FC2ブログ

姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

最近、やたらとひろに口うるさく言ってしまう。
「ちゃんと薬飲んだ?」
「そんな時間に食べちゃダメだよ!」
「風邪ひくからカウンターでウトウトしちゃダメ!」
「そんな偏屈なこと言ってると嫌われるよ!」

ひろを思って言っていることが大半だけれども、
イライラしてつい言葉が過ぎることも良くある。
気を付けるようにはしているが、どうもヒートアップしてしまう。

「うるさいと思ってるんでしょ?」

「そんなことないよ。」

「うそばっかり。やかましいなぁ、って思ってるよね。」

「そんなことないよ。有難いと思ってるよ。
人はキミを気が強くて、口うるさいと思ってるかも
知れないけど、僕はそうは思わない。」

そして、ひろはこう続けた。

「男がさ、『俺は気の強い女は御免だ、勘弁してくれ』とか
『従順な女がいい』とか言うけどさ、そもそも女は気が強いもので、
従順な女なんて存在しないんだ。」


なるほど。
さすが、年の功だ。
じいじは言うことが違う!
スポンサーサイト



別段、何かがあったわけではないけれど
ただ今、低下中。

脱力感が甚だしい。

しばらく続けているダイエットも飽きてきたというか
停滞期らしく、体重が減少しない。
ついストレスで何かを食べたくなってしまう。

それに・・・よる年波に勝てないというか
老化が著しい。
鏡を見るたびに、溜息が出る。
「このオバサン、誰?」

怒涛のごとく押し寄せる年波に打ち勝つのは難しい。

こめかみの白髪がきらりと光る。
眉間のしわが日に日に深く刻まれているように思うのは
気のせいか・・・

眉間どころか、今日は目尻のしわも発見。
カラスの足跡とはよく言ったもんだ。

普段は電球色の明かりでしか自分を見ないが、
オフィスのトイレは薄暗い蛍光灯。
蛍光灯の下の自分は想像を絶するほど老化が進んでいる。
いや、『劣化』と言うほうが正しいかもしれない。

今日、仕事中に自分の劣化具合をまざまざと
見せつけられて、動揺した。

(人前に出ちゃいけないよな、こんなオバサン・・・)

もう、どうにかしてよ。
今日、ひろがわらび餅を買ってきた。
「君に食べさせたいんだ。きな粉が好きって言ってたから。」

そう、姫はきな粉が大好き。
きな粉というか、豆が大好きなのだ。

「きな粉って何でできてるの?」
何の話からか、ひろが聞いた。

「え?ウソでしょ?知らないの?」

「『きな』の粉?」

「『きな』って何よ?」

「え、ヒエとかアワみたいなの。」

「何言ってるの?大豆でしょ。煎った大豆の粉。」

「へぇ~。でも、じゃあ、何で甘いの?」

「砂糖が入ってるからに決まってんでしょ!!」



そして、ついでに聞いてみた。
「ねぇ、ひょっとして大豆と枝豆の関係は知ってるよね?」

「知らない。」

「え!?マジ・・・?」

「何?」

だから、枝豆が熟して大豆になることを教えてあげた。

「じゃあ、大豆はすごく大事じゃないか。
もっと栽培しなきゃいけないね。」

「そうだよ。だから日本の大豆の自給率が問題に
なるんじゃないの!」

ほんとに知らないのか・・・
果たして、知っていたけど忘却の彼方なのか?
日曜日は一日中、ずーっと眠った。
姫はどこかに出掛けてもいいなと思ってたんだけれど。


「パーッとメシでも食いに行こう」というひろに連れられ
蟹しゃぶのコースを食べに行った。
お腹がいっぱいになってお部屋に向かう。

お部屋に着いて、姫は一人シャワーを浴びていると
ひろが入ってきた。
「僕も入っていい?」

姫は生理二日目だ。

「赤いのが流れるけどね。」

ひろの汗を流してあげていると、ひろの手が
姫の足の間に伸びてきた。
そして後ろ向きにされ、ひろが入ってきた。
「あー、ここで今やっちゃって、ベッドに戻ったら
すぐに眠ろうって魂胆でしょ?」


案の定、バスルームを出てベッドに横たわると
ひろはたちまち眠ってしまった。
次第に外は日が傾いていく。

途中、ひろは何度か目を覚まし、そのたびに
「どうする?シャキッとするか・・・」と口にするけれど
起き上がることはなかった。

「ひろ、起きて。寝ないで。」

「だって、他にも何にもすることがないんだもん。」
そう答えるひろを蹴飛ばした。

「ごめん、って言うなら今のうちだよ。」

「うそ、うそ。ごめん。」

そんなことを何度も繰り返し、真っ暗になった。
「ひろ・・・もうこんなことしてたら夜中になっちゃうよ。」

ひろがようやく起き上がって携帯を見た。
「ほんとだ。」

「何時?」

「10時。」

「ウソだ・・・」

そう、結局そんな時間まで眠っていたのだ。

「良く寝た。疲れが取れた。」
ひろはそうつぶやいた。


前々回の診察で出された薬は麻酔成分が入っているという。
そのせいで、こんなに眠るのか・・・
日曜日、お部屋でひろを待った。
11時過ぎの電話でひろをお迎えに行くと
手には何やらチケットと祝儀袋。

お付き合いの幅広いひろは、こうして時々色々な招待を受ける。

そんな時は、ご祝儀を持って受付に行き
ご挨拶だけをして失礼する。
これまでも姫はアッシーとなってひろをホールに連れて行った。

「Aまで。」
車に乗るなり、ひろは近くの大きなホールの名を告げた。
手にしたチケットにチラッと目をやると
ナントカ吹奏楽団の名が。
そして日付は・・・6月16日。

え?!6月16日??

「ねぇ、ひろ。それ6月16日だよ。」

「え?今日は何日?」

「6月23日。16日は先週。」

その途端、ひろは大きくため息をつき落胆した。

「あのさぁ、こないだ診察は何日だった?ひろの誕生日は?
そういうことと整合性がないでしょ?」

「なんにも考えてなかった・・・」
落胆の色を隠せないひろ。

「大丈夫?ひょっとしてもう来ちゃった?アルツ?」

「パーッとメシでも食いに行くか。」
そう言って、ひろはご祝儀袋から一万円札を抜き取り
袋を握りつぶした。


ヤレヤレ・・・大丈夫か、ひろ。
ひろに作ったお弁当。
前日の夜、当日の朝とものすごく頑張った。
デザートのプリンに必要なバニラビーンズを買い忘れていたために
自宅近くのスーパーを何軒もハシゴした。

朝、万全の準備を済ませ、お部屋に行った。
シャワーを浴び、ひろに電話を掛けたいのを我慢して待つ。
11時を過ぎ、ようやくひろから電話。

体調はあまりすぐれないようだ。

ひろを車に乗せてお部屋に向かうと
「昼飯食うか」とひろ。

「うん。まずはお部屋に行くの。」

お部屋に入り、部屋に並べたお弁当を指さした。
「ほら!」

「え?」

「お弁当作ったの!ひろの誕生日だから。」

お弁当を前に、ひろは黙った。
言葉が出ないようだった。

しばらくして
「食べていい?」
とだけ言って、割り箸を割った。

姫が矢継ぎ早に何を言っても反応は鈍く、
でも、ただ言葉が出ないだけなのが良く分かった。

「愛情があふれてる・・・美味しい。
何か、幸せだ・・・」

「美味しい?これはね・・・・」
料理を説明すると

「どれも違う味がするよ。普通、全部同じ味になっちゃうのに。
全部ちゃんと違う味がする。君は利口な人だ。」

そしてひろは丁寧に食べてくれた。
想像したようなテンションの喜びようではなかったけれど。

前夜、体調がすぐれないせいで眠れなかったらしく
食事を終えると、すぐに眠ってしまったけれど。

途中、何度も起こしたのに
「ごめん、頼むから寝かせて」と言われたけれど。


でも、喜んでくれたことには変わりはないから。
ま、いっか。


ひろは62歳になった。
62歳!!
今、お弁当の下ごしらえが済んだ。
明日、このお弁当をひろの誕生日プレゼントにする。

明日も朝から準備をしなきゃ・・・

それにしても疲れた。
午後7時に帰宅してずっとキッチンに立ちっぱなし。
腰がヤバいほど痛い。


お弁当の中身は
●じゃがいものきんぴら
●赤と黄パプリカの焼きびたし
●鮭の西京焼き
●レンコン入り鶏つくね
●玉子焼き
●大豆と梅干し、じゃこのおこわ

そして
●カスタードプリン

頑張った~!

全部、ちゃんと手作りだ。
マジ疲れた・・・・

プリンはバニラビーンズ入り、ほろ苦カラメルソース。
子どもたちの大好物で
「俺らのもあるんだよね?」と出来上がりを
今か今かと待ち構えていた。

粗熱が取れて、そろそろ冷蔵庫に入れられる。
明日の昼頃にはうまい具合にカラメルが溶けて
スプーンですくうとジュワ~っと出てくるはず。



ひろは喜んでくれるだろうか。
美味しいって言ってくれるだろうか。
もうすぐひろの誕生日。

なのに、まだプレゼントを用意できていない。
何が欲しいのかも全く見当がつかない。
困ったな・・・

というか、ひろ自身誕生日というものに
こだわりはないから、プレゼントがなくってもいいんだろうけど。
毎年、姫はちゃんと贈ってきただけに、今年はやめるのもどうかと。

でもな・・・要らないものをあげてもしょうがないし。
プレゼントを贈ったその時は喜んでも
それをちゃんと活用してくれたというのはほとんどない。
ホント、そこんとこはイヤになっちゃう!!!

大事にしてくれて使わないというのも
あるのだろうけれど、それは最初のうちだけで
そのうち、何をもらったのか、誰にもらったのかなんて
すっかり忘れ去っている。
ひろはそういう人だ。

何か、腹が立ってきた・・・

姫としてはものすごく考えて、
時間もお金もかけてプレゼントをしているのだ。
そりゃ、頼まれたわけではないけれど
大事にしてくれたっていいじゃんか。

まぁ、去年贈ったiPadは辛うじて活用してはいるが・・・

大抵はどこかに仕舞われたまま。

今年はどうしようかと、そうだ、トートバッグを
欲しがっていたかなと、色々と探してみたけれど
姫がピンと来るものが見つからなかった。

で、ひろが欲しいものは何かと、もう一度考えた。
『それは、姫しかない!!!』
一番欲しいのは『姫』に決まってる。

でも、姫はいつでも目一杯あげてるからなぁ。

そうだ!
お弁当を作ってあげよう!

ひろは最近、デパ地下のお弁当に凝っている。


今度の土曜日、朝から頑張ってお弁当を作ろう。
明日、買い物して、下ごしらえして・・・
と、考えている間に、もうこんな時間!!!

面倒になってきたけど、頑張るかなぁ。
今日、診察の終わり掛けにひろが言った。

「先生、あの・・・バイアグラって出してもらえますか?」

その途端、姫はフリーズした。
おいおい・・・聞いてないよ・・・
ちょっと・・・恥ずかしいよ。
姫はもちろん、ひろに付き添って診察室に入っている。

先生が答えた。
「あ、僕んとこでバイアグラ出せないんですよ。
泌尿器科になるから。ここでかかるんだったら、手紙を書くけど、
でも、近くのクリニックで出してもらったほうが早いと思う。」

「あ、分かりました・・・」

「でも、試してみるのはいいかもしれない。」
先生が付け加えた。

恐らくセックスをすることは体にもメンタルにも
どちらにも効果があるからだということだろう。
そんなニュアンスが伝わった。

「バイアグラがなくっても、出来るんですけどね。」
よっぽどそう言っておこうかと思ったけれど
やめておいた。

恥ずかしいの上塗りになりそうだから。


診察室を出ると、ひろが得意気に言った。
「ね、僕、偉いでしょ。ちゃんと言ったでしょ。」

「もうっ、恥ずかしいよ・・・」

「恥ずかしかったの?」

「当たり前じゃん!」



今週の初めからひろが風邪をひいている。
日曜日の夜、電話で話した時の声がおかしいな、とは思っていた。

月曜日のお昼にひろと会った時にはあきらかにおかしかった。
「寝起き?声・・・おかしい。」

「寝起きじゃないよ。朝起きたらこうなってた。」

「あ!エアコンつけっぱで寝たとか?」

「違う。」

「風邪だよ、明らかに。」

「違うよ。」

「病院行こうよ。行こう。」

「大丈夫。風邪じゃないから。」

あくまでも否定するひろはこう言った。
「僕はS病院で薬をもらって飲んでるんです。
だから風邪なんかひかないの。」

「意味わかんない。そんなわけないでしょ!」

「そうなの。抗生剤も入ってるんだから。」

「違うってば!ねぇ、病院行こうよ。今から。」

けれども、ひろは拒否した。


で、日に日に具合が悪くなっていった。
常に眠そうで、体が熱い。
力が全く入らないようだ。

姫は火曜日も「病院行こうよ」と言ったのに
「行かなくていい」と答えた。

なのに水曜日、姫がキスをしようとすると
口を閉じて唇の先で姫を受け止めた。
「何だ・・・ケチ!」

「だって、風邪をひいてたらうつすといけないから。」

「自覚あるんじゃんか!」


そして今日。今日は診察の日だった。
姫から先生に「どうやら風邪をひいているみたいです」
と申告した。

「鼻声ですもんね。」

「そうなんです。なのに、この人
『S病院で薬をもらって飲んでるんだから
風邪なんかひかない』って言うんですよ。」

「アハハ・・・薬を飲んでたら風邪ひかないって
そんな薬を発明したらノーベル賞ですよ。」
先生は笑った。

「ほぉら・・・」

「じゃあ、風邪薬出しときましょうか?」

「はい、お願いします。」

で、風邪薬を出された途端、ひろの具合が悪くなった。
診断を下されたことで、風邪のスイッチが入ったようだ。

まったく・・・だから月曜日に病院行っておけば
今ごろ治っているのに。

言い訳ばっかして、言い訳大魔王だ。
土曜日、お部屋に着くとひろが言った。
「バイアグラ飲むから、シャワー浴びてしようか。」

「じゃあ、お風呂に入れてくる!」

木曜日の診察以来、ひろの調子がいい。
新しく処方されたお薬がいいのかもしれない。

バイアグラ効果で、お風呂でもした。

午後3時、ひろをお店まで送り届けて
一人お部屋に戻った姫は泥のように爆睡した。
ひろとのセックスでこんなに疲れたのは久しぶりだ。


日曜日、「お弁当を食べたい」という
ひろのリクエストでデパ地下でお弁当を買って
お部屋に向かった。
お腹いっぱいになると、「ちょっと眠ろう」と
ひろはベッドに入った。

ひろの横に滑り込むと、ひろは後ろから姫を抱きしめた。
「どうしたの・・・?」
首筋に熱い息を吹き掛けるひろ。

腰のあたりに硬いものが当たった。
「カチンカチンになっちゃった。」

「どうしたの?」

「今日はバイアグラ飲んでないんだよ。」

「どうしちゃったの?!」

「君が痩せたから。」

「ひどい!!」

「活用して。」

ひろは硬くなったものをむき出しにして
姫を跨らせた。
「姫がしたがってて、可哀想だから?」

「違うよ。僕がしたいんだ。」

そして上になり下になり、
横になり、後ろ向きになり、最後、ひろは姫の手の中で果てた。



そして、今日。
仕事のアポイントとアポイントの間が中途半端で
オフィスには戻らず、ひろとランチすることになった。
「僕、デパ地下で買い物してるからお弁当買おうか。」

ひろにお弁当を買ってきてもらい、お部屋に向かった。
次のアポイントまで1時間半。
お弁当を食べて、少し休憩。
ほんのちょっとひろを弄んでいるとたちまち反応した。
「君、時間ないだろ。」

「まぁね。」

ひろはパンツを脱ぎ捨てると、姫のパンティに手をかけた。
「やらしい・・・」

そして、急いでして、
上半身は服を着たままシャワーを浴びた。

新たに処方された薬がいいのかな・・・
それとも、メンタルな効果なのか。
良く分からないけど、姫の欲求不満は
解消されたから、当分いいや。




もうすぐひろの誕生日。
そして、来月は姫の誕生日だ。

毎年、ひろには誕生日プレゼントを贈っているし、
姫も辛うじて何かしらのお祝いはしてもらっている。
だから、不平不満なんて言っちゃいけないのだろうが、
誕生日のたびにちょっと面倒なことが起こる。

ひろは『誕生日』というものをそもそも
特別な日だと思っていない。
「僕の家は宿屋だったから、誕生日なんて
何も特別なことをやったことがないんだ。
誕生日ケーキなんてのもない。」

常々、ひろはそう言っていた。

でも、最初は違った。
付き合い始めて一番最初の姫の誕生日は
平日だったにも関わらず、お店を休みにしてくれた。
そんなこと、あとにも先にもこの1回きり。
そして誕生日プレゼントにはカランダッシュの
ペンをもらった。
ひろなりに考えてくれたのだということが嬉しかった。

次の年、「どうしていいのか分からない」と
頭を抱えるひろにヒントをあげたのだけれど
相変わらず決め兼ねて動かないことに腹が立った。
気持ちを示して欲しいのに、それが見えなかった。
誕生日の当日だったか、前日だったか忘れたが
姫は一人ティファニーに行き、自分にプレゼントを買った。

で、そのことをひろにメールした。
「今、ティファニーで自分に誕生日プレゼントを買いました。」
すると、ひろからの返信にはこうあった。
「バカ」

それ以降、毎年、何かしらの衝突が起こる。
去年だってそうだ。
去年は最悪な誕生日だった。

あまりに悲しくて「こんな悲しいことはない」
と抗議したら、ひろはこう言い放った。

「僕には何で君がそんなふうに思うのか分からない。
何で?やっぱり、君とは感覚がずれているんだよなぁ・・・」

「じゃあ、どうするの?」

「お別れするしかないね。」

それが去年のこと。
悲しくて悲しくてものすごく泣いた。


それ以来、ひろに対して何か癪に障ると
「ひろとは何か感覚がずれているんだよなぁ〜」
と、ひろの口調を真似て嫌味で言うことが定番になっている。

すると、ひろは笑ってこう言う。
「男と女なんだから感覚がずれていて当たり前じゃないか。」


今年の誕生日は果たしてどんなことが起こるだろうか。

ひろには何を贈ろうか。
今日、本社から姫の仕事の現場に新人くんが研修に来た。
今年卒業したばかりの新人くん二人。

一人は慶応、もう一人は早稲田というコンビ。
「早慶じゃん!」

「はい、こうして隣に座ってるっていうのも嫌です。」
そう言って、早稲田くんが笑った。

二人とも厳しい就職戦線をくぐりぬけてきただけあって
仕事の飲み込みも早いし、空気も読む。
大量に処理をしなくてはならない仕事があったのだけれど
まぁ、難なくこなしてくれて、大いに助かった。

ランチミーティングの時、早稲田くんは急須でお茶をつぐ。
何かにつけ、早稲田くんは点数稼ぎが上手い。

「何か男性にお茶を入れてもらうなんて
申し訳ないじゃん。恐縮しちゃうわ。」

「いえ、そんな・・・何でもやります!」

「ねぇ、あなたたちって何年生まれ?平成だよね?」

「平成2年です。」

「ぎゃぁ〜!平成2年!!
私の息子であってもおかしくないじゃない。」

「そんなわけないですよ。」

「だってさ、私もうすぐ45になるんだけど
大学卒業してすぐ産んでたらそうなるよね。」

「え?!45ですか??見えませんよ、絶対。」

「アハハ・・・ありがと。上手いね〜」

慶応くんはニコニコしているのだが、
早稲田くんはとにかくよくしゃべる。
この年齢で、すでに世渡りの術を覚えているのだろう。


来月、正式な配属が決定してそれぞれの勤務地に
赴任することになるという新人くん二人。

「じゃあ、ここに来る可能性もあるってことね。」

「そうですね。ぜに、ここに来たいです。
ここがいいです。こんな美人の皆さんと一緒に
仕事ができるなんて!最高っす。」

「アハハ・・・あんまり飛ばさない方がいいよ。」

若いって勢いがあるよなぁ。
可能性をいっぱい秘めていて・・・


今日の出来事でした。
診察が終わって、ひろとランチした。

「ごめんね。色々ありがとうございます。」

「気にしないで。全然平気。」

「今日もセックスできなくてごめんね。」

「ホントだよ〜」

「ちゃんとバイアグラ持ってるのに。」

「今度、先生に処方してもらえば?」

「君が言って。」

「やだよ。好きものみたいじゃん!」


別れ際、ようやく体調が落ち着いたひろが言った。
「ごめんね。今ごろ体調良くなって。」

「じゃあ、する?」

「時間が・・・」

「時間なんて10分あれば十分じゃん。
セックス3分、シャワー5分、着替え2分。」

「ちゃんと君を抱きたいから。待ってて。」



・・・ここのところ、そんな会話ばかりしていますが、
決して、欲求不満をぶつけてセックスを強要
しているわけではないんです。

ひろが枯れないように。
気持ちを盛り立てていこうと思って・・・
今日の診察は午前中いっぱいかかった。

ひろの具合が良くない。
(といっても、深刻な問題ではない)

そのせいで、診察が何度も中断された。

ひろ不在のまま、混み合う総合病院の診察時間を
独り占めするわけにもいかず、姫が先生と話した。
経過観察について、薬について、次回の診察について。

「お薬なんですが・・・眠くなるけどいいかな?」

「はい。車の運転もしないし、日常に不便はないはずです。
それに、そもそもどこでもいつでも眠る人なんで。」

「僕、明日お店に行くんで、その時、様子見ようかな。」

「あ、そうなんですか。」

「そうなんですよ。」
ひろの主治医はひろのお店のお客様でもある。

「じゃあ、頓服は?」と、先生。

「頓服の効果は実感していないみたいです。」

「それじゃあ、やめとこうかな。あえて出さない。」

「次回の診察なんですが・・・」

「3週間空けない方がいいですかね?」

「そうですね。長いと不安がると思います。」

「じゃあ、2週間後で。朝一に。」

「はい、お願いします。」



・・・と、こんなやり取りをして、ふと思った。。
姫は保護者か?!

全ての話が終わったころに、ひろがようやく診察室に
戻ってきた。
今、ひろから電話があった。

「今日はごめんね。」

「何?」

「ごめんね。色々と。」

「何のこと?」

「一緒に居られなかったから」


そうなのだ。
今日はお昼のひと時、ひろと過ごす予定だった。
お昼ご飯は食べずにお部屋でセックスしよう!
などと、昨日冗談半分、本気半分で話していた。

午前中の仕事を終えて、ひろをピックアップ。
ひろは浮かない表情だ。
「あんまり良くないの?」
「どうも、良くない・・・」

体調が芳しくない。
というわけで、ランチだけをしてバイバイした。


ガッカリしたことをあからさまに分かるような態度で
姫は無口になった。
ひろが悪いんじゃないのに・・・

別れ際、ひろが言った。
「ポケットにバイアグラ入れてたのに・・・」



それで、さっきの電話でひろは申し訳なさそうに謝った。
ひろが悪いんじゃないのに。


だから、姫は何でもないふうに答えた。
「全然いいよ。ノートに付けておくから。
で、積算してお返ししてもらうから。ダメ?」

「君のやることにダメだなんてことはありません。」

「え?そんな言い方・・・いいじゃん、お返しを期待してるんだから。
もう要らないからって言われるよりいいじゃない。」

「そりゃ、そうだ。」


明日また朝早くから、ひろの診察に付き添う。
超早起きしなきゃ・・・

「僕は君のことが大好きなんだ。」

「ふ〜ん、どのくらい?」

「目の前にそれがあると、どうしようもなくなるような
ものってあるじゃない。それがあれば、もう他はどうでも
よくなるようなもの。例えば、クマさんにとっての蜂蜜とか、
カブトムシにとっての樹液とか。それを目の前にしたら
どうにも理性が利かなくなるようなもの。
僕にとって、君はそんな存在なんだ。」

「アハハ・・・ひろはクマさんで、姫は蜂蜜?」


昔からひろはいつもこう。
歯の浮くような言葉を並べるのが得意だ。


『言葉』だけだけれど、ね。
あ、口だけってことか。
日曜日の夜、久しぶりに焼き鳥を食べに行った。
ひろのお店のすぐ近くにあるお洒落なお店で、
ひろとお酒を飲んでいたころは
よく二人で夜な夜な行ったものだ。

ダイエット中の姫なのだが、鶏肉ならヘルシーかと・・・

二人でウーロン茶を飲みながらアレコレと食べた。
このお店のトマトのマリネはとっても美味しい。

2011年の夏の出来事を記したブログ記事を以下に
転載する・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

7月上旬頃のこと。
平日の夜 珍しく早く店を閉めるというひろに呼ばれ
遅い晩ご飯を一緒に食べた。

オープンして1年くらいのお洒落な焼き鳥屋さんの
小さな個室に二人で納まった。
鶏料理だけでなくこだわりの野菜を使った一品も豊富で
姫はまずトマトの和風マリネをオーダーした。

小ぶりなトマトがしっかりとマリネされて
ジュレ状の液体がかかっている。
「わぁ!美味しそう〜」
姫がパクパク食べるのにまったく興味を示さないひろ。

最後の一切れを食べたところでひろが言った。
「僕も食べたかった・・・」

既にトマトは姫の口で咀嚼されている。
1秒か2秒ほど躊躇して「うーん・・・じゃあ」 
ひろのほうに身を乗り出すと、ひろも姫に顔を近づけた。
冷たさを残しつつ程よく体温を感じる咀嚼されかけのトマトは
姫の口からひろの口へと移された。

これまで水分をひろの口から直接もらうことはあったけれど
固形物は初めての経験だ。

気恥ずかしさといやらしさでたまらず
白いオシボリで姫は口を拭った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

と、まぁこんなことがあったので、

「あのね、このトマトのマリネを初めて食べた時
こんなことがあったの・・・」
と、ひろに話してみた。

「覚えてる?」

「覚えてない。」

「え?!覚えてないの?」

ひろは全然、全く覚えていなかった。
ひどいよ・・・あんまりだよ。

がっかりしたなぁ。
「今日はスッキリした顔してるね。」
ひろの顔を見て、姫が言った。

「だって・・・昨日は激しい運動したから。」
ハニカミながら答えるひろ。

「そう?そんなことあったっけ?」

「君、声が大きかった。昨日は前戯が長かったからなぁ。
またしようね!」
ランチ中、姫の胸の谷間を覗き込みながら言った。

「ヤラシイ。そんなことばっかり考えてるの?」

「そんなことばっかり考えてないよ、僕は。
大体さ、僕はそんな妄想しなくてもいつでも手に入るもん。
妄想するのは欲しくても手に入らない奴なんだ。」

「ふ〜ん。」

「何が手に入るわけ?」

「君が。」


そうか、声が大きかったのか・・・
昨日はお部屋ではなく、ひろのお店の2階にある寝床だった。
ひろのお店は街の中心部の騒がしい中にあるから、
声が大きくとも誰かに聞こえるということはない。(はずだ。)

でも・・・ひろが昨日、途中で切り上げたのは
そのせいかもしれないなと思った。
欲求不満なんだな・・・私は。
一年前の今日、ひろが倒れた。

「ねぇ、ひょっとして、今日で丸一年?」

「うん、そう。」

「そう!じゃあ、1歳の誕生日じゃん。
だって、死んでたかもしれないでしょ。
命日になったかもしれないんだよね。」

「うん、ほんと、そう。
あと1時間遅かったら死んでたって言われたから。」

「だよね。あの時生まれ変わったんだから、
今日は1歳の誕生日だね。お祝いだね。」

「だから、こうやって目の前にケーキがあるんだよ。」
おやつに買ったスイーツを目の前にしてひろが言った。

「ほんとだね・・・」

「お祝いしてくれてありがと。」
「飲んでみるよ。」
ひろは小さな粒を水で飲み込んだ。

「まがいものだよ。中国製の。
本物はさぁ、薄い水色なんだよ。」


それまでiPadで映画を見ていたひろは
姫を仰向けにしながら言った。
「体が熱くなってきた。触ってみて。」

触るとまだ柔らかく、薬の効果があるのかないのか
姫には分からなかった。

「触ってて。」
ひろに言われるままにしばらく触っていると
明らかに反応し始めた。
硬さがまるで違う。

「まがいものでも、違うんだな。」

そしてひろは性急に挿入した。

「すごく気持ちいい。全然違う。」
姫の上で動きながらひろが言う。

「当たってる・・・」

・・・うーん、確かに硬くはあるけれど、何か違う。
気分が乗らないっていうか、セックスするためにセックスしてる
っていう感じだろうか。


ひろも自分の体のことや色々が気になるようで、
結局、最後までせずに途中でやめた。

「またちゃんとしようね。」

「またって、いつ?」

「明日でも、あさってでも。昼飯食べないで
お部屋で待ち合わせてセックスしよう。だめ?」

「姫は毎日したいんだもん。」

「僕もだよ。僕も毎日したいって思ってる。
ごめんね。早く治すからね。」

「別に無理にしなくていいの。
したいって、思ってくれていればそれでいい。」

「スケベなことを考えていると、早く良くなるんじゃないかと
思ってね。だから、いっぱい考えるようにしてる。」

「アハハ・・・」
姫は“しゃこ”が大好物だ。

江戸前の寿司ネタで知っているという方もあるだろうが、
寿司ネタのしゃこで美味しいものを食べたためしがない。
だから、きっと大抵の皆さんは「しゃこって水っぽいし、まずい。」
と思っているはず。

違うんです。
それは美味しいしゃこを知らないだけ。

姫は甲殻類が大好きだけれど、姫的には
しゃこはエビよりカニより旨いと思っている。
繊細な身はまるで毛ガニのようだ。


姫の母は長崎の人で、子供のころは夏休みというと
長崎の田舎のまちに住む祖母の家で過ごした。

朝から行商のお婆さんが売りに来た
しゃこや車エビ、ヒラメが食卓に上ることが多かった。
だから、大人になるまで車エビやヒラメが高級品だとは
全然知らずにいた。
車エビは生で食べろと言われたが、ピチピチ跳ねるのが怖くて
塩焼きや茹でて食べると、祖母は
「もったいなかねぇ」と言っていたのを思い出す。

しゃこは大量に茹でてバサッと食卓に出され、
おやつのように食べた。
「とげがあるけん、ハサミば使うと。」
そうして、しゃこの食べ方を学んだ。




ひろのお友達で北海道出身の方がいて、毎年しゃこを送ってくれる。
「君に食べさせたいんだ。」
と言って、毎年ひろは姫にも分けてくれる。

初めてもらった北海道のしゃこは、姫が子供の時に食べた
あのしゃこと同じように美味しかった。
長崎で食べた以外で初めて美味しいしゃこに出会ったのだ。


今日、そのしゃこをもらった。
今年もやっぱり美味しかった。
キッチンバサミで殻の両端を切り落とし
背中をパカッと開いて身を外す・・・

子供の時に祖母から学んでいなければ
こんなの確実に出来ないよな。
しゃこの見た目はかなりグロテスクだし、
食べるのに抵抗さえあっただろう。

美味しいしゃこはあっという間になくなった。
「ちゃんと出来なくてごめんね。」
今日、唐突にひろが言った。

体調が悪くて昨夜熟睡できなかったという
ひろを眠らせていた時のこと。

「僕は君のことが大好きなんだ。本当に好き。
なのに、僕は君をちゃんと抱くこともできない。
それが、歯がゆくてしょうがないんだ。」


ひろの病気以来、確かにセックスの頻度は激減した。
いざ、したとしても途中で終わってしまうことも多い。
セックスが愛情のものさしであるような気がして
ひろがその気にならないのが、切なく感じることもあった。

そのことで、たびたび尋ねてみた。
「僕だってしたいさ。でも・・・」
体の不調が気になって、萎えてしまうという。
手術後からしたら、随分と良くなっては来たけれど、
まだまだ日常生活の面でも制限はある。
セックスだって、仕方のないことだ。

姫が憂える以上に、ひろが憂えているのだ
ということを知った。

「明日は朝から調子が良かったらバイアグラ飲むから。」

「そんな・・・いいんだよ。
姫はひろとこうしているだけでいい。」

「僕が君を抱きたいんだ。」


しばらく眠って、目を覚ましたひろはこうも言った。
「今度、Hに、あいつに言ってやって。」
Hとは、ひろの主治医の名だ。

「何を?」

「君が一番被害を被っているんだから。」

「アハハ・・・ホントだよね。」

ひろが吐血して緊急入院してからちょうど一年が経つ。
ひろと姫の関係は、セックスに反比例して、
より濃く、深くなった。

姫が触れば、いつでもどこでもすぐに反応して
「硬くなっちゃった・・・」
と、ゴソゴソと位置をずらしていたのが懐かしい。
あんなにたくさんしていたひろとのセックスが懐かしい。