

「さぁ、今日の分!」
姫がそう言って、ひろに絡みつくと、しばらくして
驚いたことに、ひろが反応した。
「僕、射精したのに・・・」
ひろ自身も驚いている。

「良かったね~」

そして『今日の分』をした。




夕方、ひろをお店に送り届ける途中、ひろがつぶやいた。
「良かった。借金返せて。」

「何の?」

「セックスの。」

「アハハ!そういうこと!」

「うん。昨日の分を返せた。明日の分まですりゃあ良かったな。」
ひろが笑った。
少し前からフォトフェイシャルに通っている。
寄る年波に少しでも抗おうと思って。

継続すれば効果は歴然と聞くけれど、まだちっとも実感はない。

今朝、フォトを施術してもらい、サロンの帰りに
ひろと会った。

「きれいになったかい?」

「分かんないよ、そんなの。」

「電気当ててきたんだよね?」

「へっ?『電気』??」

「違うの?」

「電気は年寄りが当てるの。
姫が当ててるのはフォト。」

「でも、電気だよね?」

「そりゃ、電源は必要だけど。当ててないから、電気は。」

「じゃあ、何当ててるの。」

「だからぁ、フォト!」

「フォトって何?フォトは写真じゃないの?」

「光!!」

「ふーん・・・」

「姫さん電気当ててるんだよ、とか言わないでよ。
どんな年寄りかと思われちゃうから。」
学生時代を共に過ごした彼Mちゃん。
彼から今も時々忘れたころにメールが届く。

3年前のあの事件(いずれ説明出来る時がくるかも・・・)の
後、どうしても会いたくて、20年ぶりに再会した。


二人で食事をして飲んで、歌って、酔っ払って
彼が用意しておいてくれたホテルのスイートの
広いベッドに少し離れて手をつないで眠った。
その時、彼は言った。
「今、姫ちゃんを抱くことは簡単だけど、
でも、そうしたくない。姫ちゃんは俺にとって
神聖なものなんだ。汚したくない。」

そして朝になる前に、彼はホテルから見える高層マンションへと
帰って行った。

会ったのはそれっきり。

もう会わないほうがいい。

お互いの青春時代の思い出を汚さないために。



昨日、疲れ果てて、一人車を運転しながら
その彼のことを思い出した。
ひろへの切ない思いが、青春時代の遠い思い出とシンクロしたのだろう。


以心伝心だろうか・・・
ついさっき、その彼からメールが届いた。
例のごとく酔っ払っている。

タバコをやめて太った、と写メ付きだ。

「青春時代、毎日一緒に居たね♡」と彼。
相当酔っ払っている。

学生時代からお酒はザル状態だった。
酔っ払っては正気を失い、すれ違う人と喧嘩した。

「姫ちゃんと喧嘩したことより、通りすがりの人と喧嘩して
姫ちゃんに迷惑かけたことばかり覚えてる。」

「そうそう。肩が当たった、当たってないって。」

「あの時はほんとごめん。パワーが有り余ってたのかな。
今はあんなパワーが有り余った若者には出会いたくない(笑)」


ひとしきり酔っ払った勢いで思い出話メールのやり取りをした。


「話は変わるけど、姫ちゃん毎日無理しないで楽しんでる?
適当に、アバウトに、ね!」

姫の性格を知り尽くしている。
行き詰まっては爆発して撃沈することも知っているのだ。

「ありがとう。大丈夫。時々爆発しながら、ボチボチとやってる。
穏やかに生きたいと思ってるけど、なかなか。
いつか穏やかに暮らせるといいなと思ってます。」

姫はひろとの近い未来を思い浮かべながら、そう返した。

しばらくして届いたメールにはこうあった。
「いつか穏やかに一緒に暮らしたいね。おやすみ。」




何と・・・


酔っ払いの戯言か・・・



遠い青春時代、激しく密度の濃い日々を過ごした。
お互いにとって、そのことはお互いのベースになっている。


遠い昔のあの頃、好きだったなぁ・・・

「痛い?」

今日、ランチの時にひろの腕を見ながら聞いた。
ひろの右腕には無数の傷跡が赤く残っている。
まるで猫にでも引っ掻かれたように。

「大丈夫だよ。」

「ごめんね。ごめんね。怒ってる?怒ってない?」

「怒ってないよ、全然。これはある意味愛の形だから。」

「体洗う時しみなかった?ヒリヒリして怒れなかった?」

「大丈夫。ニヤニヤしちゃったよ。嬉しくて。」

「何で?」

「君を感じて。」

「ごめんね。私、いつからこうなっちゃったんだろう。
小学5年生頃には既にこんな感じだったと思う。」

「嫌な小学生だね。」

「うん。でもさ、私、お母さんから褒められたことないんだけど
お母さんが死んだ後、お母さんの友達から聞いたの。
『Aちゃんはしっかりしてるから、心配がない。
あの子はちゃんとしてるから、って。いつも言ってたよ』って。
それが何か嬉しかった。」

「僕もそう思ってるよ。姫ちゃんはいい子だって、僕、
いつも人に言ってるもん。」

「嘘ばっかり。」

「ほんとだよ。君が大泣きしたり、ガブしたり、ガリしたり、
ボキしたりするなんて、言ったことないよ。」

※ガブ(噛みつく)、ガリ(爪を立てる)、ボキ(指を反らせて折ろうとする)

「何で言わないの?」

「当たり前じゃないか!そんな君と二人だけの宝物のような出来事を
他人に話すわけないじゃないか!」

ひろが笑った。




嬉しくて嬉しくて、言葉が出なかった。
ここしばらく精神状態が尋常でない。
仕事の忙しさはさほどじゃないし、家庭のトラブルも
何ということはない。(つまり、良くも悪くもないということ。)

なのに、精神状態は何というか、
カサカサの砂漠状態だ。

去年からひろの病気にかかりっきりだったことも
大きな原因だと思っている。
とにかく、何よりひろの病気のことを優先してきたから。

見返りを求めていたのでは決してないし、
逆に、ひろはとてもとても感謝をしてくれているけれど、
一方で、ひろは長く続く不調にイライラが募っていて、
それが姫に波及するような状態になっている。

ひろの精神のアンバランスさが
姫に伝染して、姫もまた精神がアンバランスになったのかもしれない。

ひろのせいにばかりしちゃダメか・・・


先週の金曜日から、姫は目に見えておかしかった。
自分自身でもそのことがよく分かっていた。

そんな時に二つ三つと心を波立たせる事が起こり
姫はさらにイライラとしていた。

そして昨日。


大爆発した。


ちょっとしたひろの言動に端を発し、
姫のイライラが止まらなくなった。
まさに『発狂』だった。

半狂乱でひろに感情をぶつけ、腕に噛みつき、
爪を立てた。
ひろは耐えて耐えて、姫をどうにか突き放さずにいてくれた。

それがひろの優しさで、姫への愛情なのに
そのことを素直に受け入れることさえできず、
姫はいつまでもひろに激しい感情をぶつけ続けた。

「止めなきゃ、止めなきゃ・・・」
心の中ではそう思うのに、ひろが返す言葉一つが気に入らないせいで
再び激しく感情が爆発する。
どうしようもなく、何度も「死にたい」とさえ思った。
「もう死んじゃったら楽なのに」と。


そういえば、ひろは終始、声を荒げるということはなかった。
「もうやめよう。」と言うことはあっても、
「僕はもう帰るね」とは言わなかった。

ひとしきり暴れて、激しく感情をぶつけて
それでもひろにしがみついたまま眠った。
ひどく泣いたせいで頭が痛かったので眠れなかったけれど、
目を瞑って静かにしていた。

「君はひと月ごとにそういうサイクルがあるね。
先月もそうだった。」
ひろが言った。

そうかもしれない。
更年期障害が始まっているのか、
年々、月経前症候群(PMS)がひどくなっている。
自分でも病的なくらいだと思う。



しばらくして思った。
やっぱり姫はひろが好きだ。
色々と思うところはある。不安もあるし、
嫌だなと思うところだってある。

けれども、やっぱり姫の心は全力でひろを求めている。


そのことが昨日、はっきりと分かった。
胃痛と頭痛は依然として収まりはしないが、
怒りは静まってきたように思う。

けれども、怒りと反比例するかのように、
虚しさが姫の心を占拠する。


姫はどうしたいのか。
どうしてもらいたいのか。


ひろを好きなのか、好きではないのか。



考えれば考えるほど分からない。




時間薬はいつ頃効いてくるのだろう。
やっぱりひろは馬鹿だった。
もう正真正銘の馬鹿だ。


今、姫はものすごく怒っている。
ものすごくガッカリしているし、悲しくもある。


そのことをどうしてひろは分からないのか?
「ごめんなさい」と、どうして心から素直に言えないのか。
「ごめんなさい」と言うほうは負けで、言われるほうが勝ちだと
きっと思っているのだろう。

そんな馬鹿みたいな負けず嫌いのプライドなんて要らない。


反省したんじゃなかったのか?!
泣けるほどに反省して、反省して人生を振り返ったんじゃなかったのか?



ひろが今日、姫に向かって吐いた言葉はこうだ。
「嫌なことは忘れるの。失敗したことも忘れるの。
そんなこといちいち覚えていたら、僕、自殺したくなっちゃう。」

「え?何、それ?反省したんじゃないの?
そんな考えは間違ってたって、言ってたよね?」

「え?僕、そんなこと言ったっけ?」



ひろはアホか?




姫はコーヒーを一口だけ飲み、カップをソーサーに戻して
「信じらんない。ビックリだよ。」
とだけ言って、一人席を立った。





ひろは、どこまでいっても姫を傷つけていることが分からない。
「傷付いてるんだよ」と言ってやっても、
「え、何で?」となる。


ひろはアホか?


「傷付いてる」と、姫が言ってんだから
姫は傷付いてるんだよ。


「僕の大事な人」
「かけがえのない人」
なんじゃないの?



誰のせいであれ、「大事な人」が傷付いていれば
その傷を癒そうとするのではないの?



ひろは「え、傷付けたのはまさか僕じゃないよね?」
と確認したいんだろう。



ひろはアホか?





姫はひろを様々なものから守り、
ひろの人生を豊かに締めくくるのための
唯一絶対の『砦』であると思っていた。



でも、アホにはアホなりの生き方があるんだ。
それがひろの人生。





私は真っ平御免だ。


「実りある未来に向かっているのか、
来たるべき破綻に向かっているのか、それは姫にも分かんない。
ねぇ、『破綻』ってさぁ、破れて綻びるって書くんだよ。
ピリッと破れて、そこからピリピリっと綻びて行くの。」

姫は感じたことをひろにそのまま話した。
ひろはうなだれている。


「愛想が尽きたら言ってよ。」
ひろが姫に言った。

「尽きたら・・・っていうか、愛想が尽きたことないから
自分の愛想のキャパシティがどのくらいあるのか分かんないし、
そもそもまだあるのか、もう既にないのかも分かんない。」



これも姫の正直な気持ちだ。
愛想が尽きたのか、尽きていないのか。

反省して変わろうとするひろを見て
放っておけない、見過ごせないと思うけれど
それが、果たしてひろへの愛情なのかどうなのか
姫自身でも全く分からない。

煩わしい・・・

そういう思いがどうしても心によぎる。



何でこうなるのさ。
倒れそうな姫をいったい誰が支えてくれるのさ。
あれからひろの反省月間が続いている。

「あの『風邪事件』で、僕は本当に反省したんだ。
もう自分のことが嫌になっちゃった。自殺したいくらい。
ほんとだよ。ほんとにごめん。だから、僕すごく落ち込んでるんだ。」

神妙な面持ちでひろが言う。



反省の時間はもう数日、一週間を超えるから
今までにない傾向であることは確かだ。

姫も今回のことでは、ひろに対していつになく
毅然とした態度を取った。


ひろはとにかく反省しているし、
「もう次はない」ということも覚悟している。
ひろにとってみれば、身から出た錆なんだから仕方がない。


ひろの反省する姿をまざまざと見せつけられて
姫は抱えた気持ちをどうすることもできないでいる。
診察受付前に到着した。
神妙なひろ。

いつまでこの反省は持続するのか。
もう騙されないし、もう次はない。


午後三時、診察が始まった。



結果は・・・
副鼻腔炎。レントゲンもとった。
片方が炎症を起こしているという。

ほら、ご覧。


「君、何で分かるの?」




分かるって、そりゃ。
仕事が忙しくキリキリしているのに加えて、事件が起こった。
もう二度とあるはずがないと思っていたひろの発作があったのだ。

先日の日曜日はひろのお店に早い時間から宴会の予約が
入っていたのもあって、久しぶりに丸一日を会わずに過ごした。
よほど忙しかったからなのか、夜になっても電話すらなく月曜日を迎えた。

姫は仕事モードのまま、ランチをするためにひろと落ち合った。
気が立っているからか、色々なことが気に障った。
ひろは見るからに疲れた表情で目は充血し、おまけに鼻声だった。

「何で鼻声?」ぶっきらぼうに聞いてみた。

「そう?寝てないからだよ。」

「風邪だね。病院だ。」

「違うよ。僕、分かるから。」

「何が?」

「風邪じゃないって。」

「そう言いながら、前にも同じことがあって
病院に行くよう言ったのに、行かずに、結局、
どうしようもなくなって病院に駆け込んだでしょ?」

「そうだっけ?」

数か月前のことだ。
同じように、姫はひろの鼻声を指摘した。
なのに頑として聞き入れず、症状はとてつもなく悪化して
病院に連れて行ったのだ。
そしてひろは「ありがとう。君には感謝してる。これからちゃんと言うこと聞く。」
そう言った。


「覚えてないの?」

「覚えてない。それに僕、薬飲んでるから。」

「だから?」

「風邪ひかない。」

「風邪薬じゃないでしょ。お腹の薬なんだから関係ないし。
先生にそう言ったら笑われたでしょ?覚えてないの?」

「覚えてない。」

「馬鹿なんじゃないの?」

「薬のせいだ。」

「何でも薬のせいにしないで。」

「とにかく、僕は風邪じゃないし病院には行かない。
これ以上薬飲みたくないし、今日はめちゃくちゃ忙しい。」

「ほんと、馬鹿だ。」

「何でそうなるの?」

「もういい。もう知らない。」

「もうご飯食べるのやめよう。こんなんじゃ楽しくないし。」

「勝手にすればいいじゃん!!!もう何も言わないし、
もう知らない。ひろの好きにすればいいよ!!!」
姫はクルリと背を向けてオフィスへと引き返した。
ひろは何かを言っていたが。


何でこうなるの?だと?
それは姫のセリフだ。
何でこうなるの?どうして?


怒りで体が震え、でも、必死で仕事をこなした。
腹立たしかったけれど、今までとは違う感覚もあった。
ものすごく冷めた気持ちでもあったのだ。
これが最後のチャンスだと、自分に言い聞かせて、ひろに電話した。

「怒ってるの?」

「僕ね、病院行くよ。3時から。もう診察券用意した。」

「ふーん。」

「ちゃんと行くからね。」

「ごめんなさい、じゃないの?」

「はい、ごめんなさい。ほんと申し訳ない。」

「仕事めちゃくちゃ忙しいし、すごく怒ってるけど
連れてってあげようか?」

「そうしてくれると嬉しいけど・・・」

「じゃあ、行くよ。待ってて。」



そして、姫は性懲りもなくひろを迎えに行った。
氷のように冷え切った気持ちを抱えたままだったけれど。



「すごく怒ってるから。」

「分かってる。ごめんなさい。」

「もう次はないから。最後だから。」

「それも分かってる。」

「すごく冷めてるから。」

「それも理解している。あの後、何であんなこと言ったんだろうって
めちゃくちゃ後悔してる。もうこれ以上こんなことしたら君は去る。
次はグッド・バイだ、って。そう思ってる。」