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姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

姫の仕事の大きなプロジェクトが始動したため
少々忙しい。

とは言っても、ひろと会う時間もあるし
休日も今のところ、ある。


先週の木曜日は、ひろの診察の日だった。

「明日は一緒に行ってくれるの?」
前日、ひろが遠慮がちに聞いてきた。

「どこに?何しに?」
意地悪に答えてみる。


診察は9時からで、逆算すると
まずひろを7時に起こさなければならない。
姫は息子のお弁当を作り、ひろにモーニングコールをし
化粧をして、家を出た。

8時半に病院到着。
診察は殊のほかスムーズに済んだ。
ひろの状態は相変わらず良くはないけれど
先々週、先週と比較すると随分と良くはなっている。

薬局で薬をもらい、車に乗ったのが午前10時前。

「今日は早く終わったね。天気いいし、
出掛ける?○○の藤が今、満開だよ。」

一昨年ひろと見に行った藤が満開を迎えている。

「いいね。君は、仕事いいの?」

「午前中は大丈夫だから。せっかくだし、行こう!」

思いがけず、ひろと短距離ドライブで藤を見に行く。
満開を迎えているせいか、思いのほか人がいて
けれども、平日だけあって、混雑というほどではなかった。

甘い香りがひろがって、藤の房が目の前に垂れ下がる。
房を避けながら、奥へと進む。
樹齢千年ほどの古木の藤が堂々と枝を張る姿に
ひろも姫も声を上げた。

藤を見た後は、一昨年も行った
フレンチレストランへ向かった。
地元の食材をふんだんにつかった素朴なお店。
午前11時を過ぎたところだったけれど、
お店は既にオープンしていた。

ランチを終えて、次はお部屋へ向かった。
処方されたお薬は何種類もある。
だから、飲み忘れ、飲み間違いがないよう、
朝、昼、夜の分とラップに包んで小分けにするのだ。

袋から取り出し一つずつ切り離し、確認しながら
ラップに包む。
ひろは「僕は手出しをしない方がいいよね」と
そそくさとベッドに入った。

「君には本当に感謝しているんだよ!」
ひろは満足そうに布団を首元まで引っ張りあげた。

薬を分け終わると、姫はひろの横に滑り込んだ。
「少し寝よう」
ひろはそう言って、姫に足を絡ませてきたけれど
そうそうゆっくりはしていられない。
「そんなに時間がないのよ」

で、眠ろうとするひろをコチョコチョして
弄んでいると、たちまち反応。
「する?」と、ひろ。

「ん・・・じゃあ、する!」

急いで服を脱ぎ、急いでひろに跨った。


「今日はいい日だった・・・病院に行って、藤も見て、
あのフレンチも食べて、セックスもしたね。」

「フルコースだね~」
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ひろの腕をつかんで、とにかくお部屋に入った。
ベッドに倒れこむと、ひろも横に座った。

「とにかく!ひろは間違ってるから。おかしいから。
今は、お酒の事なんか全く考えちゃダメなんだよ。
ひろが病気になったのは、全部、ひろの間違った考えのせい!」

「それは違う。」
ひろはきっぱりと言った。

「間違いないの!!姫が言うんだから、そうなの!
ひろが病気になったのは、そんな考えでお酒を飲んだから。
そんな考えで体がおかしくなったんだよ!!」

「違う。」

「そうなの!!!
とにかく、もう病院に行かなくてもよくなるまで
お酒は飲んじゃダメだし、お酒のことは考えちゃダメなんだよ!」


この時には、姫は過呼吸寸前の状態だった。
しゃくり上げながら涙が滝のように流れ落ちる。

「僕が泣かしちゃったのか・・・」

「そうに決まってんでしょ!!」

「泣かないで。どうしてこうなるの?
何で難しくするんだ?」

「難しくないでしょ?ひろと姫の間のことでしょ?
シンプルなことだよ。”そうだね”ってひろが
言えば済む話でしょ?何でこんなしょうもないことに
1時間も掛かるわけ?何でこんなにバカなの?」


この辺りで、ひろの発作が収まり始めた。

「もう泣かないで。ごめんね。」

「悪いと思ってる?」

「思ってる。」

「ほんと?全部ひろのせいだと思ってる?」

「僕のせいだと思ってる。」

「何でこんなにバカなの??」

あまりにしゃくり上げるから、息が出来ない。

「そんな泣き方するな。死んじゃうぞ。よしよし・・・」
そう言って、やっと、ひろは姫を抱えあげた。


ひろの発作が始まってからちょうど1時間が経過した。

「映画行こう。ね。行こう。晩ご飯食べよう。」
シネコンはショッピングモールの中にある。

「あ、じゃあ1階のモスでいいじゃん。」

「うん、そうしよう。」

「あそこなら、お酒もないしね!!」

ひろは時々、おかしくなる。
俺様スイッチが入ったり、意地悪になったり
わざと分からない振りをしたり、とにかくイケスカナイ。

そういうことをこれから「バカの発作」と呼ぶことにした。

昨日、「バカの発作」が起こった。

長くなるが、書き記す。


昨日の夕方のこと。
ひろをお迎えに行った。

「どうする?」

「映画っていいのやってる?」

調べると『リンカーン』がちょうどいい時間にある。
近くなら2時間後。少し足を伸ばしたところにある
シネコンなら1時間半後に上映開始。

「近くのほうがいいか。じゃあメシ食おう。」

「どこで?」

「イタリアンでもいいし。中華でも。」

「お昼は洋食だったし、和食にしようよ。Cとか。」

「Cはちょっと・・・」

「そうなの?何だ・・・」
前日のお昼にCに行き、”今度、夜、来ようね!”と
ひろが言っていたのだ。だから、あえて姫はCを挙げた。

「Cみたいな店はお酒を飲まないといけないから。」

「は?そんなこと全然ないから!意味分かんない。」
Cは飲み屋ではなく、家族向けの料理屋さんだ。
団体の宴会もやるような大きなお店なのでお酒は
提供はしているが、特段、お酒を飲むお店といった
感覚ではない。

「そういうものなんです。」
と、ひろはきっぱり言う。

「だってさ、そんなこと言ったら、前に行った
ちゃんこ屋さんだって・・・あそこはいいわけ?」

「あの時もいたたまれかった。」

「今、イタリアンって言ったよね?
イタリアンだって、フレンチだってワインがあるよ?
ワインを出す店はいいんだ?」

「いや、ワインだってそうだ。」

「訳分かんない。今は、ひろは体調が良くないわけでしょ!
お酒の事なんか、全く考えなくてもいいわけ。
それに、和食のお店に行って、お酒を頼まなくても
全然いいの。そんなこと気にしなくていいんだって!!!」

「そういうわけにはいかない。僕は気にする。」

「気にしなくていいの!しないで。するな!!」

「僕は宿屋の息子だから。」
出た・・・ひろの常套句。
ひろは老舗の旅館の次男坊だ。(すでに廃業したけれど)
宿屋だからこそ、商売屋だからこそ、
そういうお店でお酒を飲まないのは失礼だと言う。

何と馬鹿馬鹿しい。

もちろん、バーでお酒を飲まないのもどうかと思う。
けれど、単なる和食のお店だ。
飲み屋街にあるわけでもない。

今まで何にも言わなかったのに
昨日になって、突然そんなことを言って
支離滅裂な理論を展開し始める。

「姫と一緒のときはそんなこと思わなくていいの。
思わないで、ってか、思うな!!!」
姫は声を荒げた。

ひろはため息をつきながら、ひどく冷たい表情で
こう言った。
「君とはどうも感覚がズレてるんだよなぁ・・・」

「ひろと感覚が合う人間なんてどこにもいない!!」

「ねぇ、ねぇ、どうしてそんな大きな声出すの?」

「ひろが訳分かんないからでしょ!」

「とにかくお酒を出すような店には行けないの。」

「じゃあ、どこにも行けないね。ひろとはこれから
ファミレスしか行けないね。ファミレスだってお酒あるし。」

「ああいうところはいいんだ。まぁ、いいよ。
君の好きなとこに行って。はい、早く車出して。」

「いやだ。行き先決まってないのに、車出せない。」

「君の好きなお店にいけばいい。」

「文句言うでしょ。」

「言わないから。」

「言うもん!!だったらもうどこにも行かない。
食べない!!!」

そして姫は車を発進させた。

「どこに向かってるの?」

「お部屋。」

「食べないの?」

「食べない!!」

「何でこうなるのかなぁ?」

「ひろがバカだから!!!」

そして、お部屋の駐車場に着くと
ひろはドアを開け降りながらこう言った。

「僕、一人で食べに行って来る。」

背中を向けるひろに走り寄って
腕をつかんだ。

「どうして行くの~!!行かないで~」
絶叫した。

「君が行かないなら、僕は一人で行く。」

「この辺にはお酒出す店しかないよ。
お酒飲めないでしょ?
そんなに飲みたいなら、飲んで死んじゃえばいい!!
そうだ、死ぬまで飲んじゃえ!!!!」
さらに姫は絶叫した。
もう何もかも壊してしまいたい。
仕事も、家のことも、人間関係も
そして、ひろとのことも。

更年期を迎えたせいなのか、
あるいは春に恒例の自律神経の乱れなのか
姫自身にも良く分からない。

ただ、とにかく
「え~い、全部、壊れてしまえ!!」
と思う。


今日は一日イライラしていた。
お昼にひろと会っても、それは変わらなかったし
むしろイライラは増幅されたようにも思う。

ひろは眠そうで、ベッドに潜り込み
姫がひろを抱えるように寄り添うと、そのまま
いびきをかいて寝てしまった。

いつもなら、そんな寝姿さえ愛しくて
頬を撫で、髪を撫で、ひろを眠らせてあげるけれど、
今日はとてもそんな気分にはなれなかった。
しがみつくひろを振り払いたくて仕方がなかった。

昨夜、一人で眠りにつく時には
「ひろ、ひろ・・・」と切なさにつぶやきさえしたのに。

色々なことが原因なんだとは思う。
仕事で大きなプロジェクトがはじまること、
ひろの相変わらず優れない体調のこと、
それから・・・
あまりにも孤独でどうしていいか分からないこと。


一昨日、学生時代の彼から久しぶりにメールが届いた。
「水曜日にそちらに行こうと思うけど、仕事かな?」

何かのついでなのかと問うと、そうではないとのこと。
「仕事が忙しくて、夕方以降なら時間が取れるんだけど」
と返信したら

「では、またの機会に」
と。

差し伸べられる手を振り払って、
完成したものを壊す。
昔からそういう傾向があったかもしれない。

今は、抱えきれない思いに
押し潰されそうだ。


明日はひろの診察の日。
こんな気持ちのまま早朝、お迎えに行く。
意地悪爺さんから一転、ひろは殊勝な言葉を繰り返す。

昨日、ひろの診察に付き添った。
「明日、付き合ってくれるの?」
前日、ひろにそう聞かれた。

「もちろん。っていうか、ついて行っていい?」

「一人じゃ心細い。それに君が一番
僕の状況を分かっているから。」


診察室に入ると、途端にひろは口下手になる。
ひろは気が弱い人だから。
こういう時に何にも言えなくなるのだ。
肝心な時に。

だから、姫が色々補足しては
差し出がましいことを言わなきゃけない。

主治医の先生も、最近では姫に向かって話す。


診察室を出ると、ひろが言った。
「色々ありがとう。」

「何?何にもしていないよ。」

「いつも言葉が足りない僕をフォローしてくれて
状況を説明してくれて・・・本当にありがとう。」

「いいえ、どういたしまして。」

「・・・僕、本当に感謝しているんだよ。
この病気だって、君がいないと乗り越えられなかった。」



時々、こんなふうに殊勝な言葉を姫に与える。
だったら、意地悪爺さんになんかなるなよ・・・
数年前なら口にしなかったことを
ひろは時々言うようになった。

それは姫との今後のこと。

少し前、病院で診察を待っている間
ひろはこう言った。
「いつか沖縄で暮らしたいな~
日がな一日魚釣って暮らしたい。」

「一人で?」

「君と。一緒に来てくれる?」

「うん!」

何気ない会話の中で言われたことが
ものすごく嬉しかった。

未来についての話はタブーのようで
二人の間では出ることはなかったし、
付き合い始めの頃、姫がしつこく迫ると
決まってひろはこう言った。
「将来のことなんて約束できない。
先のことなんて分からない。」と。


ただ「姫のことずっと好き?」という
質問にさえ、ひろはそう答えた。



先日も何気ない会話でこんなことがあった。

「あと何年かしたら僕、○○に住もう。」
幼い頃の思い出がある海辺のまちのことだった。


「誰と?」
答えは分かっていたけれど、ひろに言わせたくて
わざと聞いてみた。

「君と。僕は君なしじゃ生きていけない。」
半ば冗談のように、だけど真顔でひろは答えた。


これから先のことはまだまだ何にも決まっていないし
決めることもできないけれど、
ひろも姫も手探りで同じ扉を探し当てようと
しているんじゃないかと思っている。

何の約束もしていないけど、ね。
というわけで今週は月曜日から
ひどい意地悪爺さんに会ってしまったおかげで
気分がローな毎日だった。

月曜日ほどではないけれど、水曜日もひろは
意地悪爺さんだったし。

そんな日が続いたせいか、おかしな夢を見た。
登場したのは姫、そしてひろのお兄様。



・・・こんな夢を見た。(夢十夜ふう)
双子の姉妹が切り盛りしている
美味しいご飯屋さんがあるという。
そのことをひろのお兄様が教えてくれた。

姫は何故だかひとり、そのお店に行き、
小ぢんまりしたカウンターに座っている。
昭和レトロ満載のお店で、皆はトンカツや
カレー、ハヤシライスやハンバーグを食べている。

姫が座っていると、突然、ひろのお兄様が現れた。
そして姫に言う。

「ひろみたいなヤツはもう嫌になっただろ。
あんなヤツはもうやめておけ。
やめたほうがいいよ。」

そして姫に近づいたかと思うと
さらにこう言った。

「俺にしとけ。おれはどう?」


・・・という夢の話をひろにした。

アハハハと笑いながら、ひろは
「確かにな・・・アニキと一緒になったほうがいいぜ。
老後の心配がない。君、アニキと一緒になんなよ。」


きっと、ひろはヤキモチ焼いてるんだな。
月曜日、ド頭にくることがあった。
もちろん、その原因を作ったのはひろ。
もうアッタマにきて、どうしようもないくらい。

ひろはきっとイライラしていたのだと思う。
(そう思いたい。)
やたらと攻撃的で横柄で、口調に棘があった。

事の経緯を記すのが面倒なので詳細は割愛する。

爆発しかける感情を抑え(たぶん、お互いに)
しばらくの時間が経過し、車でひろをお店まで
送り届けた。
車を降りたひろは、ドアの窓越しに
「ダイスキダカラネ」と口を動かした。
そう聞こえたわけではないけれど、
そう読み取れた。

アッタマに来たまま、車を運転し
オフィスまで向かう途中、姫は思わず
声に出してつぶやいた。
「バカやろ~。ったく、もう、バカ!!!」

ひろのあんな態度は半年ぶり以上。
かつて俺様だった時を髣髴とさせるものだった。

午後の仕事が手につかないほど
姫の心は乱れて、ため息ばかりの時間が過ぎた。
とにかく、本当にアッタマに来ていた。

ようやく仕事が片付き始めたころ携帯が鳴った。
ひろからだ。

「僕ね、今、デパ地下で買い物したんだよ。」
努めて明るく、甘えた声を出すひろ。
デパ地下ということは、姫のオフィスのすぐ近くに
いるということを示している。

「そうなんだ・・・あのねぇ、姫はね、
意地悪爺さんのせいで、もう仕事する気が全然なくて
ほんと大変なんだから!」

「ごめんね、だから君に食べさせるチョコを
用意したんだ。お茶でも飲むかい?」

待ち合わせたカフェに行くと、バラバラとテーブルに
チョコの箱を出した。
少し前にひろが「美味しいんだ」と言った
リンツのリンドールだった。

「こんなに・・・いいよ。」

「君に食べさせたくて買ったのに。」

「そうなんだ・・・さっきね、姫は意地悪爺さんに
やられてもうヘトヘトなんだよ。
助けにきてくれなかったでしょ。今度、意地悪爺さんに
会ったら、やっつけといてね!」


あんなに意地悪爺さんだったひろが
すっかり優しい顔になって笑っていた。

まぁ、お詫びの気持ちを示したということで
許すことにした。
そうそう、「硬くなった」で思い出したんだけど。

お昼ご飯中、
「ほんと、りりーさんには必要ないよね。
もっと早くこうならないとね~」
しつこく姫はひろに言っていた。

すると、ひろは小声で言った。
「内緒だよ・・・あのね・・・」

顔を近づけるひろに耳を傾けた。

「僕、さっき薬局で聞いたの。
このお薬を飲んでて、バイアグラとか
そっち方面の薬は飲んでいいんですか?って」

「そしたら?」

「バッチリです!そっち方面も大丈夫です。って。」

「マジで?さっき聞いたの?あそこで?」

病院に一番近い処方箋薬局には、ついさっき
姫も一緒にいったのだ。

「そう。男の薬剤師だったからさぁ。」

「女だったら聞かないの?」

「恥ずかしいじゃん・・・」

「ほんとに聞いたの?」

「ほんとに聞いた。」


ひろは神妙な顔をして答えたけど。
ほんとかなぁ。


どちらにしても、ひろがそういう気持ちになったり
姫と抱き合って眠って反応したり、
そういうことは元気になったという証拠
バロメーターなのかと思うので、やっぱり嬉しい。
変な意味でなくて、ね。
りりーさんになったひろ。
今日は診察も薬局もスムーズに終わり、
10時には病院を出た。

姫は午後から仕事をするよう予定をしていたので
午前中はのんびり過ごすことになった。
まずドラッグストアに行き、少し買い物。
それからお部屋に行き、処方された薬を
1回分ずつ「朝・昼・晩」とラップにくるんだ。

これはいつも姫の役目。

そして昨夜、具合が悪くてほとんど眠れなかったという
ひろを寝かせてあげた。
二人とも服は脱がず、姫がひろを抱くように眠らせた。
ひろは数分で寝息を立て30分ほど経った時、
ひろの電話が鳴って、眠りが絶たれた。

「お昼ご飯食べに行こうか」
ひろが寝起きの声で言う。
言いながら、姫に体をすり寄せてきた。
硬いものが当たったような気がした。

ひろは意を決したように立ち上がると
「硬くなっちゃった・・・」と言って姫に示した。

「わぁ!どうして?」

「君を抱きしめてたから。」

「でも・・・リリーさんには無用の長物だね。」

ひろが笑った。

「でも、すごく硬いじゃん!」
「だよな・・・」

ズボンの下ではっきりと形が浮き出たものを
姫は撫で上げた。

「もったいないじゃん・・・」

「うん・・・でも、時間がないから諦める。」

そう言って、ひろは出掛ける支度をした。


「リリーさんになった途端に硬くなっちゃって・・・
皮肉だね~」


そう言いながら、ちょっと前は普通に
こうだったんだよなと思い出した。

『ジョン』、『ビリー』、『のぶちゃん』、『ナルオ』
ひろにかつて色々な名前をつけて呼んでいたのだけれど、
今日、新しい名前をつけた。

それが『リリー』だ。

ひろはちょっとというかかなり女っぽいところがある。
ゲイというわけではない(たぶん!?)が、
これまでの意地悪の仕方や、執着の仕方や
ペラペラペラペラと黙っていないところや
様々なところで男らしさを感じない。

姫への数々の意地悪も、女である姫への対抗心
なのではないかと思っていたくらいだ。

精神的にも身体的にも男ではあるけれど
女性的な脳を持っているような気がする。

・・・で、今日、診察が終わって
そんな話になって、姫がひろを「リリーさん」と呼んだ。
どういう流れでそうなったのか、もう覚えてはいないが。

「今日から、親友ね!」
「そうね、ずっと友達よ。」

オネエ言葉でひろと話しながら薬局に行った。
今朝は9時に診察。
7時にひろにモーニングコールし8時20分に
お迎えに行った。

ひろの具合は相変わらず良くない。
診察室に入り経過を話す。
「・・・ダメですか?!
・・・そうか、ダメかぁ・・・」
先生はがっくりと肩を落とした。

丁寧に診察して、話も一通り聞いてくれた後
「じゃあ、一週間おきに来て。」
と、来週の診察が決まった。

そして先生はこう続けた。
「あ、そうそう、来週の金曜日行ってもいいですか?
病棟の看護婦も行きたがってて・・・」

ん?と、思っていると先生はまたもこう続けた。
「今日会った時に言わなきゃって思ってたんです。
10時か10時半ごろ、10人ぐらいで伺います。」

・・・そうか!
ひろのお店の予約だ!
先生は元々、ひろのお店のお客様だった。
ここは地元で一番大きな総合病院で、昔から
その先生方はひろのお店のお客様でもあった。

個人的に面識があったというわけではないけれど・・・

診察の最後がお店の予約になるなんて・・・
変なの~

「ちゃんと電話で予約したほうがいいですか?」
と、先生が聞くので、

ついはずみで姫が答えた。
「いえ、大丈夫です。」
ひろが姫に対して意地悪をしなくなった。

そもそも
「僕は君に対して意地悪なんかしたことない」
と言うけれど、
それはそれは、過去何度も何度も意地悪をされた。

意地悪というか、何と言うんだろう・・・
イライラをぶつけられるというか、
『俺様スイッチ』が入ってしまう。

確か、最後に本格的な『俺様スイッチ』が入ったのは
去年の9月だから、半年以上も意地悪がないということ


だから、今日、ひろに言ってみた。

「ねぇ、ねぇ、どうして意地悪しなくなったの?」
「して欲しいの?」
「ううん、違うけど。あんなに意地悪してたのに
全然しなくなったから、何でかなぁ~って。」

「あ!物足りなくなったんでしょ?」
と、ひろ。


いや、物足りないってことは全然ないんだけどね。
でも、何ていうか、あんなに散々意地悪し放題だったのに
今は、それが信じられないような穏やかな毎日。
人が変わったのかっていうぐらいだ。

かつて、姫はひろを
「世界最強の自己正当化マシーン」と呼んだし
「世界一の盾と矛を持つ男」とも呼んだ。

また、あまりに独裁的なので
「ジョン」とも呼んだ。(金正日に由来)

またある時は、その多重人格ぶりに呆れて
「ビリー」とも呼んだ。
(これは昔のベストセラーのタイトルにちなむ。)


そんな全部の名前が、今のひろには全く当てはまらない。
どうして???

今に復活する、今か今かと戦々恐々としていたけれど
どうやら、全て手術で除去しちゃったようだ。

めでたし、めでたし。
ひろの病気がもたらしたものはいっぱいある。
マイナスな面ももちろんあるけれど、
ひろにとっても姫にとっても
結果としてプラスになっていることも多い。

ひろが自分の人生をきちんと振り返り、
見つめ直すきっかけにもなったし、
俺様スイッチが無くなってしまったことも
病気がもたらしたものであると思う。

今朝、姫は生理が始まったし、天気は悪いし
やけにイライラしていた。
ひろをお迎えにいくと「昼飯食いに行こう」
と言う。
時刻はまだ10時半。ランチには早過ぎる。
「まだどこもやってないよ。」
「じゃあ、Kに」と、ひろ。
近くのホテルの名を挙げた。
「何しに?」
「コーヒー飲みに」
「その後は?」
「分からない。」

行き先が決まらないのに、ひろは車を出すように
姫にジェスチャーした。
「どこに?」
「まぁ、行くか・・・」

ひろはいつもこう。
車を運転するのは姫なのだ。
なのに、行き先はいつも適当にしか言わない。
結局、姫が何もかも決めることになる。

今日は姫も体がだるくて、イライラして
そんな状況の中、車を運転したくなかった。
「どこに行くか分かんないのに運転したくない。」
「僕がKって言ったのに、君は何でって聞くから。」
「理由もなくて行きたくない。」
「じゃあ、戻ろう。」
「せっかく来たのに・・・」
「僕は買い物もしたいし、君はお部屋で寝て
いればいいい」

「姫はひろと一緒に居たくて来たのに・・・」
「来てくれてありがとう。」

言葉が続かないまま、二人で前を向いていた。
不穏な空気だけが流れていた。

「一緒に居たいのに」
「じゃあ、お部屋に行こうか。」

ひろが優しく姫の腕をさすった。
ひろの表情はとても穏やかだった。
「ごめんね。運転させて。」

「ううん、姫もゴメンね」

姫がイライラしていたから。
けれど、以前なら絶対こんなふうにはならない。
「戻ろう」と、ひろが言ったが最後。
ひろは頑なになって、心を閉ざす。

姫が悪いのだけれど、ひろがこんなふうに
軟化するのは、病気がもたらしたものなんだな・・・
と、感じた。
ひろはどう思っているか分かんないけど。
ひろが次に診察してもらうのは今度の木曜日。
前の診察からは二週間後になる。

二週間の間にひろとセックスしたのは
確か、三回、いや四回か。
今日は姫の生理が始まって、できなかった。

三回か四回のセックスのうち、ひろが
射精したのは二回。
元々、セックスのたびに射精する人ではないから、
まぁ、今まで通り。

ひろは概ね満足している。

「今度の診察の時、先生に報告しなきゃね。
こないだの診察から今日までに二回出しましたって」
先週の日曜日、ローカル線でお花見に行った日。
夜、お部屋に帰って来て、ひろとお風呂に入った。

ひろとお風呂に入るのはおよそ8ヶ月ぶり。
病気のことがあって、シャワーしか出来なかった。
お部屋の狭いバスルームで身体を寄せ合うように
バスタブで向かい合う。

「久しぶりだね・・・」
と、その瞬間の喜びを噛み締めた。

ベッドで裸で抱き合い、もつれ合う。
もう、帰らなきゃと思いながら体を重ねた。