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姫日記

恋する気持ちを持ち続けていたい姫の日記です。

先日から、何だか、痕跡に出会うことが多くて。
まぁ、私からそこを訪ねているのかもしれないが。


今日、オフィス近くにある蕎麦屋に行った。
ランチタイム、一人で。
とてもオシャレで、カフェのようなお店N。
そのマスター夫婦は美大出身で、
アートに深いこだわりがある。素敵なお店だ。

ひろとは、ここに何度来ただろう。昼も夜も。
一杯やりながら蕎麦も楽しめるので、
夜遅くまでやっている。

ひろと離れてから、何となく行きにくくなり、
随分と訪れていなかった。

今日は、どうしても蕎麦を食べたくなって、
思い立って、一人で行ったのだ。
午後1時を回っても、混んだ店内。
案内されたのはカウンターの一番奥の席だった。
食べ終えたころ、カウンターの向こうから
「お久しぶりです」と声を掛けられた。

「あ、すみません、すっかりご無沙汰しています。
ご馳走様です。美味しかった~」

「最近は○○さんと一緒じゃないんですか?」

「あぁ…そうですね。一緒じゃないですね。」

そのマスターは、ひろとも懇意にしていた。
同じ街で飲食店を経営しているヨシミだろう。

「そうなんですか…
○○さん、大きな病気されたじゃないですか、
でも、こないだ見掛けて久しぶりに挨拶したら
元気そうでした。」

「そうなんですね…それは良かった。」



まぁ、当たり障りのない会話を交わした。
マスターは私とひろの関係を
どう見ていたか分からない。
でも、単なる”知人”ではないと思っていたはず。

頻繁に二人で行っていたお店に、
突然来なくなった…何年もして、女が一人。
あんなに親しかったふうなのに、今は無関心。
そのことをどう感じたか知りようもないが、
何だかバツが悪くて、
「また来ますね~!」と、店を出た。


店を出ながら、少し前のことを思い出した。


先月だったか
「お昼ごはん食べよう。Mに行こう。」
と、Nちゃんが提案したお店は、
地元のお肉屋さんのレストラン。
肉が食べたい!と私が言っていたものだから、
「いや、そこは…」
と拒否することもできなかった。

Mの若旦那とは、長らく親しくしていた。
ひろのお店に時々ヘルプに来ていたり、
お店が終わった後に、一緒に飲んだり、
ひろと若旦那のお店にランチに行ったり。
若旦那との関わりは、ひろの関わりでもあった。

Mに足を踏み入れるのは何年振りだろう。

Nちゃんの後についてお店に入ると、
若旦那がいた。
一瞬、私を識別して素知らぬふりをしたのは、
”見なかったことにしたほうがいから”
のような気がした。

でも、私は「ひさしぶり…」と、声を発した。

「ひさしぶり~」

「元気?」

「まぁね。変わりなく、あそこにいるの?」
私のオフィスの方向を指さして若旦那が言う。

「うん。相変わらず…」

バツの悪い、よそよそしい会話をして、
席に着いた。
Nちゃんは怪訝に思ったろう。

「昔、よく来たから。」

「姫ちゃんのことよく覚えてたね。」

「お客っていうより、なんて言うか、
う~ん、”飲み友”みたいな。仲良しだったから。」

「そうなんだね。」


Nちゃんはそれ以上 、何も聞かなかったし、
私も何も言わなかった。
説明のしようもなかったし。
やましいことは何もないし。


痕跡があそこにも、ここにも。
ひろを見掛けることは全然なくなったけれど。






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秋という季節がそうさせるのか。
たそがれ時、つい感傷的な気分になる。

昨日、落ち葉の舞う、石畳を歩いた。
仕事帰りのいつもの道。
この道を、わたしはひろと何度
歩いただろうか。

ランチへ向かいながら、車へ向かいながら。
他愛ない話をしたことを
ぼんやりと思い出す。

あれから二年か…


ものすごく好きだった。
それこそ全身全霊を傾けた。
でも…今となっては
全部がぼんやりとした思い出に変わっている。

何が楽しかったのか、
何に悲しんでいたのか、
何にムキになっていたのか、
その時の感情は、もう沸き起こらない。

過去の記憶として、
ほかの雑多な記憶と同列に残されている程度だ。


そんなことをふと思い出しながら、
ひとり石畳を歩いた。

センチメンタルというわけじゃないんだけど。
ずっと、気になっていたことがある。
やらなきゃ、やらなきゃ。
いつかは、やらなきゃ。

そのことを、今日、完了させた。

数年前、もう3年ほど前になるだろうか。
ひろの誕生日にiPadをプレゼントした。
ちょうど、ひろが大病を患い、二度目の入院を控えていた時のこと。
ひろの好みにカスタマイズし、アプリを入れ、贈った。

映画好きのひろが喜ぶように、
入院中の退屈しないように、さびしくないようにと、huluを契約した。

私名義で契約したひろのアカウント。
それからずっと私の口座から毎月の支払いが引き落とされている。

ひろと付き合っていたころは毎日のようにお昼ご飯を一緒に食べ、
日曜日もお店が休みであれば、晩御飯も一緒に食べた。
仕事帰りにお店に寄って、遅くに近所の割烹やらお寿司屋やら
焼き鳥屋に行って一杯飲むことだってあった。
お酒を飲んだらタクシー代だって払ってくれた。
数年前からは私と過ごすためだけにワンルームも借りてくれていたし、
その経済的負担は、少なくはなかっただろう。

そのことを当たり前だと思ったことは一度もないし、
感謝していた。ただ、愛情の丈だと解釈してはいた。

そんなひろに対する私のささやかな返礼の気持ちを込めて、
huluを契約したのだ。

デジタルが全くできないひろに代わって取得したアカウント。
iPadのhuluにログインするたび、「○○○○さん」と、私の名前が表示された。



ひろとお別れしたのが去年の夏。
それからも、いつかは・・・と思いながらずっとそのままにしていた。
もやもやはしていたが。

それを、今日、思い切って区切りをつけたのだ。
携帯のメモ機能に残してあるひろのアドレスと、パスワードを使ってログイン。
リアルタイムの視聴履歴が表示された。

・・・今も、毎日のように習慣のようにhuluを観ているんだ・・・
「こんにちは○○さん」と、ログインするたび、私の名前を横目に。

解約手続きを続行しますか?のチェックボックスにチェックして
手続きを完了させた。
「このアカウントは10月13日以降は無効となります。」



ひろはデジタルが全くできないので、
突然、ログインできなくなるとどうしようもなくなるだろう。

それにiPadを活用しているとは思えないから、
今はほとんどhuluを観るくらいじゃないだろうか。
だから、huluにログインできなくなると、きっと、何もせぬまま放置されるだろう。
誰かに、何かを尋ねて、huluの新しいアカウントを取得するとも思えない。

これでいいんだ。
いつかはしなきゃいけないことだから。
いつまでもこのままではいられないから。

そう自分に言い聞かせて、ログアウトした。
ひろとお別れして、丸一年が経った。
もう一年も経つんだ…
それが今の率直な想い。

一年前、心が引き裂かれるような、狂ってしまいそうな時間を過ごしたことを、もうつぶさには思い出せないでいる。

ただ、客観的に、あぁ一年が過ぎたんだなと思うだけだ。

この一年、ひろと二回ほど偶然に会った。
会ったというより、見かけたという方が正しい。
二回とも、私一人じゃなかったので、ちらりと視線を交わしただけだけれど。

おそらく、こんな偶然がないように、気を付けていたんじゃないかなと、想定される。
ひろのことだから、たぶんそうに違いない。


もう一年経つんだなとしか思わないのは、Nちゃんのお陰だ。彼なしに、この一年を乗り越えることなんて、きっと出来なかった。

Nちゃんとのことは、ひろとお別れした時には、全く想定していなかったけれど。
もし、Nちゃんがいてくれなかったらと思うと、ちょっと恐ろしい。
ここのところ仕事に追われて、更新できなかったのだけれど。

数日前に、ふと思ったことがある。
夏にひろとお別れして半年が過ぎた。
この半年、ひろと偶然に会うことも、また、
見かけることもなく、
「そもそも、交わることがなかったんだな・・・」
と、妙に感慨深く思った。

以前は毎日のようにひろと歩いた、駅前の道、
地下道、スクランブル交差点を、今は一人で歩く。

そんなことを書こうと思っていたら、、、、、、
昨日、ひろと遭遇した。

仕事の仲間とオフィスのあるビルを出て、ランチに向かう途中のこと。
視界に、不自然な動きをする男性の姿があった。
急に向きを変え、後ろから大きく回り込むように前に出て
走り去っていく男性。

不自然な動きについ目が移り、そして、何となく
「ひろに似ているな、、、」と思った。
そして、その姿がもっと遠くに離れたら、
もう少し観察をしようかと、目で追ったその瞬間。
地下に降りるエスカレーターに乗ったその男性は
クルリとこちらに振り返り、私と視線がぶつかった。

ひろだった。

微笑みながら小さく手を振っている。

私は一瞬、目を大きく見開いたと思う。
時間にしてほんの2秒ほど。
私はマスクをしていたので口元に無理に作った
笑みはひろには伝わらなかったろう。

私は立ち止まらなかったし、ひろもエスカレーターで下っていったので、
それっきり何もなかったけれど、
私は何とも言えない感覚に動揺した。

話しかけてくる部下に対して、ほとんどうわの空だったろう。


ただ、それだけだけれど。
私が念じたからなのか。

とにかく、昨日、ひろを半年ぶりに見た。